不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

魔の融合

 食べていた兵士の口から、泡が吹いている。

 顔は急速に青黒くなり、意識を失って倒れた。

「貴様、どういうことだ!」

 ルッカも驚いた。

 とても眠りのハーブのせいとは思えなかった。

 アンドレは、毒でも入れたのだろうか?

 しかし、もう一人の兵士が動き出したので、ルッカはくるりと背を向ける。

 なんにせよ、これも予定通りだった。

 兵士が一人になった分、逃げるのも楽になった。

 ルッカは、ミゲルの指示したルートを兵士が付かず離れずの距離を取りながら、走った。

 そして、封印の部屋の前に来ると、扉を開け、中に入った。

 埃っぽい部屋だった。

 骨董品のような土器や水晶や人形が、棚に並べられている。

 扉に耳を当てて、兵士が廊下を通り過ぎるのを待った。

 ルッカ、よく来てくれた。

「え?」

 すると、唐突に、声が聞こえた。

 声といっても、耳で聞いたわけではない。

 直接、頭の中に響く声だ。

 数日前、アナの屋敷から帰るときに聞いた声。

 たしか、あのとき、封印の部屋へ来てと言ってなかったか。

「誰れかいるのか?」

 ぼくは君だよ、ルッカ。

 ぼくもルッカ。

 もう一人の君だ。

「?」

 意味がわからない。

 だろうね。

 知性の大半はぼくのものになり、君はちょっとおバカになったからね。

「何言ってんだ? オレがルッカだ!」

 ルッカは、腹が立って扉から離れた。

 声は、骨董品の中のどこかから聞こえた。

 ここだよ。

 一つの水晶がキラリと光る。

 ルッカは歩み寄って、手に取った。

 透明の、片手で収まるくらいの小さな水晶だ。

 割ってくれ。

 そうすれば、ぼくらは一つになれる。

 少しだけ迷った。

 しかし、ルッカは気にせずに水晶を床に叩きつけた。

 水晶は、乾いた音を立てて、さらさらに砕けた。

「?」

 ルッカはかがんで、砕けた水晶をまじまじと見つめる。

 何も起こらない。

「なんだ? やっぱりオレの勘違い? 空耳?」

 と、つぶやいた瞬間、風に押されるような衝撃が全身に走った。

 一瞬、鏡写しのように、目の前に自分の姿が見えた気がした。

 本人より、ほんの少しだけ、優しげで理知的な目をしている。

「え? なに?」

 しかし、そのあとは何事もなかったかのように、割れた水晶があるだけだ。

 魔。

 そんな言葉が浮かんだ。

 幽霊のように、姿はなく、声だけの存在。

 心配しなくていい。

 ぼくは、悪いやつじゃない。

 だって、君なんだから。

 しかし、少し休ませてもらうよ。

 声は、それを最後に聞こえなくなった。

 ルッカは、しばらく呆然としたあと、本来の自分の役割を思い出した。

 そうだ。

 オレは、蒼の神玉を盗みに来たんだ。

 どうせ、考えてもよくわからない。

 とりあえず、今は忘れよう。

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