不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

教皇ゼウシス

 「さて、聖戦士の皆様」

 教皇ゼウシスは、狼を模した蒼い冠を被っている。

 豪奢な、金の縁取りのあるドレスで、全身を覆う。

「いよいよ三日後、満月の祝祭を迎えます。前夜祭、聖遺物のお披露目の儀式と続きますが、準備に抜かりないでしょうか?」

 透き通る声が、大聖堂の一室に響き渡った。

 樫の間と呼ばれる広い部屋は、普段、会議に使われる。

 大きな樫のテーブルの中心に教皇が陣取り、その周りを囲むように、聖戦士たちが座っていた。

「抜かりありません」

 教皇に一番近い席の戦士が答えた。

「ありがとう、聖戦士イフテリオス。でも、あえて聞かせて下さい」

「はい」

「王宮との連携は大丈夫ですか?」

 イフテリオスと呼ばれた聖戦士は、一同の中でも一番の長身で、眉の濃い、いかにも武人といった顔立ちである。

「王宮の兵士たちは、市中の警備にあたってもらいます。我等は、教会と聖遺物の守護に務めます」

 ゼウシスは、満足そうにうなずいた。

 その顔に可憐な笑みがこぼれると、どこからともなく安堵のため息が聞こえる。

 聖戦士を率いる教皇は、白眉の美少女だった。

 長い睫毛に、気の強そうな芯のある大きな瞳。

 まだ一八歳だ。

 しかし、彼女を恐れるものは多い。

 信徒にとって、教皇の決定は絶対だった。

 最強の戦士である十二人の聖戦士たちも、それは免れない。

 それどころか、王族でさえ、神の代弁者である教皇に逆らうことは出来ない。

 蒼い、二つの月のような瞳が、全員を見回す。

「私にとって、教皇に就任して初めての祝祭です。必ず、成功させ、教会の威光を改めて、信徒にわからせて下さい」

「かしこまりました」

 イフテリオスが代表して返事をした。

 この世界で、教皇は指名制だった。

 前教皇は、不慮の事故で急逝した。

 彼は、このような不測の事態に備え、次の教皇になる人物を紙に控え、保管していた。

 そして、その紙には、十八歳の少女の名が記名されていたのである。

 ゼウシス=アキレウス。

 大聖堂が管轄する孤児院出身の少女。

 前教皇の隠し子との噂があったが、真偽は定かでない。

 育てた修道士たちは、ゼウシスをこう評価した。

 利発的で、周りを巻き込むタイプ。

 先頭に立って行動する。

 そして、勝ち気で、負けず嫌い。

 揉め事を生む。

 まだ大人になりきっていない少女だったが、それでも、全力で教皇を支えるのが、彼ら聖戦士たちの役割だった。

 その末端に、太陽の貴公子ハーメルンも座していた。

 少なくともその美貌においては、十二人の中でも頭一つ抜きんでている。

「ハーメルン」

 ゼウシスは、一番遠くの席に座るハーメルンを名指しで呼んだ。

「はい。なんでございましょうか?」

 ハーメルンは、控えめに礼をする。

「そなたも聖戦士になって、初めての祝祭だな」

「その通りです」

「蒼の神玉の護りは、任せたぞ」

「しかと護ってみせます」

「それと」

 言いながら、ゼウシスは、笑みを浮かべていた。

「あとで部屋に来てくれ。話がしたい」

「わかりました」

 ハーメルンはすまして答えたが、内心ではほくそ笑んでいた。

 ゼウシスに近づく機会をうかがっていた。

 こんなに早く来るとは。

 あの娘をうまく手篭めにできれば、次の教皇に自分を指名させることも、夢ではない。

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