不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

ルッカとアナ①

「来たよ、アナ」

 小豆色のカーテンが開いた。

「窓を開けてくれない?」

「……ごめんなさい。部屋には入れられないわ」

「ここで、大丈夫だよ」

「寒くない?」

「もうすぐ春が来る。それに、君と話せるだけで、心があったまるよ」

 カーテン越しに、二人は会話をした。

 最初は、お互いの家族について話した。

 ルッカは両親の死を話し、叔父のカイゼルへの感謝や不満を語った。

 それから、友人たちのことも。

 アナは、それらを興味深げに聞いていた。

 アナも、自分の両親のことを話し、学友や聖歌隊のことを説明した。

 一日のうちに、面会できるのは、ほんのわずかな時間だった。

 アナが眠る前には、必ず、両親のどちらかが部屋を訪れた。

 それまでに、ルッカは退散しなくてはならない。
 

 それでも話しをするうちに、二人の距離が少しずつ縮まっていくのを、ルッカは感じていた。

 とはいえ、二人の間に、簡単に超えられない壁があるのもたしかだった。

 育ちとか身分とかではい。

 この恋は、ルッカからの一方通行だ。

 アナは、明らかに一線を引いていた。

 そのことも、はっきりと感じていた。

 この窓は永遠に開きそうにない。

「ねえ、ルッカ。あなたは死ぬほど辛いことが起きたら、どうする?」

 視線を月に向けて、アナが尋ねた。

 アナはときどき難しい質問を投げかけた。

 それはきっと、アナ自身の悩みに関係があるのだろう。

「うーん、死なないように、努力する」

 正解かどうかはわからないが、ルッカは前向きなことを口にした。

 落ち込んでいるのなら、励ましたい。

「つまり、どういうこと?」

 アナは、別に何かを期待していたわけではないのだろうが、困ったような顔をした。

「信頼できる誰かに相談するよ。そうだなあ、オレの場合はアンドレやミゲル、それにグレン。まあ、ユウもかな。あいつらはオレの悩みを、自分のことのように真剣に考えてくれる」

「そっか」

 アナはうらやましそうに目を細めた。

「いいわね、頼りになる素敵な友人がいて。私には、そんな学友はいないな。みんな、クレイブソルトのお嬢様として、親切だけど、本当の私には興味がない」

「そんなことないよ!」

 オレがいる、と言いかけて、やめた。

 まだ、それほどアナに信頼されている自信が、ルッカにはなかった。

「君のお父さんや、お母さんなら、きっと相談を聞いてくれるよ」

 アナから聞く限り、彼女の両親は娘想いの素晴らしい人たちだ。

 アナは、言われて喜んだ。

「そうね。私には父と母がいる。二人は信頼できる」

 アナは、真面目にうなずいた。

「わかったわ。辛いことがあったら、ルッカの言う通り、両親に相談する」

「それと……」

 ルッカは、やはり我慢出来くなった。

「オレも、オレも君のためだったら、なんだってするから、死ぬほど辛いことがあるなら、オレにも話をしてくれ!」

 声が大きかったかもしれない。

 どうしかしましたか、と遠くで声がした。

「誰かくるわ」

 アナは慌ててカーテンを、閉ざした。

 完全に閉じる前に、ルッカに微笑んだ。

「ありがとう、ルッカ。今夜は、楽しかった」

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