不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

薔薇の蕾の恋①

 人を好きになったのは、これが初めてだった。

 唄を歌えれば、それで幸せ。

 そんなふうに、ずっと思っていた。

 父は頼りになるし、母は優しい。

 学友たちも、親切で仲良くしてくれる。

 なに不自由ない暮らし。

 不満はなかった。

 そんな、幼い私の世界に、あの人が現れた。

 学友たちが、黄色い声で噂をしていたから、その存在は知っていた。

 実際に会って、その瞳で見つめられて、心が引き寄せられた。

 金色の長い髪をなびかせ、まるで、太陽のように輝いている。

 それでいて、自分自身は陽の光を浴びたことのないような白い肌。

 皆から、太陽の貴公子と呼ばれ、敬われている人。

 ハーメルン。

 誰よりも美しく、誰よりも強い。

 私は、一目会ったそのときから、彼に夢中になった。

 教皇の就任式展の帰りに、声をかけられた。

 彼は、聖戦士。

 大聖堂を護るこの国の英雄の一人。

 いえ、十二人いる聖戦士の中でも、おそらく彼が一番、人気がある。

 この国で、唯一無二の存在。

 蒼い瞳に吸い込まれて、気を失いそうだった。

 緊張して、思ったままを告げると、
 
「それは僕のセリフだよ、薔薇のお嬢さん。君の瞳こそ、月のように美しい」

 そう、心がとろけそうなことを言ってくれた。

 ハーメルンは、少し私と話がしたいと言って、優しく肩に手を置いた。

 聖歌を歌っているときの警備について、相談したい、とのことだった。

 演奏の邪魔はしたくないが、警備はぬかりなく行いたい。

 真面目な人だと思った。

 私は、言われるがまま、彼の私室についていった。

 引率の先生に一言断りを入れたいと申し出たら、

「大丈夫、それは僕にまかせて」

 と、麗しい笑みを浮かべた。

 ハーメルンは、人に見つからぬよう気を付けながら、私を部屋に招き入れた。

 そして、豹変した。

 今まで見ていた姿が嘘のようだった。

「服を脱ぐんだ」

 冷たい口調で言われた。

 私は何が起きているかわからず、きょとんとして、固まってしまった。

 彼は、声を荒げた。

「無理やり脱がすと面倒だ。自分で脱げ」

「……ハーメルン様?」

 彼は、今度は口を開かず、代わりに剣を抜いた。

 剣の刃先を、私の胸元に押し付ける。

 戦士の剣とは、こんなにも重く冷たいものなのね。

 気が動転していた私は、場違いにもそんなことを考えた。

「べつにこの剣で、服を裂いてもいいんだ。もし、お前がここで起こったことを人に告げても、誰も信じない。お前も知る通り、オレは、聖戦士であり、太陽の貴公子だ。クレイブソルトの小娘よ、どちらの弁が信用されると思う?」

 泣いたけど、許してくれなかった。

 結局、私は自分で服を脱いだ。

 ハーメルンも服を脱いだ。

 不覚にも私、アナ=クレイブソルトは、裸の彼も美しいと思った。

 

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