白い令嬢は愛を知らない

暁月 陽-アカツキ ヒナタ-

第2章9話




「え……っと?」

少女が掻き消え、数分の沈黙を破ったのはアルクリスタだ。

「アルクリスタ様、お怪我はありませんか?」

アルクリスタの声にはっとしたサンはすぐにアルクリスタへ駆け寄る。

「私は大丈夫ですわ。それよりも今の方は一体……。それにペリー様!ペリー様の方が心配ですわ」

未だに何も話さないペリーを見ると、その場に座り込んでいた。

「ペリー様!大丈夫ですか?!」

「え、ええ……なんだか力が抜けちゃって……」

ペリーは自身の急な倦怠感に驚き、サンもまたそのペリーの様子に目を見張っていた。

「姉さん……アルクリスタ様。ここは一度城に帰りたいのですが構いませんか?」

「え、ええ。私もその方が良いと思いますわ。ペリー様もお疲れのようですし、転移魔法でお願いしてもよろしいですか?」

「はい。花はどうされますか?」

道中見つけた花は手土産にするからとまだ摘んでいなかった。アルクリスタが大層欲しがっていたため、サンは気になり聞く。

「先程の方……魔族ですよね?ペリー様を簡単に吹き飛ばした様子、私を人間だと言ったこともそうですし……一応ノワール様に早くお伝えした方がいいと思いますわ。お花はまた今度にいたしましょう」

アルクリスタの言葉に頷き、サンはすぐに座り込んだままのペリーとアルクリスタを連れて応接室へ転移した。

「アルクリスタ!!」

応接室へ着いて3人がまず見たのは、深紫の羽を出し今にも飛び立とうと窓に手をかけるノワールと、それを必死に抑え込むアレクの姿だった。

「……ノワール様?」

その2人の様子はまるでコントのようで、アルクリスタは思わず笑ってしまう。
先程までの緊張が嘘のように溶けていくのをアルクリスタは感じた。

「大丈夫か!?怪我は?一体何があった?」

「ペリー、お前もどうした?珍しく大人しいじゃないか」

ノワールはすぐにアルクリスタの元へ駆け寄り、肩や背中、手足に怪我がないかを確認する。
アレクは言葉では揶揄からかっているようだが、優しくペリーを抱き起こしていた。

「魔王様、お話がございます。もうお気づきかもしれませんが、森に新しい魔族の侵入者です」

「……ああ。しかしその魔族、相当腕が立つようだ」

一通りアルクリスタを確認し終わり、ノワールはアルクリスタを誘導しつつソファへ座る。対面にはペリーが座った。

「まずはペリー、報告を」

「はい。気配はなし、動きも正直見えませんでした。私が殺気を放ってもどこ吹く風で……。先制はあちらから。気付けば50m先に飛ばされていました」

ペリーは先程対峙した謎の少女を思い出すと、顔を青くする。

「見た目は」

「年の頃はアルクリスタ様と同じかそれ以下に見受けられましたが、話し方や動作、纏う雰囲気は魔王様よりも年上のように感じます。それも100や200ではありません。髪の色は黒、瞳は真紅です。服装は貴族の令嬢のそれでした」

ペリーよりも冷静に判断を下せたであろうサンに問いかけると、案の定相手の特徴を詳細に覚えていた。

「そうか……」

少女の特徴を聞くとノワールは考えるような素振りを見せる。

「ノワール様」

アルクリスタがノワールに話しかけると、ノワールは怖がらせないよう努めて優しく微笑みかけた。

「あの方に敵意は感じませんでしたわ。人間の私を嫌悪する様子もありませんでしたし……なんだか観察するような感じでしたわ」

アルクリスタは見つめられた瞬間を思い出すように話す。
あの時確かにあの少女はアルクリスタを観察していた。それも見定めるように。

「アルクリスタを?何故……しかし……うーん……」

「漆黒の髪に真紅の瞳ですか……」

アレクもお茶を出しながら考え込む。

「確かその特徴って……ノワール様と同じドラゴンの魔族の特徴……でしたよね?」

考えながらポツリとこぼしたアルクリスタの一言に、その場にいた全員が固まった。

「なぜそれを……」

「?ノワール様にお借りした本に書いてありましたわ。確か魔族の歴史に関する本だったと思います」

当たり前のようにそう言うアルクリスタに、ノワールは張っていた気を解す。

「アルクリスタは……俺がドラゴンの魔族だと知っていたのか?」

「ええ、もちろんですわ。ノワール様のことはもちろん、ここで暮らす以上皆さんのことは知っておきたくて」

にこやかに話すその顔に、嫌悪感は一切ない。

「……お前に聞くには今更すぎるか」

怖くはないのか、と。畏怖の念がないのか、と。
そんなもの、アルクリスタは初めから見せてなどいないのに。

「でも、何よりも神に近いとされるノワール様の傍にいるには、私では力不足なのではとは思いますわ……」

一転不安そうな顔になったアルクリスタの心配は、そんなことであった。

「ふ……俺が許すんだから、お前は堂々と俺の隣にいればいい」

ノワールはアルクリスタの腰を抱き、額を合わせる。

「うぉっっっほん」

アレクがわざとらしい大きな咳をするので、ノワールは渋々離れた。

「しかしドラゴン族であれば俺同様相当高貴な身分のはず。そうでなくともその魔力量で俺が気付きそうなものだが……」

「そうですね。いくらドラゴン族だからといってペリーやサンの目は誤魔化せても、流石に魔王様まで気付かないとなると……」

アレクとノワールはまた2人で頭を捻る。

「……ノワール様に妹君や姉上様はおられないのですか?」

アルクリスタはサンとペリーがいるのだから、ノワールにも兄弟姉妹がいてもおかしくないと思い尋ねる。

「俺に妹や姉はいないな。弟はいるが……今は別の世界にいる」

「別の世界?」

「ああ。そうだな……少し脱線するが、アルクリスタになら教えてもいいだろう」

そう言うと、ノワールは別の世界について話しだした。

「世界というのは、今俺達がいるこの場所以外にも幾つもあるんだ。構造まではわからないが、俺達がいるのがこの玉だとしたら、これが幾つもどこかしこにあるという具合に」

ノワールの手元に1つの手のひら大のボールができ、どんどん増えていく。

「空間魔法は高難易度の魔法だが、その中でもドラゴン族のみ使えるのがこの世界を移動する空間魔法だ。1つの世界には一人の魔王。俺は長男だから父が魔王を引退した時にこの世界を譲り受けた。弟は別の世界で魔王になっているだろう」

手元のボールをあれこれと使いながら、教えてもらう。
初めて知るには少しややこしい話ではあったが、アルクリスタはなんとか理解し頷いた。

「先代の魔王様は今どこに?」

「知らん。隠居すると言って母上と共に姿を消したからな。音沙汰もないのだし気にする必要はないだろう」

アルクリスタは魔王にも隠居というものがあるのかと思ったが、口には出さない。

「とにかく、その少女がドラゴン族だというのなら、別の世界から来た可能性が高いな。世界の法則は大きくは変わらない。特に魔族の特徴はな」

「ということは……」

ノワールは少しだけ顔を歪め、頷いた。

「この世界の魔王になろうと来たのかもしれん」

「魔王というのは継承以外にもなれるのですか?」

アルクリスタは疑問を口にする。

「なれないこともない。……その世界の魔王を殺せば、次の魔王はそいつになる」

「そんな……!」

思わず口を抑えた。

「まぁ、ドラゴン族同士の戦など世界がボロボロになってしまうから、大抵は先に魔王がいればまたいない世界を探しに転移するがな。稀に挑んでくるやつはいるらしい」

「……そうだといいんですが」

先刻会った少女は好戦的にも見えた。しかし敵意はない、ただの戯れのようなものであったのは確かだ。

(……何もなければいいのに……)

アルクリスタは祈るしかできない自分に歯痒さを感じる。
人間である自分にはどうしようもないのだ。

「その娘の動向は気になるが、如何せん結界からは場所までわからない。やはり相当腕が立つようだな……」

アレク、サン、ペリーは頷く。

「森に住む魔族はほとんど好戦的な者はいないので大丈夫でしょう。見慣れない魔族を見た者がいれば避難、報告させます」

「私はいつも通りアルクリスタ様の護衛を」

「私もアリー様といるわ。何かあればサンにアリー様を頼んで私が戦えるように」

3人はノワールにそう言うと、ノワールも頷いた。

「相手はドラゴン族だ。いつも以上に厳戒態勢で頼む。アルクリスタも……気をつけてくれ」

ノワールの真剣な眼差しに頷きで返すと、額にキスを落とされた。

「しばらくはまた部屋に篭もらせてしまうが……仕事を終わらせたらすぐに行く」

「お待ちしてますわ」

ニコリと微笑み、ノワールの頬にキスをお返しした。

「な……!」

「……失礼しますわ」

お互い顔を赤くしながら、目も合わさずにアルクリスタはその場を離れる。
サンとペリーは何も言わず、しかし顔には苦笑をたずさえついて行く。

「……昨日から、なんだかアルクリスタからのスキンシップがすごいのだが……」

ノワールが噛み締めるようにそう言っていると、アレクは既に仕事に戻っていた。

「魔王様、仕事」

冷たい一言だけを寄越すアレクにノワールはため息をつきつつ、自らも書類の山へ向かって行った。



夜の帳が降り、アルクリスタはペリーとお茶を飲んでいた。

「姉さん、仕事中よ」

「いいじゃない。休憩よ、休憩」

ため息をつきながらも、サンはペリーの分のお茶も注ぎ足す。

「サンも休憩しては?」

「同時に休憩してしまっては警戒が疎かになってしまいますから結構です」

相変わらずのつっけんどんさだ。

「……お気遣い、ありがとうございます」

しかし、前よりは明らかに変わっているようであった。

「はぁ……」

「どうかしました?」

アルクリスタが思わずついたため息にペリーが気付き、声をかける。

「……こんなこと言ってもどうにもならないのですけど……」

前置きし、続ける。

「……私にも何かできることがないかと思ってしまったのですわ。人間の私にはできることがなくて……それがとても悔しいのです」

戦力であるはずのサンとペリーを傍に置いているのが自分であるというのも、アルクリスタにとっては申し訳ないことこの上ない。

「気にしなくて大丈夫よ。アリー様が笑ってさえいれば、魔王様はもちろん私もサンも百人力なんだから!」

パチンっとウインクするペリーに、まだ少しもやもやとする心を押し殺し微笑んで頷いた。

お茶を飲み干したタイミングで、ノックが鳴る。

「はい」

アルクリスタが返事をし、サンが扉を開けた。

「待たせたな」

やはりというか、ノワールである。

「夕食を取り損ねたんだが、もう済ませたか?」

「いえ、お茶をしていましたわ」

「ならば一緒に取ろう」

相変わらずノワールに抱えられ、食堂へと移動する。

「何も変わりなかったか?」

「はい、大丈夫でしたわ」

道行く魔族の中には鋭い視線はないが奇異の視線が混ざっていた。
魔王に抱えられているのだから当たり前なのだが、すっかりそれに慣れてしまったアルクリスタはあまり気にせずノワールと話し続ける。

「アルクリスタの国の成人は16からだったか?」

「ええ」

「そうか。成人したら一緒に酒を飲もう。寝かせてるワインがあるんだ」

食堂へ着き、注がれたワインを見ながら微笑むノワールに、アルクリスタは頷いた。

「お仕事は終わりましたか?」

「あと少しといった所だな。カライスが来る前から溜まっていた分がやっと終わったといった所だ」

何気ない会話を交わし、食事を続けていると、ふとノワールが一瞬だけ眉を顰めた。

「どうかしましたか?」

「いや……何か変な気配が……っ!」

ノワールが話していると、急に立ち上がりアルクリスタを庇うように窓へ顔を向ける。

「おや、やはり魔王というだけあって勘は鋭いようじゃの」

そこには仁王立ちの少女の姿があった。

「いやはや、思ったよりも城が遠くてのう。久方ぶりに歩いた妾が悪いのじゃが、ご挨拶が遅れてしもうたわ」

ははは、と豪快に笑う様は少女の見た目だが威厳がある。

「貴様が昼間、うちの部下を攻撃した魔族か」

「そうじゃ。攻撃だなんて程でもないぞ。煩かったから少し黙らせようと小突いただけじゃ」

ふわりと窓から降り立つと、手近にあった椅子に座る。

「妾も腹が減ったのじゃ。一応にも客人なのだから飯を出さんか」

ぐでーっと伸びながら言うが、ノワールは睨んだまま動かない。

「何が目的だ」

「今は飯じゃ!」

反してニコニコと言い放つ少女に悪意は感じられない。

「はぁ……サン」

「かしこまりました」

すぐにもう一人分の料理が出てくる。
少女はそれを丁寧に、だが豪快に平らげていく。

「……よく食うな」

座り直したノワールが呆れた様子で少女を見るが、少女はそれを意に介さず食べ続けていた。

「ふぅ、満腹じゃぁ」

しばらく黙々と食事を続けていた少女は、最後のデザートも2回程おかわりをしてやっと食事を終えた。

「全く……食糧庫が心配になる程食べてくれたな」

魔王の余裕とでもいうのか、ノワールは既に少女に対してほとんど敵対心を出していない。
しかしアルクリスタの傍に控えるサンとペリーは、あからさまではないが少女を睨み据えていた。

「いやぁ、世話になったな……と言いたい所だが」

先程までの穏やかな空気から一転、少女は目を細め、恐ろしい程美しい笑顔を作る。

「妾が何故この世界に来たのか、見当はついているんだろう?」

ぞわりと背筋を這うような声にアルクリスタは身震いした。
サンとペリーも震えそうになるのを堪え、いつでも武器を取り出せるように構える。

「そうだな……大方、魔王にでもなりに来たか」

ノワールは平静さを崩さず、それでもアルクリスタが怖がらないよう近付いて肩を抱いた。

「ふむ……お主、昼間も思ったが相当その小娘が気に入っているようじゃの」

「……それがなんだ?」

アルクリスタに興味を示されたのが気に食わないのか、ノワールは鋭い視線を少女へやる。

「魔族と人間とは……愚かな」

少女は忌避するでもなく、嫌悪するでもなく、同情するような視線をノワールへ向けた。

「だからなんだ。貴様には関係なかろう」

アルクリスタを庇うようサンとペリーが前へ出る。

「ははは、怖い顔をするものじゃない」

一瞬少女の姿が見えなくなったかと思うと、アルクリスタの目の前からサンとペリーが消えた。

「女は愛嬌じゃ」

後ろから声が聞こえ振り向くと、大きな2本の柱にサンとペリーが張り付けられていた。
腕や足の服をそれぞれまち針で止めたかのように壁に何かで打ち付けられている。

「……俺の部下に手を出すなよ」

声音は変わらないが、ノワールの纏う空気が明らかに変わったことにアルクリスタは気付いた。

「怪我をさせるつもりはない」

少女はそんなノワールも意に介さず飄々と続ける。

「……見定めさせてもらおうかの」

少女はそう言うと、ノワールが気付かない内にアルクリスタを抱きかかえていた。

「……!」

反応が遅れたことにノワールは驚き、拳を握り締めた。
窓際に立つ少女はアルクリスタとそれほど背丈は変わらないというのに、アルクリスタを横抱きにしている。

「アルクリスタ……!」

アルクリスタは驚きで何もできないでいた。
ノワールはアルクリスタが奪われたことで冷静さを失いつつあった。

「あ……ノワール様……!」

ノワールの瞳孔はどんどん細くなり、頬に鱗が浮き始める。
爪は鋭く伸びていき、服を破り腰からは太く大きな黒い尻尾が伸びた。
しなやかな尻尾は黒光りする鱗を纏い、手足も同じく肥大化しドラゴン化していく。
顔の半分を鱗が覆い尽くし、半分ほど魔獣化が進んでいた。

「放して……!」

身動ぎをしても離れない腕に、アルクリスタは大きく体を捩る。

「動くな、小娘」

低く恐ろしい声で少女が言うが、アルクリスタの耳には届かない。
アルクリスタはノワールから目を離せないでいた。

「…………放してよぉ!!」

どんどんドラゴンへと変化していくノワールに、アルクリスタは涙を流した。

(本では……感情的に魔獣化してしまっては、理性が効かず暴走してしまうことが多いとあった。このままじゃノワール様が……!)

「人間、怖いのか?」

少女の見当違いの優しげな、憐れむような声もアルクリスタには届かない。

「……ノワール様……」

少女は何を思ったのか、アルクリスタをおろした。

「今なら妾が転移魔法を使い逃してやろう。今しかお主があやつから離れるチャンスはない」

少女はアルクリスタを逃そうと思ったようである。

「人間の国までお主を送れば、あやつは妾が何とかする。どこに行けばいい?」

アルクリスタは少女を見つめた。

(この子は何を言っているのでしょう……)

ノワールの魔獣化は止まることなく、既に大きさは天井を突き破る勢いだ。

「……早くしろ。今しかない。そのためにあやつを怒らせたのだからな」

「その……ため……?」

少女の言っている意味がわからず、アルクリスタは聞き返す。

「お主、あやつに囚われているのであろう?あやつの臭いがこびりついておる。魔族が人間を飼うのは珍しいことではないが、使役魔法も使わず手元に置くなど馬鹿馬鹿しい。使役魔法を使われれば逃げることは叶わぬからな。今しかあやつからは逃げられん」

アルクリスタはここでやっと合点がいった。
少女はアルクリスタを助け出そうとしてくれていたのだ。

「使役魔法は術者が解かぬか死なぬ限り一生続く魔法だ。本当に囚われる前に早く逃げろ」

真剣な表情の少女に、アルクリスタは笑顔を向けた。

「貴女は……何もわかってない」

そのままノワールへ向かって走り出す。

「あ……おい!」

慌てて少女も追いかけてくるが、そもそもが巨大化し、程ない距離だ。
アルクリスタがノワールの足元へ着くほうが早かった。

「……ノワール様」

アルクリスタはノワールの魔獣化した足をそっと抱き締める。

「危険だ!離れろ小娘!」

すぐに少女から引っ張られるが、傷つけないためか強く引かれないためアルクリスタはそれを無視してノワールへ話しかけ続ける。

「ノワール様、私はここですわ」

「今のあやつには聞こえぬ!早く逃げろ!」

「ノワール様、ノワール様……抱き締めてくださいまし」

「おい!人間!」

少女も焦っているのか、引き離そうとする力はどんどんと強くなっている。

「ノワール様……聞こえておいででしょう?」

こっちを向いて、と、巨大化しすぎて見えない程離れた顔を見上げると、何か通じたのか、大きな顔がアルクリスタの方を向いた。

「くそっ……馬鹿な人間め!死にたいのか!……っ!」

アルクリスタを引っ張っていた少女の力がなくなったかと思うと、後方から大きな音が聞こえた。
どうやら吹っ飛ばされたようである。

「ノワール様。私ですわ。わかるでしょう?」

鋭い視線がアルクリスタを射抜く。

「ノワール様」

何度目かの呼び掛けで、ドラゴンはゆっくりとその顔をアルクリスタへ寄せた。

「……逃げろ……人間……!」

壁を壊し更に遠くへ飛ばされていた少女は、ノワールと同じ深紫色の羽を出して空を飛んでいた。
食べられると思った少女は大声でアルクリスタへ叫んだが、アルクリスタはそれを無視する。

(……いいのですわ。例えここでノワール様に殺されたとして……私はノワール様のものですもの)

恐怖などなく、アルクリスタは冷静なままドラゴン化したノワールの細い瞳孔を見つめ続けた。

「……ノワール様」

顔の距離が0になり、壁に張り付けられていたサンとペリーすらもアルクリスタの死を覚悟した。










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