不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

アンドレの失敗

 アンドレは、ミゲルのいる大聖堂の裏手を訪れた。

「よう」

「おう」

 ミゲルは、不安げな顔をしていた。

「ルッカは、まだか?」

「ああ。時間がかかり過ぎだ。遅すぎる」

「何かまずいことが起きたか?」

「いや、明かりはどの階もまだ灯っていない。大丈夫だと思うんだが」

「別の出口から出たとかは?」

「その可能性は低いと思う」

 ミゲルは、いろいろな可能性を想定しているようだが、どれにせよ、なんの確証もない。

 結論として、ここで待つしかなかった。

「そうか……」

 アンドレは、大聖堂を見上げる。

「そうしたら、オレは表側の兵士たちにも特性スープを分けてやるとするかな」

「まだあるのか?」

「ああ。お前も食うか?」

「馬鹿をいうな」

 今のミゲルに冗談は通じなさそうだった。

 アンドレは、言った通り、眠りハーブ入りのスープ鍋を持って、表側の通りに向かった。

 それが間違いだった。

 アンドレは、何人かの兵士を見かけると、スープを与えていた。

「おい、お前」

 すると、寝間着を着たままの男が、大聖堂の玄関から出てきた。

 体格がよく、精悍な顔つきだった。

 しかし寝癖などもあり、アンドレは交代の兵士が着替えを忘れてきたんじゃないかと思った。

「よかったら、目覚めのスープいかがですか?」

「誰の許可を取って、配膳をしているんだ?」

「聖戦士のユーダロス様です」

 寝間着の男は、黙ってアンドレに近づいた。

「どうぞ」

 男は、皿に注がれたスープに鼻を寄せる。

「美味しいですよ」

 アンドレは、なにかおかしいと思った。

 男は、皿のスープを飲まずに鍋の中に戻した。

「お前、眠りのハーブを入れたな」

 逃げようとしたが、すばやい動きで、腕を掴まれた。

 男は強靭な力の持ち主だった。

 片腕だけなのに、全然振りほどけそうにない。

「裏通りの兵士たちが、みな居眠りをしているという報告があった。お前の仕業か」

「い、いえ。私はただ、ユーダロス様の指示通りにですね……」

「オレがそのユーダロスだ」

 アンドレは絶句した。

 通りで、並みの力ではない。

 部下を呼ばれて、アンドレは連行された。

「こいつ、近くの料理店でみたことがあります」

 アンドレに運がなかったのは、兵士の一人が、下働きに出ている料理店の常連だったことだ。

 すぐに面が割れてしまった。

 それでも、どんな拷問をされようとも、ルッカや、ミゲルの計画を口にするつもりはなかった。

 実際、鞭で打たれても、爪を剥がれてもアンドレは何も喋らなかった。

 むしろ、切れた唇で、憎まれ口や皮肉を口にしたほどだ。

 しかし、聖戦士ユーダロスに、母の名前を出された。

「卑怯者! 母さんは関係ないだろう!」

「母親の育て方にも問題があったのだろう。お前が何も言わなければ、代わりにお前の母親を鞭打つだけだ」

 アンドレはうなだれた。

「すまない、すまない……」

 そうして、泣きながらアンドレは、ルッカたちの計画を白状した。

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