行列!異世界の動物園~魔王が園長です。
第四九話 パーティーそしてクーデター
季節は冬。
寒くなっても動物園、水族館、植物園共にお客さんの足は止まらず、いつものように働いていると、魔王がやって来た。
最近は魔王城での書類仕事に追われて動物園には姿を見せていなかったのにも関わらず現れた。
冬太は嫌な予感を感じていた。
「……久しぶりですね、園長。な、何か用事でも?」
「うむ、久しぶりだなトウタ。実はアスファルト帝国からもうすぐ平和条約が結ばれて三年になるから、その祝いのパーティーを帝国でしないかとバルっちに魔導フォンで誘われたのだが、私と宰相のリリスは仕事があって、パーティーに出席できぬ。そこでトウタに代わりに行ってもらおうと思ってな」
「ええ、そんな重要なパーティーに代理で行きたくないですよ。動物園の仕事もあるし」
「動物園は勇者が居るし、他のスタッフも頼りになるようになった。バルっちはトウタが代理なら大歓迎と言ってたし、護衛にエスナと四天王のランガをつけるから安心して行ってこい!」
「これはもう決定事項みたいですね。わかりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば」
はぁ~、と溜め息をつきながら了承する冬太。
◆◆◆
船で一日かけて人間界の港に着き、そこから魔導車で一日かけて東大陸セメントを治めているアスファルト帝国の帝都に着いていた。
早速城内に通され、客間で待っているとアスファルト皇帝バルドラが笑顔でやって来た。
相変わらずのメタボボディで冬太をハグする。
「よく来てくれたトウタ殿、それにエスナ殿、ランガ元帥」
「皇帝陛下こそお招きありがとうございます。園長の代わりが務まるかはわからないですけど」
「魔界経済復活の立役者が何を言っているんだ。我が帝国の重鎮達もトウタ殿には会いたがっているのだ。ぜひ魔界経済復活の話をしてやってくれ」
「魔界経済復活と言われても魔獣と仲良くなったり、料理や農作業してただけなんですけどね」
「それが凄いんだがな。パーティーは明日開催予定じゃからとりあえず、長旅で疲れたであろうから部屋を用意させている。部屋で休むもよし、城下町を見て回るのも新鮮で楽しいかもしれん。お主達には、我が皇帝家の紋章が入ったハンカチを渡しておく。これを見せるだけで城や町で自由に行動できるであろう」
凄い豪華な刺繍が施されたハンカチを冬太、エスナ、ランガは皇帝からもらう。
「ありがとうございます。荷物を部屋に置いたらさっそく城下町に行ってみたいと思います」
「ふむ、それが良かろう。行くことによって今の人間界の状況も分かるだろうしな」
皇帝の意味深な言葉に頭を傾かせる冬太。
ランガとエスナは皇帝の言葉の意味を理解したらしく、真剣な顔をしている。
荷物を置き、城下町に降りてみると皇帝の言葉の意味がよくわかった。
まず視線。好意適な視線と、敵意剥き出しの視線があちこちから浴びせられる。
店を覗くのにしても、笑顔で迎えてくれる店と、あからさまに冷めた態度の店などがあり、今の帝国の現状がよくわかる。
今の帝国は、魔界と仲良くしよう派と、魔族を嫌い、未だ魔界を侵略派に別れている。
現に人間である僕と聖なる木の守り手のエルフであるエスナにはそこまで差別的な態度はなかったが、白狼族族長である純粋な魔族であるランガには、食事を食べようとしても、ランガがいるならお断りなど痛烈な差別があった。
魔族に好意的な食事処もあったので、食事はできたが、こうして帝国の町で見聞きすると、好意派と敵対派でギスギスしているのがわかる。
何もなければいいけどと、嫌な予感を感じた冬太。
この予感が、明日のパーティーで証明される事などまだ知らない冬太達は、城下町をあとにし、城へと戻る。
翌日、パーティーの為の服を皇后が用意してくれたはいいが、
エスナは胸元が派手に開いたドレスで本人は顔を赤くして恥ずかしがっている。
ランガはランガでガタイが良すぎて今にも用意されたスーツが破れそうな程ピチピチしている。
まだ幼さを残す冬太は正直スーツを着こなしているは言い難い、いわゆるスーツに着られている状態である。
そんな状態でパーティー会場に入ると、自分達が場違いだと思わされる程に華やかな世界がそこに出来ていた。
なお、ジパンの将軍は私用で来れない為、代理として影丸という将軍の右腕と呼ばれている人が来ていて、パーティーに圧倒されていると影丸が冬太達に近付いてくる。
「挨拶が遅れて申し訳ない。拙者は殿の代わりに来た影丸という名の忍びでござる。以後お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも、僕は魔界で動物園の副園長をやってます、柏木冬太です。でこちらは僕の護衛をしてくれているエスナさんとランガさんです」
「冬太さんはもちろん賢者と呼ばれているエスナさんと、四天王の中で随一の剣の使い手のランガ殿に会えるとは、光栄です」
「さすが忍び、こちらの情報をよく知ってますね」
「それが仕事ですから。しかし今回のパーティーは何か怪しい。くれぐれも油断なさらない様に」
そう言って冬太達から離れ別の客人の所へ向かう影丸。
冬太から影丸が抜け出たのを見て、帝国のお偉方が挨拶に来る。
しばらくお偉方と放していると、皇帝が皆より少し高い位置に座り、パーティーに集まった皆に冬太達と影丸を近くに呼び、声を出す。
「本日魔王国と平和条約を結んで三年になるめでた席に集まってくれた我が帝国の重臣たち、そして魔王国、ジパン国からの客人もきてくれた事感謝する。この席でより親密になる事を願う」
皇帝がお酒が入ったグラスを掲げて、乾杯と言いかけた所で待ったの声がかかる。
その声の主は軟禁されている筈の皇太子スルト·アスファルト。そしてその後ろに四大貴族の内メリクルス公爵、マイルズ公爵、カーミラ公爵控えている。
「これはどういうことだ、スルト。それに公爵の三人もなぜ一緒に居る!?」
「簡単な事です、父上。魔界侵略をやめた父上や母上、宰相に他の家臣も帝国にはいらないんですよ。よって私が皇帝になり、魔界を侵略して人間だけの世界に変えるんてます」
「何を言っているのかわかっているのか? 戦えば私達が負けるに決まっている。残念だがお前には、牢屋に入ってもらう必要があるようだ! 衛兵達よ、あの頃四人を捕らえよ!!」
しかし衛兵達はその常備している剣を皇帝やそれに賛同する者達に剣を向ける。
「な、何故衛兵がこちらに剣を向けているのだ!?」
「僕の配下の兵士や公爵達の兵士だからですよ。ダメですよ、父上。自分を守ってくれる人間の顔ぐらい覚えておかないと。そのせいで今お客人達も捕まってしまうのですから」
剣は冬太達にも向けられている。ランガ元帥とエスナは突破口を見つけようとしていたが、突然空から漆黒の竜が現れ、パーティー会場の真上で停止する。
「紹介します。彼こそが三害の一つに数えられる天害のバハムト。そして彼が率いる竜達も力を貸してくれますし、安心して牢獄に入って下さい。その間に魔界を支配できているでしょうから」
「なぜ、人間界の山奥に住んでいる竜王達が力を貸してるのかはわからないが、止めておけスルト。お前のやり方じゃ、無駄に兵士が死ぬことになるぞ!」
皇帝は必死に止める。だが、スルトは子供の時から魔族は悪と教えられてきた為、悪を滅ぼすならなんでもするくらいには、狂っていた。
「さぁ、魔族狩りの開始だ」
悪魔さえも震える笑顔でスルト·アスファルトは戦争開始の声をあげる。
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