白い令嬢は愛を知らない

暁月 陽-アカツキ ヒナタ-

第1章 ノワールside




魔王の仕事とは、実に退屈なものである。
森の管理、増えすぎた魔物の処理、魔王城の管理。
そして、たまに周囲の国の情報を集めたりしている。

ノワールはアルクリスタとのお茶会の後、増えすぎた魔物の処理をしてすぐに、思考の海に身を投じるべく自室に引き篭もってしまった。

「ノワール様〜〜〜まだお仕事がありますよ〜〜〜書類がほら、こーんなに〜〜〜」

アレクが涙ながらに部屋の外から声をかけるのが聞こえているが、ノワールはそれを無視してアルクリスタについて考える。

「アルクリスタ……人間の娘……。何故俺はあの娘を……こんなにも……」

思い出すのはサラサラと零れ落ちるようなふわふわの白い髪と、こちらを伺うような光って見える金色の瞳。可愛らしい音を紡ぐポテッとした唇。

「くそ……俺は魔王だぞ。人間の……娘如きに……」

思い出すだけで胸が高鳴って、アルクリスタを抱き締めたくなる衝動に思わず胸元をぐっと掴んでしまう。

「……今、何をしているのだろうか」

すぐに魔水晶まずいしょうを手のひらに作り、アルクリスタの部屋を映し出す。
アルクリスタはベッドに腰掛け窓の外を眺めていた。

「やはり……帰りたいのだろうか……」

もし今、帰りたいと言われても……多分、ノワールは帰してやることはできないだろう。
理由は簡単だ。ノワールが、手放したくないから。

アルクリスタに動きがあった。
魔水晶から音は聞こえないが、アルクリスタの反応から誰かが部屋に来たことがわかる。

「一体誰だ……俺もまだまともに……」

そこまで言って、自分が嫉妬に駆られていることに気付き、ノワールは絶句した。

「嫉妬……?魔王である俺が嫉妬……だと?」

そして、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。

その間に、部屋に入ってきたのはペリーであった。

「……ペリーか」

少しほっとしている自分にまた恥ずかしくなったが、この際気にしないことにする。
ノワールは隣の壁……アルクリスタの部屋に通じる壁の防音魔法を弱め、更に聞こえやすいように魔法をかける。

アルクリスタの部屋のもう1つの扉は、ノワールの自室へ通じる扉であった。
普段は城全体を防音魔法で覆っている。それはひとえにノワールの魔力に依存しただけのものであるが、その結果ノワールの自由に強弱を決めることができる。

魔法により、隣で行われている会話は筒抜けであった。
もちろん、ペリー達に悟られないよう隠蔽いんぺいも忘れない。



数時間程、雑談をしていたであろうか。
女性というのはとかく話題が尽きないものである。
そろそろ日も暮れるという時分になり、アルクリスタが、魔法に興味があるということを言っていた。

「そうだ、人間は魔法が使えないのであったな……」

夜に一度顔を見に行こうと思っていたのもあり、ノワールはすぐに手土産を決めて作成にかかる。

「アレク。手のひらサイズの小瓶を用意しろ」

昼過ぎからずっと部屋の外にいたであろうアレクに、部屋の中から声をかける。開けると仕事が舞い込んでくるからである。

「ノワール様、お仕事は……」

「明日終わらせる。早く用意してくれ」

はああ、と、これみよがしに大きなため息が聞こえた後、アレクの気配が消えたことを確認する。
その間に、どのようなものにするかイメージを詳しく決めていった。

魔法とはとにかくイメージが大切だ。原理をわかっていれば尚良いが、この世界には原子というものがない(厳密には存在するが認知されていない)。
とにかく詳細に、作りたいものの細部まで想像する必要がある。
魔法の才能というのは、言うなればイメージの才能に直結する。
それぞれ使える属性はあったりするが、そこからどれだけ成長するかは才能に依存するのだ。

アレクが持ってきた小瓶に、イメージを詰め込んでいく。

「小瓶の中に夜を閉じ込めよう。満月の月夜がいいな。星も詰めて……色はそうだな……アルクリスタのように澄んだ青色だ。儚く、美しく、繊細に。……少し寂しいな。鉱石を入れよう。そうだ、俺の不在中にアルクリスタに何かあっては困るから、アルクリスタの血を後で少し貰うとして、アルクリスタに危険が迫れば強度の防御魔法が発動するようにしよう。同時に俺に察知できるように組み込んで……ふたをする。リボンは……これは……俺の好きな真紅にしよう。うん……できた」

ノワールの魔法で作られたそれは、アルクリスタのように優美で可愛らしいものであった。

「もうこんな時間か……行くか……」

少し……いや、かなり緊張して、ノワールは隣の部屋の扉を叩いた。










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