不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

決行前夜③

「アナ……」

「ルッカ」

 私は、ルッカの温もりを肌で感じていた。

 ルッカの手が、優しく髪を撫でる。

「細いのに、筋肉質なのね」

「カイゼル叔父さんの手伝いで、ずいぶんと鍛えられた」

 私は、ルッカの腹筋の線をなぞる。

 ルッカは、決して自分から私の体に触れようとはしなかった。

 私を大事に思ってくれている。

「いいのよ、触って」

 私がそう告げると、いつも顔を赤くした。

 彼は、私の反応を見ながら、嫌じゃないか、痛くないか、と聞いてくれた。

 野暮ったいと思わないでもなかったが、その優しさは、ルッカの長所の一つだった。

 長所といえば、私を驚かせたのは、その指先だ。

「本当に……初めてなの?」

 ルッカの細長い指は、繊細だった。

「うん……アナが初めてだよ」

 不思議な感触とリズムに、自分自身が楽器になった気分だった。

 ルッカに触れられると、たまらず声が溢れた。

 とろける快感に、下半身が泉になったようだ。

 ルッカとの触れ合いは、私に不幸を忘れさせた。

「いよいよ、明日だ」

 行為が終わった後、ベッドに横たわりながら、ルッカは、天井を見上げてつぶやいた。

「明日、オレは、大聖堂から蒼の神玉を盗む」

 私は、彼に寄り添いながら、静かにうなずいた。

「一つ、お願いがあるんだ」

「なに?」

「初めて出会ったウル湖のほとり、覚えてるかい?」

「うん」

 ルッカのセリフで、出会いの場面がよみがえる。

「あそこから少し登ると、オレの両親の墓がある。そこで、明日の夜、オレを待っていてくれないか」

 ルッカは、私を見つめた。

「盗みを働けば、罪人だ。追われる身になる。もう、この国にはいられない。遠くへ逃げなきゃならない」

 私は、見つめ返した。

「一緒に来てくれないか?」

 もう一度、そう言ったルッカに、私はもちろん、とうなずいた。

「成功しそう?」

「ああ。ミゲルは頭がいいんだ。オレの友達にはもったいない。あいつの考えた作戦だから、うまくいくさ」

 そうは言っているが、ルッカの表情には、かすかな緊張が浮かんでいた。

「私に、出来ることはない?」

「今言ったろ? 丘にある墓の前で待っていてくれ。そして、無事に逃げることができたら」

 私は、ルッカの唇を自分の唇でふさいだ。

 舌を入れた。

 愛情たっぷりに舐め回す。

 私は、唇を離してから、ルッカが我に帰るより早く答えた。

「無事に逃げることができたら、あなたと結婚する」

 ルッカは、一瞬驚いた顔をした。

 そのあと、満面の笑みを浮かべた。

 私は微笑みを返した。

 しかし、内心、別のことを考えていた。

 あの男が、きっとルッカの邪魔をする。

 なんとかしなくては、ルッカの命が危ない。

 私がなんとかしなくては。

 私が。

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