行列!異世界の動物園~魔王が園長です。
第十九話 とりあえず
「絶対嫌だ!!」
魔王にアリサが動物園で働きたい旨を伝えると、開口一番にこの一言。
「なんでベヒ子を討伐しにきた、しかも勇者をここで働かせなければならない」
とりあえず、動物園閉園後に今日は園内にあるスタッフ用の寮の一室にアリサには泊まってもらって、冬太の部屋で魔王とエスナと三人でアリサを働かせるべきか話している。
「うーん、私も少し一緒に仲良く働けるか不安です~」
「無理に決まってる! あいつは人間界側の奴なんだぞスパイかもしれないしな!」
「それはないと思いますよ、スパイだったらもっと上手く立ち回るし、帝国も彼女をスパイに選ばないと思いますよ」
「まぁ、そうだよなぁ。それよりもやけに奴の肩を持つな冬太? まさか恋でもしたか?」
「違いますよ。同郷の人間っていうのもありますけど、彼女の今の現状を聴くとほっとけなくて」
というのも、戦争があった頃は、勇者としての彼女の戦闘力に期待して、帝国のお偉いさん達にちやほやされて、食うのにも寝るのにも勝手に用意してくれてたらしい。
彼女は現実では武の申し子と呼ばれるほどどんな武術も一回見ただけで達人レベルに成れるほどの武術家だった。
だがそれ以外は料理も家事も勉強さえも苦手な少女だった。
そんな少女も戦争していた時は、戦い以外何もしなくても良かったのに、戦争が終わった途端もう必要なしと言われているかの様に城から追い出され、仕方なく冒険者を始めたらしいが、力だけで上手くはいかないのが冒険者である。
戦争に勝てなかったのは、勇者が弱かったせいだと言う輩も少なくなく、彼女とパーティーを組みたがる者もいなかった。
手持ちのお金がなくなり、食うのにも困り始めた頃、皇帝に城へ呼ばれた。
なんでも魔王が動物園とひょうして異世界人の力を使ってベヒーモスを始めとした強力な魔獣を集めて良からぬ事を考えているらしいと。
そこでベヒーモスや強力な魔獣もしくは魔王を倒せたなら贅沢が出来る程の一生分の生活費を渡すと言われて魔界の動物園にやってきたが、皇帝が言うような怪しさはなく、触れ合って楽しんでいる魔人や人間を見て、とても戦う気にはならなかったそうだ。やる気をなくさせたのはフードコートの料理が決め手らしいが。
アリサの過去を聴いた魔王は、
「とりあえず一週間様子を見て大丈夫そうだったら正式に雇う」と、言ってくれた。
エスナさんも同調してくれたのでさっそくアリサが使用している寮の部屋に行き、先程の内容を説明した。
「一週間ね。私死ぬ気で頑張るわ!!」
死ぬ気で頑張られても困るんだけどと、思いながらも冬太は同郷の長い茶色髪をポニーテールにしている少女が一緒に働けるようにサポートしようと決めていた。
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