不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

絶望の窓①

 それからさらに数日後の夜、ルッカはアナの部屋の窓を叩いた。

 蒼い月は、もう少しで満月になる。

 満月の日は、どこの教会でも祝祭が行われる。

「アナ」

 しばらく待ったが、人の気配はなかった。

 アナは、他の部屋にいるんだろうか?

 ルッカは、しばらく待つことにした。

 月を見ながら考えた。

 アナに、なんて声をかけてあげよう。

 答えは出ない。

 彼女の父を殺した犯人は、まだ捕まっていてない。

 だから、それをオレが捕まえる。

 いや、そうではないな。

 それでアナな気が晴れるとは思えない。

 私の将来は真っ暗。

 アナの言葉を思い出す。

 あのとき、彼女は泣いていた。

 将来への不安、それが彼女を暗くしている。

 父親が亡くなり、その不安は増すに違いない。

「よおし」

 ルッカは、決意した。

 だったら、オレの伝えることは一つだ。

 考えているうちに、少し寝てしまった。

 目を覚ますと、カーテンが開いている。

 暗い部屋から、蒼い瞳が、ルッカに注がれていた。

「アナ、帰ってたんだ」

 アナの目は、空洞のように瞬きをしない。

 表情も消えていた。

 ルッカは、アナの唇の端が切れているに気がついた。

「大丈夫か?」

 問いかけにも、答えはない。

 部屋着のまま、亡霊のように窓の向こうに立ち尽くしている。

 まだ、親父さんの死から立ち直ってないんだな。

 ルッカはそう思ったから、励ましの言葉を続けた。

 しかし、まるでアナの耳には届いてないようだった。

 視線だけ、ルッカに注がれている。

「大丈夫か? いつもとなんか違うぜ」

 ルッカは戸惑った。

「もう来なくていい」

 アナは視線を背けて、ぼそりと言った。

「え?」

「もう来なくていいわ、ルッカ」

 ルッカは、自分の顔が引きつるのがわかった。

「いや、何言ってんだよ!」

 悲しい顔をして抗議する。

「もう、会いたくない。一人で夜を過ごしたい」

「アナ!」

 アナは目を合わせてくれなかった。

 それでもルッカは、その場から離れる気になれなかった。

 アナも不思議と、カーテンは閉めない。

「君のためになんでもする!」

「なんでも?」

「そうさ。初めて会ったときにも言ったはずだ。君のためだったら、なんでも出来る。命を懸けて、誓う」

 アナは、初めて表情を崩した。

 唇の端をつり上げて、馬鹿にしたようにルッカを見る。

「あなたみたいな子供に何が出来るってあうの? 私に何をしてくれるの?」

「結婚しよう!」

 ルッカは先ほどまで考えていたことを口にした。

 勢いだった。

 アナはあっけに取られたように、ぽかんと口を開けた。

「オレが、君の未来を作ってやる! 暗い将来とか考えているなら、それを明るくしてやる!」

 情熱を込めて、自分の気持ちを伝えるしかなかった。

 ルッカは、窓枠に手を掛けた。

「オレの、嫁さんになったくれないか?」


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