不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

薔薇の蕾の恋②

「これで……いいでしょうか?」

 私は、ハーメルンの言いなりだった。

「ダメだ。もっと開け、足を広げろ」

「痛い……!」

 私の感情は無視された。

 屈強な戦士の力に物を言わせて、彼は私の体を開き、何度も何度も執拗に突いた。

 体が壊れるかと思った。

 この時ばかりは、美しい貴公子も、恐ろしい顔をしていた。

 猛獣、ケダモノ、鬼。

 いろいろな言葉が頭に浮かんだが、口にしたら、命が危い。

 だから、私は耐えた。

 痛みに、恐怖に、屈辱に。

「もっと声を出せ」

 ハーメルンは、私の弱い部分に爪を食い込ませた。

 唇から、自分のものとは思えない悲鳴が迸った。

 私のどこからか、熱い血が流れていた。

 彼は、喜んでいる。

 笑っている。

 時が止まったのかと思うほど、ものすごく長い時間に感じられた。

 最後に彼は、自分の体液で私を汚した。

「帰れ」

 唐突にそう言うと、聖歌隊の服を投げつけられた。

「これからも、オレに呼ばれたら、すぐに来るんだ」

 ハーメルンは、無表情で私を見下していた。

「オレの言葉に嘘はない。お前は美しい。だから、また抱いてやる。オレは教皇様に、神玉の守護を承った。聖戦士の中でも、一番の勇者である証だ。お前も誇りに思うがいい」

 彼の言っていることの半分も耳に入らなかった。

 この場から、早く逃れたかった。

 私は、急いで服を着た。

 そのまま出て行こうとしたら、ふたたび剣を突きつけられた。

「返事は、どうした?」

「……はい、わかりました。ハーメルン様に抱かれることを、誇りに思います」 

 震える声で、何とか答えた。

「わかっているな? このことを誰かに話せば、そいつの命はない。例えそれが、お前の父や母だろうとだ」

 彼の目は、本気だった。

「もちろんです、誰にも言いません」

 未来が真っ暗になった気がした。

 それ以上は、引き止められなかった。

 私は誰にも見られないように、大聖堂を後にした。

 もうすっかり日は暮れている。

 空には、蒼い三日月が昇っていた。

 家に帰る気にはなれなかった。

 私の足は、自分でも自覚しないままに、湖へと向かっていた。

 暗い湖面の向こう側に、星のような光が輝いている。

 ここで身を投げようか。

 私は、湖のほとりを歩く。

 死んでしまえば、何もかも忘れられる。

 思えば、私には何かが欠けていたのだ。

 それは、経験なのか、教養なのか、慎重さなのか。

 もしくは、その全てなのかもしれない。

 死のう。

 そう決断した。

 そのときだ。

 頭上から、音楽が聞こえた。

 弦楽器の響き。

 優しく、心を落ち着かせる旋律。

 暖かい風が吹いた。

 そうだ。

 私には唄がある。

 服を抜いで、湖に足を踏み入れた。

 汚れた体を洗い流そう。

 唇から、メロディが溢れ出た。

 今の私にぴったりの曲だ。

 不死鳥の恋よ、安らかに眠れ。

 私が自分を慰めるように、歌を口ずさんでいると、不意に、少年が現れた。

 

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