不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
決行前夜②
「どうして……?」
アンドレもグレンも、信じられない様子だ。
「彼女がくれたんだ」
ルッカは言った。
アンドレは、思わず疑念を口に出した。
「ルッカ、それは本物か? どうやったら彼女がそれを手に入れることができる? 明らかにおかしいよ。お前、本当は、からかわれているだけなんじゃないのか?」
「たしかに、みんなはそう思うかもしれない。どうやって手に入れたか聞いても、彼女は、絶対に教えられないの一点張りだった。しかし、アナは、嘘なんかつかない。オレは信じる」
アンドレとルッカの視線がぶつかった。
仲裁に入るように、ミゲルがアンドレの肩に手を置いた。
「オレもよく調べさせてもらった。どうも、本物っぽいんだ、これが」
「見せてくれて」
グレンが手を伸ばした。
ルッカは、鍵を手渡した。
グレンは、指先で回して何度も確認した後、アンドレに渡した。
金の縁取りのある真鍮製で、精巧な筆致で、聖獣ライアロウが刻まれている。
特殊な鍵であることに間違いない。
アンドレは、慎重に鍵を調べた。
結論は、ミゲルと同じだった。 
「なんだか腑に落ちないところはあるが、信じよう」
「続けるぞ」
アンドレがしぶしぶ納得した後、ミゲルは脱出の経路について説明した。
「壁伝いで、また大聖堂の外へ出たら、この筋道に入るんだ。グレンが、馬を用意して待っている。それで、森を抜けて、丘を登れ。お前の両親の墓の前だ。そこで、アナに待っていてもらう」
「アナに?」
「そうだ。それは、ルッカ、お前から話してくれ。彼女も関わってしまった。もしばれれば、お咎めなしとはならないだろう。丘のすぐ下の浜辺に、ユウが舟を着けてくれる。それで、湖の向こうに渡るんだ」
グレンが言葉を引き継いだ。
「湖の向こうの国に、オレの借りた家がある。しばらく、そこに身を隠せばいい」
「グレン……」
ルッカは、グレンを見た。
「オレのために、そこまでしてくれるのか……」
感謝のあまり、目に涙が浮かんでいた。
「それに、ユウも……」
「わ、私はただ」
ユウが口を開いた。
ここまでじっと黙って聞いていたが、ルッカの反応に憎まれ口が叩きたくなったようだ。
「私はただ、舟の操舵がしたかっただけよ! 女だから出来ないというは、元から納得してなかったの。だから、だから、良い機会だと思ったのよ!」
ミゲルは、そう言い放つユウを悲しそうに見ていた。
「すまん……結局、お前も巻き込んでしまった」
二人を乗せる舟は、父親に黙って借りてくるのだ。
ユウも、後でこっぴどく叱られるだろう。
ミゲルの計画を聞き終えると、五人はしばし沈黙した。
これで、彼らの青春時代に幕が降りるのを、それぞれ実感していた。
「ああ、そうだ」
ふと、ユウが懐から、何か取り出した。
それを一つずつ、ミゲル、アンドレ、グレンの三人に渡す。
「御守りよ。地元の教会でもらってきたの。みんなに幸運がありますように」
「オレには?」
ルッカが、不満げに自分を指差す。
「実行するのは、オレなんですけど」
その言い方が気に入らなかったのか、ユウは、もう一つ、持っていたものを、ルッカの手のひらに叩きつけた。
それはら小さな、白い貝殻だった。
「なんだよ、これ? オレにも同じものはないのか?」
「湖で拾ったの! あんたにはそれで充分!」
「まじか。まあ、いいや。もらっとくよ。ありがとな、ユウ」
ミゲルは気が付いた。
ユウが渡したのは、夫婦貝と呼ばれる貝殻だ。
二枚貝の一種で、俗説によれば、男女が一枚ずつ持っていると、遠く離れていても心が通じ合うという。
ミゲルがユウを見ていたら、ユウは避けるように目を伏せた。
おそらくユウは、そのもう一枚を、大切に自分の身に着けているのだろう。
アンドレもグレンも、信じられない様子だ。
「彼女がくれたんだ」
ルッカは言った。
アンドレは、思わず疑念を口に出した。
「ルッカ、それは本物か? どうやったら彼女がそれを手に入れることができる? 明らかにおかしいよ。お前、本当は、からかわれているだけなんじゃないのか?」
「たしかに、みんなはそう思うかもしれない。どうやって手に入れたか聞いても、彼女は、絶対に教えられないの一点張りだった。しかし、アナは、嘘なんかつかない。オレは信じる」
アンドレとルッカの視線がぶつかった。
仲裁に入るように、ミゲルがアンドレの肩に手を置いた。
「オレもよく調べさせてもらった。どうも、本物っぽいんだ、これが」
「見せてくれて」
グレンが手を伸ばした。
ルッカは、鍵を手渡した。
グレンは、指先で回して何度も確認した後、アンドレに渡した。
金の縁取りのある真鍮製で、精巧な筆致で、聖獣ライアロウが刻まれている。
特殊な鍵であることに間違いない。
アンドレは、慎重に鍵を調べた。
結論は、ミゲルと同じだった。 
「なんだか腑に落ちないところはあるが、信じよう」
「続けるぞ」
アンドレがしぶしぶ納得した後、ミゲルは脱出の経路について説明した。
「壁伝いで、また大聖堂の外へ出たら、この筋道に入るんだ。グレンが、馬を用意して待っている。それで、森を抜けて、丘を登れ。お前の両親の墓の前だ。そこで、アナに待っていてもらう」
「アナに?」
「そうだ。それは、ルッカ、お前から話してくれ。彼女も関わってしまった。もしばれれば、お咎めなしとはならないだろう。丘のすぐ下の浜辺に、ユウが舟を着けてくれる。それで、湖の向こうに渡るんだ」
グレンが言葉を引き継いだ。
「湖の向こうの国に、オレの借りた家がある。しばらく、そこに身を隠せばいい」
「グレン……」
ルッカは、グレンを見た。
「オレのために、そこまでしてくれるのか……」
感謝のあまり、目に涙が浮かんでいた。
「それに、ユウも……」
「わ、私はただ」
ユウが口を開いた。
ここまでじっと黙って聞いていたが、ルッカの反応に憎まれ口が叩きたくなったようだ。
「私はただ、舟の操舵がしたかっただけよ! 女だから出来ないというは、元から納得してなかったの。だから、だから、良い機会だと思ったのよ!」
ミゲルは、そう言い放つユウを悲しそうに見ていた。
「すまん……結局、お前も巻き込んでしまった」
二人を乗せる舟は、父親に黙って借りてくるのだ。
ユウも、後でこっぴどく叱られるだろう。
ミゲルの計画を聞き終えると、五人はしばし沈黙した。
これで、彼らの青春時代に幕が降りるのを、それぞれ実感していた。
「ああ、そうだ」
ふと、ユウが懐から、何か取り出した。
それを一つずつ、ミゲル、アンドレ、グレンの三人に渡す。
「御守りよ。地元の教会でもらってきたの。みんなに幸運がありますように」
「オレには?」
ルッカが、不満げに自分を指差す。
「実行するのは、オレなんですけど」
その言い方が気に入らなかったのか、ユウは、もう一つ、持っていたものを、ルッカの手のひらに叩きつけた。
それはら小さな、白い貝殻だった。
「なんだよ、これ? オレにも同じものはないのか?」
「湖で拾ったの! あんたにはそれで充分!」
「まじか。まあ、いいや。もらっとくよ。ありがとな、ユウ」
ミゲルは気が付いた。
ユウが渡したのは、夫婦貝と呼ばれる貝殻だ。
二枚貝の一種で、俗説によれば、男女が一枚ずつ持っていると、遠く離れていても心が通じ合うという。
ミゲルがユウを見ていたら、ユウは避けるように目を伏せた。
おそらくユウは、そのもう一枚を、大切に自分の身に着けているのだろう。
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