不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
教皇ゼウシス
 「さて、聖戦士の皆様」
教皇ゼウシスは、狼を模した蒼い冠を被っている。
豪奢な、金の縁取りのあるドレスで、全身を覆う。
「いよいよ三日後、満月の祝祭を迎えます。前夜祭、聖遺物のお披露目の儀式と続きますが、準備に抜かりないでしょうか?」
透き通る声が、大聖堂の一室に響き渡った。
樫の間と呼ばれる広い部屋は、普段、会議に使われる。
大きな樫のテーブルの中心に教皇が陣取り、その周りを囲むように、聖戦士たちが座っていた。
「抜かりありません」
教皇に一番近い席の戦士が答えた。
「ありがとう、聖戦士イフテリオス。でも、あえて聞かせて下さい」
「はい」
「王宮との連携は大丈夫ですか?」
イフテリオスと呼ばれた聖戦士は、一同の中でも一番の長身で、眉の濃い、いかにも武人といった顔立ちである。
「王宮の兵士たちは、市中の警備にあたってもらいます。我等は、教会と聖遺物の守護に務めます」
ゼウシスは、満足そうにうなずいた。
その顔に可憐な笑みがこぼれると、どこからともなく安堵のため息が聞こえる。
聖戦士を率いる教皇は、白眉の美少女だった。
長い睫毛に、気の強そうな芯のある大きな瞳。
まだ一八歳だ。
しかし、彼女を恐れるものは多い。
信徒にとって、教皇の決定は絶対だった。
最強の戦士である十二人の聖戦士たちも、それは免れない。
それどころか、王族でさえ、神の代弁者である教皇に逆らうことは出来ない。
蒼い、二つの月のような瞳が、全員を見回す。
「私にとって、教皇に就任して初めての祝祭です。必ず、成功させ、教会の威光を改めて、信徒にわからせて下さい」
「かしこまりました」
イフテリオスが代表して返事をした。
この世界で、教皇は指名制だった。
前教皇は、不慮の事故で急逝した。
彼は、このような不測の事態に備え、次の教皇になる人物を紙に控え、保管していた。
そして、その紙には、十八歳の少女の名が記名されていたのである。
ゼウシス=アキレウス。
大聖堂が管轄する孤児院出身の少女。
前教皇の隠し子との噂があったが、真偽は定かでない。
育てた修道士たちは、ゼウシスをこう評価した。
利発的で、周りを巻き込むタイプ。
先頭に立って行動する。
そして、勝ち気で、負けず嫌い。
揉め事を生む。
まだ大人になりきっていない少女だったが、それでも、全力で教皇を支えるのが、彼ら聖戦士たちの役割だった。
その末端に、太陽の貴公子ハーメルンも座していた。
少なくともその美貌においては、十二人の中でも頭一つ抜きんでている。
「ハーメルン」
ゼウシスは、一番遠くの席に座るハーメルンを名指しで呼んだ。
「はい。なんでございましょうか?」
ハーメルンは、控えめに礼をする。
「そなたも聖戦士になって、初めての祝祭だな」
「その通りです」
「蒼の神玉の護りは、任せたぞ」
「しかと護ってみせます」
「それと」
言いながら、ゼウシスは、笑みを浮かべていた。
「あとで部屋に来てくれ。話がしたい」
「わかりました」
ハーメルンはすまして答えたが、内心ではほくそ笑んでいた。
ゼウシスに近づく機会をうかがっていた。
こんなに早く来るとは。
あの娘をうまく手篭めにできれば、次の教皇に自分を指名させることも、夢ではない。
教皇ゼウシスは、狼を模した蒼い冠を被っている。
豪奢な、金の縁取りのあるドレスで、全身を覆う。
「いよいよ三日後、満月の祝祭を迎えます。前夜祭、聖遺物のお披露目の儀式と続きますが、準備に抜かりないでしょうか?」
透き通る声が、大聖堂の一室に響き渡った。
樫の間と呼ばれる広い部屋は、普段、会議に使われる。
大きな樫のテーブルの中心に教皇が陣取り、その周りを囲むように、聖戦士たちが座っていた。
「抜かりありません」
教皇に一番近い席の戦士が答えた。
「ありがとう、聖戦士イフテリオス。でも、あえて聞かせて下さい」
「はい」
「王宮との連携は大丈夫ですか?」
イフテリオスと呼ばれた聖戦士は、一同の中でも一番の長身で、眉の濃い、いかにも武人といった顔立ちである。
「王宮の兵士たちは、市中の警備にあたってもらいます。我等は、教会と聖遺物の守護に務めます」
ゼウシスは、満足そうにうなずいた。
その顔に可憐な笑みがこぼれると、どこからともなく安堵のため息が聞こえる。
聖戦士を率いる教皇は、白眉の美少女だった。
長い睫毛に、気の強そうな芯のある大きな瞳。
まだ一八歳だ。
しかし、彼女を恐れるものは多い。
信徒にとって、教皇の決定は絶対だった。
最強の戦士である十二人の聖戦士たちも、それは免れない。
それどころか、王族でさえ、神の代弁者である教皇に逆らうことは出来ない。
蒼い、二つの月のような瞳が、全員を見回す。
「私にとって、教皇に就任して初めての祝祭です。必ず、成功させ、教会の威光を改めて、信徒にわからせて下さい」
「かしこまりました」
イフテリオスが代表して返事をした。
この世界で、教皇は指名制だった。
前教皇は、不慮の事故で急逝した。
彼は、このような不測の事態に備え、次の教皇になる人物を紙に控え、保管していた。
そして、その紙には、十八歳の少女の名が記名されていたのである。
ゼウシス=アキレウス。
大聖堂が管轄する孤児院出身の少女。
前教皇の隠し子との噂があったが、真偽は定かでない。
育てた修道士たちは、ゼウシスをこう評価した。
利発的で、周りを巻き込むタイプ。
先頭に立って行動する。
そして、勝ち気で、負けず嫌い。
揉め事を生む。
まだ大人になりきっていない少女だったが、それでも、全力で教皇を支えるのが、彼ら聖戦士たちの役割だった。
その末端に、太陽の貴公子ハーメルンも座していた。
少なくともその美貌においては、十二人の中でも頭一つ抜きんでている。
「ハーメルン」
ゼウシスは、一番遠くの席に座るハーメルンを名指しで呼んだ。
「はい。なんでございましょうか?」
ハーメルンは、控えめに礼をする。
「そなたも聖戦士になって、初めての祝祭だな」
「その通りです」
「蒼の神玉の護りは、任せたぞ」
「しかと護ってみせます」
「それと」
言いながら、ゼウシスは、笑みを浮かべていた。
「あとで部屋に来てくれ。話がしたい」
「わかりました」
ハーメルンはすまして答えたが、内心ではほくそ笑んでいた。
ゼウシスに近づく機会をうかがっていた。
こんなに早く来るとは。
あの娘をうまく手篭めにできれば、次の教皇に自分を指名させることも、夢ではない。
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