不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

運命の試練

「あらルッカ、暇そうね」

 ユウが茶化すようにそう言って、ルッカの向かいの席に座る。

 菜の花茶店には、久しぶりに仲間五人が揃っていた。

 アンドレが、ユウの前にレモン水を置きながら、まあ、そっとしといてやれと目配せをした。

 ミゲルも同じテーブルに座り、本に目を落としている。

 グレンは相変わらず座らず立っていたが、今は静かに、木剣を布で拭いていた。

「どうしたの?」

 アンドレが、声を抑えて答えた。

「アナの親父さんが亡くなった」

「えっ!」

 その事件は、ルッカたちの地元で起きていた。

 死体が上がった湖も、ここからそう遠くない。

「船着き場に役人の死体が流れて来たってのは聞いてたけど、まさかあの子の父親だなんて……」

 ユウの一家は父、兄共に漁師だった。

 ウル湖に漁船を出して、漁をする。

 ユウも小さい頃から父や兄たちのような漁師になりたかった。

 しかし、女だからお前はだめだと道を絶たれた。

 女でも漁師になっていいじゃないかと言い張ったが、慣習の問題だった。

 それが叶わぬものだと知ったとき、ユウは目標を失った。

「まさか、ユウの父さんが発見者!?」

 ミゲルが驚いて、本に向けていた顔を上げる。

「うん……。ひどい状態だったって。刀傷があったから、溺死ではないみたい」

「何者かが、殺害して湖に捨てた……ってことか」

 ミゲルは、身を震わせた。

「死体は三体あがったそうよ」

「二体は、クレイブソルト家の使用人だ」

 アンドレは、ちらりとルッカに目を向けた。

「もう、よさないか」

 グレンが低い声で言った。

「そうだな。聖戦士が捜査に動いてるそうだから、犯人が捕まるのも時間の問題だろう」

 アンドレは、街の料理店で情報を仕入れており、詳しかった。

「聖戦士……?」

 グレンはピクリと眉を動かした。

「ああ、グレン。お前が剣闘大会で負けた、あの金髪の美男子だ」

「太陽の貴公子か」

 グレンは、当時の屈辱を思い出したのか、複雑な表情をした。

「金髪の聖戦士……」

 ルッカも反応した。

「どうした、お前も興味あるのか?」

 ミゲルの質問に、ルッカは聞き返した。

「なあミゲル、大聖堂に封印の部屋ってあるか?」

「ん? 聞いたことはある。たしかに開かずの扉だ。数百年前から、教皇以外誰も開けることを許されないとか。それがどうかしたか?」

「いや、なんでもない」

 ルッカは、それ以上追求しなかった。

 自分の世界に戻るように、ふたたび黙り込んだ。

「アナとは、もう会ってないの?」

 ルッカは答えない。

「まあ、しばらくは喪に服すだろうから、会いには行けないだろう」

 代わりにアンドレが答えた。

「試練だと思え」

 ミゲルが、本から目を離さずにアドバイスをした。

「運命の試練」

 アンドレとグレン、それにユウは思った。

 ミゲル、それも本に書いてあるんだろ?
 

 

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