不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

真夜中のクレイブソルト家

「結局、この方法か」

 グレンは呆れていた。

 ミゲルの表情も曇っている。

「危なくなったら、すぐに降りてこい」

「大丈夫だミゲル、オレの身軽さは知ってるだろ?」

 クレイブソルト家の裏門に回って、壁を前にしていた。

「そういうことを言ってるんじゃない。誰かに見つかりそうになったら、すぐに引き返すんだ!」

「わかってるって」

 ルッカは、器用に壁をよじ登った。

 使用人に追い返されたあと、三人で屋敷の周りを巡った。

 ミゲルが建物の内装を推定し、アナの部屋に目星を付けた。

 その部屋の窓を目指そうというのだ。

 ルッカは器用に屋根を伝っていった。

 叔父のカイゼルは大工仕事もしている。

 その手伝いで、屋根の上を歩くのはお手の物だった。

「あれじゃ、ただの泥棒だな」

「うむ。あまり、感心できるやり方じゃない」

「だが、こういうシチュエーションに女性は弱いはずだ」

「それも、本で読んだことか?」

「まあな」

 そんな会話をしながら、ミゲルとグレンは、心配そうにルッカを見守る。

「アナ! アナ=クレイブソルト!」

 目的の場所にたどり着くと、ルッカは窓ガラスを叩いた。

  窓の内側は、小豆色のカーテンで閉ざされている。

 しばらく様子をみた。

 ドキドキした。

 あまりいい状況での遭遇とはいえない。

 強盗と間違えられてもおかしくない場面だ。

 しかしそれでも、ルッカは早く彼女と会って話がしたかった。

 必ず、彼女となら分かり合える。

 そう信じていた。

 もう一度、窓を叩こうかと思ったとき、カーテンが左右に開かれた。

 少女の顔がある。

 アナ=クレイブソルト。

 薔薇の蕾のソプラノリーダー、湖で歌を唄っていた少女。

 ミゲルの見立ては当たっていた。

 室内の内装も綺麗にまとまっており、彼女の部屋に間違いなかった。

 美しい。

 ルッカは、アナの姿に見惚れた。

 蒼い月は半月となり、輝きを増している。

「どうか驚かないで。君は、オレを覚えているかな?」

 彼女は、目を見開いていた。

「あの、ウル湖のほとりで出会ったルッカだよ、自己紹介したと思うけど……」

「ああ……」

 ガラスの向こう側で、唇がわずかに動いた。

「話をしようと思ったけど、なかなかキッカケがつかめなくて。ものすごく失礼なのはわかってるけど、こうして会いに来たんだ」

 ルッカは気持ちを込めて訴えた。

「話をしてくれないかい?」

 アナは、しばらくルッカの様子をうかがっていた。

「あなたは、なぜ私があんな時間に、あんなところで一人でいたと思う?」

 唐突に、アナは尋ねた。

 思ってもみない質問に、ルッカは戸惑った。

「それは……」

 ルッカは口ごもる。

 想像もつかなかった。

 全然わからない。

「運命だと思っている」

 だから、自分の想いを告げた。

「君があの場所にいた理由がなんであれ、君と出会ったのは運命だ。月の光に照らされて、あの歌を口ずさむ君は美しかった」

 ルッカは、アナの瞳を真っ直ぐに見つめた。

「君に恋をした。だから、こうして会いに来たんだ」
 

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