不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

決行前夜②

「どうして……?」

 アンドレもグレンも、信じられない様子だ。

「彼女がくれたんだ」

 ルッカは言った。

 アンドレは、思わず疑念を口に出した。

「ルッカ、それは本物か? どうやったら彼女がそれを手に入れることができる? 明らかにおかしいよ。お前、本当は、からかわれているだけなんじゃないのか?」

「たしかに、みんなはそう思うかもしれない。どうやって手に入れたか聞いても、彼女は、絶対に教えられないの一点張りだった。しかし、アナは、嘘なんかつかない。オレは信じる」

 アンドレとルッカの視線がぶつかった。

 仲裁に入るように、ミゲルがアンドレの肩に手を置いた。

「オレもよく調べさせてもらった。どうも、本物っぽいんだ、これが」

「見せてくれて」

 グレンが手を伸ばした。

 ルッカは、鍵を手渡した。

 グレンは、指先で回して何度も確認した後、アンドレに渡した。

 金の縁取りのある真鍮製で、精巧な筆致で、聖獣ライアロウが刻まれている。

 特殊な鍵であることに間違いない。
 
 アンドレは、慎重に鍵を調べた。

 結論は、ミゲルと同じだった。 

「なんだか腑に落ちないところはあるが、信じよう」

「続けるぞ」

 アンドレがしぶしぶ納得した後、ミゲルは脱出の経路について説明した。

「壁伝いで、また大聖堂の外へ出たら、この筋道に入るんだ。グレンが、馬を用意して待っている。それで、森を抜けて、丘を登れ。お前の両親の墓の前だ。そこで、アナに待っていてもらう」

「アナに?」

「そうだ。それは、ルッカ、お前から話してくれ。彼女も関わってしまった。もしばれれば、お咎めなしとはならないだろう。丘のすぐ下の浜辺に、ユウが舟を着けてくれる。それで、湖の向こうに渡るんだ」

 グレンが言葉を引き継いだ。

「湖の向こうの国に、オレの借りた家がある。しばらく、そこに身を隠せばいい」

「グレン……」

 ルッカは、グレンを見た。

「オレのために、そこまでしてくれるのか……」

 感謝のあまり、目に涙が浮かんでいた。
 
「それに、ユウも……」

「わ、私はただ」

 ユウが口を開いた。

 ここまでじっと黙って聞いていたが、ルッカの反応に憎まれ口が叩きたくなったようだ。

「私はただ、舟の操舵がしたかっただけよ! 女だから出来ないというは、元から納得してなかったの。だから、だから、良い機会だと思ったのよ!」

 ミゲルは、そう言い放つユウを悲しそうに見ていた。

「すまん……結局、お前も巻き込んでしまった」

 二人を乗せる舟は、父親に黙って借りてくるのだ。

 ユウも、後でこっぴどく叱られるだろう。

 ミゲルの計画を聞き終えると、五人はしばし沈黙した。

 これで、彼らの青春時代に幕が降りるのを、それぞれ実感していた。

「ああ、そうだ」

 ふと、ユウが懐から、何か取り出した。

 それを一つずつ、ミゲル、アンドレ、グレンの三人に渡す。

「御守りよ。地元の教会でもらってきたの。みんなに幸運がありますように」

「オレには?」

 ルッカが、不満げに自分を指差す。

「実行するのは、オレなんですけど」

 その言い方が気に入らなかったのか、ユウは、もう一つ、持っていたものを、ルッカの手のひらに叩きつけた。

 それはら小さな、白い貝殻だった。

「なんだよ、これ? オレにも同じものはないのか?」

「湖で拾ったの! あんたにはそれで充分!」

「まじか。まあ、いいや。もらっとくよ。ありがとな、ユウ」

 ミゲルは気が付いた。

 ユウが渡したのは、夫婦貝と呼ばれる貝殻だ。

 二枚貝の一種で、俗説によれば、男女が一枚ずつ持っていると、遠く離れていても心が通じ合うという。

 ミゲルがユウを見ていたら、ユウは避けるように目を伏せた。

 おそらくユウは、そのもう一枚を、大切に自分の身に着けているのだろう。

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