不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

暗闇を抜けて

 夜の階段は、暗闇だった。

 ルッカは、工具の中から小さなローソクを取り出して、火をつけた。

 長居するつもりなどなかったから、これ一本しか持っていない。

 階段は、三階分より長かった。

 おそらく地下にまで続いている。

 階段が終わるより早く、ローソクは消えてしまった。

「アナ、しっかりつかまって」

 ルッカは、足元に気をつけながら、アナの手を引いた。

 階段が終わると、長い通路が伸びていた。

 闇に包まれ、方向も長さもわからない。
 
 狭い通路だったから、壁に手を立てながら進んだ。

 暗闇に目が慣れることはなかった。

 例の声は、また聞こえなくなっていた。

「なんで、あの部屋にいたんだ?」

 しばらく無言だったが、ルッカは、意を決して聞いた。

 怒るつもりはなかったが、声はぶっきらぼうになった。

 アナは返事をしなかった。

「なぜ、丘で待っていてくれなかったんだ?」

「蒼の水晶は、手に入れたの?」

「……ああ。手に入れたよ」

「すごい! あとで見せてね」

 今度は、ルッカが押し黙った。

 聖戦士ハーメルン。

 金髪で、グレンを倒した剣の達人。

 金髪をなびかせ、女たちを魅了する美貌の持ち主。

 アナとハーメルンは、彼の部屋で二人きりで、しかも、服を着ていなかった。

 二人の間に、いったい何があったのだろう?

 暗闇が、ルッカに嫉妬と焦燥を煽った。

 オレは、仲間たちを危険な目に合わせてまで、何をやってんだろう。

 大事な神の聖遺物を盗むなんて、罪深いことをしている。

「あの人は、アナの親父さんを殺害した犯人を探してくれていたんだじゃないのか?」

「ルッカ」

 アナが、突然、背後から抱きついた。

「落ち着いたら、ちゃんと話すから」

 アナの体温が、ルッカの気持ちを和らげた。

「今は私を信じて。ごめんなさい、約束を守らなくて。でも、あなたと湖の向こうの国へ行く。そして、一緒に暮らす。あなたと結婚する」

 ギュッと、強く抱いてきた。

 アナも不安なのだろう。

 ルッカは振り返って、アナを抱き返した。

 闇で見えないが、そばにいる。

 自分からキスをした。

「君が好きだ。初めて会ったときから」 

 アナは、ルッカの首に手を回し、より深く求めてきた。

「君を信じるよ」

「ありがとう」

 短い時間だったが、舌を絡めて、お互いを確かめあった。

 やがて、歩きを再開した二人は出口にたどり着いた。

 行き止まりだが、壁に梯子が掛けられている。

 登ると、ドアがあった。

 外の様子をうかがうと、わらが積んである。

 どうやら納屋のようだ。

 納屋の窓から、大聖堂が見えた。

 距離が離れていたが、各階には明かりが灯されている。

 蒼の神玉がないことに気づかれたに違いない。

 建物からは脱出できたが、ここからユウの舟に乗るまで、まだまだ安心とは言い難かった。

「急ごう」

 二人は納屋から中央通りに一度出て、裏通りに入り込む。

 途中、何人か寝ている衛兵に出くわした。

 アンドレの仕業だとルッカは気が付いた。

 彼が眠りのハーブ入りのスープを振る舞ったのだ。

 息つく暇もなく、二人は路地を走った。

 やがて、グレンが待つ森が見えてきた。

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