不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

それぞれの気持ち

 ユウは、父と兄たちが寝たのを確認すると、家を出た。

 家の近くに、ウル湖にのぞむ船着場がある。

 ユウは、父の舟のロープをほどき、乗り込んだ。

 岸から離れると、灯りを付ける。

 向かう先は、丘の下の浜辺だ。

 そこで、ルッカとアナを待つ。

 そのまま、ウル湖を渡り、二人を隣の国へと送り届ける。

 無事に付けるか不安はあった。

 操舵だって、父の見よう見まねだ。

 自信があるわけではない。

 しかし、舟を一人で扱うのは、爽快だった。

 小さな頃から、憧れていたことだ。

 ルッカへの気持ちは、とりあえずしまっておこう。

 私は、私の役目をしっかりと果たす。

 書き置きは残した。

 確実に、父から大目玉を食らうだろう。

 舵を取りながら、なぜか笑いが込み上げていた。

 ユウは、すべて覚悟の上だった。

 一方、街の外れでグレンは、馬を引いていた。

 森に近い場所だった。

 そこで、ルッカを待っていた。

 蒼い満月が、中天に差しかかろうとしている。

 グレンは、待っている間、自分の過去を思い返していた。

 幼い頃、彼の父は、母に乱暴を働いていた。

 グレンは母を守ろうとしたが、力のない子供に、止めることはできなかった。

 母は結局、父の暴力のせいで、死んでしまった。

 グレンは、父を問い詰めようとしたが、父も、母の後を追って、すぐに自らの命を絶った。

 グレンは途方に暮れた。

 父は心の弱い人だったのだと、地元の神父は慰めた。

 幸い、それなりの財産は残してくれので、生活には困らなかったが、グレンはこの後、どのように生きていけばいいのかわからなかった。

 近所に住んでいたルッカが、毎日のように遊びに誘ってくれた。

 彼も、幼い頃、呪雨で両親を失っている。

 元々親しくはしていたが、両親を失い、さらにルッカへ親近感が湧いた。

 そのルッカが、グレンに言ったのだ。

「お前が、強く生きれば良いだけじゃんか」

 父と母の分も。

 そしてグレンは、そのときから、最強の戦士になることを決意した。

 一方、アンドレは、大聖堂に近い路地にいた。

 鍋を持ち、王宮の兵士たちにスープを振る舞っていた。

 スープには、催眠性のあるハーブを入れてある。

 夜警の兵士たちもこれを飲めば、そのうち眠くなるだろう。

 ルッカの渡した握り飯にも入れていたが、あちらは特別性だった。

 もしかしたら、失神するかもしれなかったが、結果、意識を失うのは同じことだ。

 かまわないだろう。

 アンドレは、今回のイベントを楽しんでいた。

 人生は短いし、青春はもっと短い。

 何かしらの達成感を得てから、大人になりたかった。

 子供時代にしかできない無茶を、最後にやっておきたかった。

 ルッカが、その機会を与えてくれた。

 ありがとな。

 アンドレは、そんなことを思いながら、王宮の兵士たちに次々とスープを注いでいった。

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