不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

蒼い月の下で、少年は思い悩む

 自由に生きたいだけなのに。

 ルッカは、荷台に積んだ家具を運びながら、叔父のカイゼルに腹を立てていた。

 モノを作るのは、好きだ。

 だけど、色々と指図をされたり、注文をつけられるのはイヤだった。

 作りたいものを、作りたい。

 ルッカが自分の気持ちを素直に伝えると、叔父は、それでは仕事にならんだろうが、と怒った。

「客が望むものを作るのが、オレたちの仕事なんだ。店を継ぐつもりなら、お前も真面目に商売をやれ」

 うんざりだった。

 しかし、今年でルッカも十六歳だ。

 たしかに、いつまでも遊んでばかりはいられない。

 先のことを真剣に考えなくてはならない。

 仕事が終わり夕食をすますと、ルッカは父の形見である弦楽器リュートを持って、丘に登った。
 
 丘には、両親の墓がある。

 空には、蒼い三日月が浮かび、丘の下には、広大なウル湖が広がっていた。

 遠くには漁船の火が、星のように瞬いている。

 ルッカは空を見上げた。

 蒼い月が、世界を照らしている。

 聖典によると、自分たちの住む蒼い月の世界の他にも、紅の月、白銀の月の世界があるという。

 ルッカはまじめに聖典を読んだことがなかったから、そんなのが本当にあるとは思えなかった。

 でも、呪雨のない世界があるのなら、そっちへ行ってみたいかな。

 両親の死の原因は、呪雨と呼ばれる災害によるものだった。

 それは、ルッカがまだ一歳にも満たないときのことだ。

 家族で出かけた帰り道、突如、暗雲が頭上に立ち込めた。

 無数の槍のような豪雨が、家族を襲った。

 その黒い雨に打たれると、人の体は溶け、穴だらけとなり、ものの数分で命を奪われる。
 
 呪雨は、何の前触れもなく、突然現れた。

 滅多に発生するものでもなく、巻き込まれるのは、不運としか言いようがない。

 しかしそれでも、父と母は、自分たちの命と引き換えに息子だけは守った。

 泣きわめく赤子の上に覆い被さるようにして、二人は絶命していたという。

 その後、父の弟であるカイゼルが、ルッカを引き取り、ここまで育ててくれた。

 だから、感謝はしている。

 しかし、かといって、これからの人生を、カイゼルの道具屋を継いで終えるのかといえば、まだ納得していなかった。

「じゃあ、何になりたいのさ?」

 幼馴染のユウに、そう尋ねられたことがある。

 小さい頃から共に育った、おさげ髪の小柄な少女だ。

 浅黒い顔で、仲間内ではルッカの次にすばしっこい。

 喋りや振る舞いも男の子のようだった。

 ルッカは、彼女の質問に答えられなかった。

 何になりたいのかなんて、自分でもわかっていない。

 もやもやした何かを感じてはいたが、その正体は、真夜中の影のように輪郭さえわからなかった。

 ルッカは、手にしたリュートを奏でた。

 気分に任せて、メロディを紡ぐ。

 蒼い夜に、弦楽器の高い音が響く。

 今夜は、暖かい夜だな。

 風が吹いた。

「ん?」

 ルッカは、演奏を止めた。

 風にのって、湖から、美しい歌声が聴こえてきたのだ。
 

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