白い令嬢は愛を知らない

暁月 陽-アカツキ ヒナタ-

第1章5話




この世界は、大陸が1つだけしかない。
周囲は全て海であり、1〜3km程の小さな島はあれど、大陸は1つだけだ。

大陸の中央には、現在アルクリスタがいる死の森があり、それが大陸の半分を占めている。
それを囲うように、4つの大国があった。

1つはアルクリスタが生まれ育った国、アズレイト帝国。死の森の東にあり、周辺の小国を飲み込み大きくなった帝国である。

次に死の森の西にあるクンジーテ王国。ハイエルフが治める王国で作物が豊富らしく、大陸の5割の作物はクンジーテ王国産であるらしい。エルフは魔族の他に唯一魔法が扱えるらしいが、争いが嫌いらしく全ての国と和平協定を結んでいる。

死の森の南にあるオパルス王国。ハイドワーフが治める王国で、ものづくりが得意なドワーフが多く住んでおり、他国に大工として派遣はけんしたりしている。更に鉱石も大量に採れるため、特産品となっている。しかし労働奴隷ろうどうどれいの待遇が酷く、奴隷死亡率は常に高い。

死の森の北にあるクリソプレーズ教国。唯一神ゆいいつしんあがめる宗教国家で、唯一種族差別が酷い国である。獣人はもちろん、国賓こくひんや奴隷じゃないエルフやドワーフは国への入国許可は下りない。他国へ教会を建設し、司教を派遣することでお布施ふせを貰い成り立っている。

ぼんやりとベッドに座り窓の外を眺めながら、アルクリスタは自国や他国のことを勉強の復習がてら思い出していた。

(確か魔族は魔法が使えたのですわ……エルフも唯一魔法が使える種族ということで、エブル殿下もいつかお友達になりたいと言っていた……)

そして、魔族ではだめなのかを聞くと、あからさまに苦い顔をされた記憶がよみがえった。

(どうして人間は魔族を怖がるのかしら……。文献ぶんけんでは魔族は知恵を持ち、会話もできると沢山書いてあるのに。やっぱり、知恵を持たない魔物と一緒にされてしまうのかしら……)

ぼーっとそんなことを考えていると、部屋の扉がノックされた。
そのまま返事をする前に扉が開く。

「アルクリスタ様ー!仕事が終わったわよ……って、サンじゃない」

「ペリー様!」

朝同様、ペリーであった。

「……姉さん。扉は部屋の主が返事をしてからだと、何回言わせるの。人間だからいいものを、貴族様には無礼だと魔王様の印象が下がるのよ」

少し棘のある言い方で、サンはペリーを注意する。

「もー、お説教はやめてよね!やっと仕事が終わったんだから……。それに私はアルクリスタ様とお話するために来たのよ!あと、気持ちはわかるけど、アルクリスタ様の前で人間を馬鹿にするのは、お姉ちゃんとして良くないと注意するわ!」

ペリーは言いながら、ペシッとサンのおでこに軽くデコピンをした。

「……人間は人間よ」

アルクリスタの方を向かず、ふいっと顔を背けてしまう。

(やっぱり魔族の中で、人間である私の印象は最悪なのですわ……ノワール様が許した以上、私を害することはないと思うけれど……)

今後自分を嫌う人と一日のほとんどを過ごさなければいけないことに、アルクリスタの気持ちは少しだけ沈んだ。

(まぁ……あそこよりはマシなにですわ……)

気持ちを切り替えて、ペリーの元へ向かう。

「来てくださってありがとうございますわ。実は少し退屈してましたの」

中央のテーブルにペリーと対面で座る。
サンが無言でお茶を出してくれた。

「ありがとー」

「一応お客様だから」

サンとペリーは軽く言葉を交わすが、やはりサンはアルクリスタに目を向けない。

「あの……サンストーン様も、ご一緒にどうですか?」

「仕事中ですので遠慮します」

間髪かんぱつ入れずそう言うと、さっさと元の待機場所……入り口の扉の真横……へ戻って行った。

「ごめんなさいね、あの子、人間嫌いなの。何度か人間に危ない目に合わされちゃって……」

「姉さん、個人情報よ」

「はいはい!わかってるわよ」

姉妹らしい言葉のキャッチボールを、アルクリスタは少しだけ微笑みながら聞いていた。

「仲がいいんですのね」

「アルクリスタ様はご兄弟はいらっしゃらないの?」

ペリーの問いに、少しだけ暗い気持ちになってしまう。

「いたのだけれど、もう10年、顔を見ていないのですわ。妹はまだ赤ちゃんでしたから、きっともう、私のことを覚えてはいないのですわ」

「そうなんですね……」

「それよりも、ペリー様のお仕事ってなんですの?」

明らかに話題を変えつつ、アルクリスタは少し気になっていたことを聞いた。

「私はこう見えて、戦闘を主に行うの。女だからと甘く見られることもあったけれど、今じゃ魔王様の側近にまでなっているのよ」

細身で力がなさそうに見えるが、ノワールの側近というだけあって、ペリーはノワールに次ぐ戦闘技術を持っていた。

「サンは人をよく見ていて仕事もできるから、魔王様専属のメイドだったの」

「そうなんですか……?ただのペットである私なんかをお世話して頂いていいのでしょうか……」

「いいのよ!……魔王様の大切な方だしね」

最後の一言はもちろん、アルクリスタには聞こえていない。
魔族であるサンには聞こえていたようで、少しだけアルクリスタをにらむようになってしまった。

それから数時間、2人はお茶会を楽しんだ。



「そうですわ。ペリー様は魔法が使えますか?」

「魔法?」

お茶会の終盤しゅうばん、ふと思い立ってアルクリスタは質問してみた。

「ええ。エルフ族と魔族は魔法を使えると本に書いてありましたけれど、私まだ魔法を見たことがないのですわ」

人間族、ドワーフ族、獣人族は、魔法を使うことができない。その代わり、錬金術れんきんじゅつを主体に科学技術の研究がより深くされている。

「使えるわよ!ただ、人によって使える魔法が違うの。魔法にも属性等があって……」

ペリーの話を要約すると。

魔法には主属性しゅぞくせいが大きく分けて3つある。
1、攻撃特化型の魔法
2、防御特化型の魔法
3、生活に必要な魔法
これに、更に細分化さいぶんかされた各属性。それぞれ応用ができるので、主属性固有の魔法は少ない。
基本魔法は火、水、土、風、雷の5つと、光、闇の2つで計7つ。
更に生活魔法の固有に分類される無属性の魔法がある。
人それぞれ得意とする魔法が変わり、これによって使えない魔法も出てくる。

「魔法って便利だと思われがちだけれど、それも使う者次第なのよね……っと、長々と話しちゃったわね。もっと興味があるなら、魔王様にも聞いてみて!魔王様はあらゆることのエキスパートだから!……恋愛以外」

最後はからかうような笑顔で言って、ペリーは帰っていった。

「それじゃ、帰るわね!またね、アリー様!」

お茶会の途中から、愛称で呼ぶようになり、口調もかなりくだけて話すようになったペリーに、アルクリスタは友達ができたようで嬉しく感じていた。

これまでのアルクリスタには、自分から友達と呼べるような存在はいなかった。
公爵令嬢として色んな人達と話したし、周囲には常に人がいたけれど、誰一人として心を許せる友達とは呼べなかったのである。
周りが見ているのは常に公爵家という肩書き。同じ公爵家の令嬢さえ、自分の兄弟の嫁に、と、政治的な意味の付き合いのみを勧めてきていた。

貴族令嬢としてそれがあまりに当たり前で、なんの後ろ盾もないアルクリスタに、なんの下心なく────ノワールとくっつけようという下心は無視するとして────接してくれたのはペリーが初めてである。

「サンストーン様も魔法が使えますか?」

「魔族であればほとんどの者が使えます」

そして、その流れでサンストーンとも仲良くなれるかと問いかけるも、その一言だけで会話が終わってしまった。

(サンストーン様と仲良くなるには、時間が必要なのですわ……)

嫌いではあるにしろ、会話ができているだけマシだと考えるアルクリスタである。



日も落ち、しばらく経つ頃。
ふいにまた、部屋の扉をノックされた。

「はい」

返事を待つ相手に、ペリーではないことはわかる。

「……やあ」

「ご主人様!いらっしゃいませ」

訪れたのは、ノワールであった。

「いらっしゃるとは思いませんでしたわ」

「……ペリーが、お前とお茶会をしたと言っていたから。それに……その……」

歯切れの悪いノワールに、アルクリスタは首を傾げる。

「お前は、ぺ、ペットなんだろう?……仕事の疲れを癒やしに来た」

少し頬を赤くしながら言うノワールに、アルクリスタはクスリと笑った。

「早速お仕事ですわね。どうぞ座ってください」

サンストーンはノワールにお茶を出す。
アルクリスタはノワールの座ったソファの横に立ち、ノワールの様子を眺める。

「……サン」

ノワールが呼びかけると、サンはすぐに部屋を退室した。

「お前も……何故そこで立ったままなんだ」

「……私も出て行った方がよろしかったでしょうか?」

不安になって聞くと、ノワールは呆れたような顔をする。

「ここはお前の部屋だろう。何故俺を一人にする。……座ったらどうだ」

ノワールがそう言うので、アルクリスタはその場で座り込んだ。

「なっ……」

「?ご主人様と同じテーブルに着くなんて、ペットとしておかしいのですわ」

アルクリスタが考えるペットとは、いわゆる犬猫である。
犬は椅子には座らないし、猫はテーブルに乗れば怒られる。
それと一緒であった。

「……俺が許す。こちらに座れ」

ノワールはもう何も言うまい、という顔で、自分の隣をポンポン、と示した。

「失礼しますわ」

少し距離を開けて座ると、ぐいっと引き寄せられる。バランスを崩して、ノワールの胸元に顔を寄せた形となった。

「……ペットなのだから、距離なんて気にするな」

胸元に顔を寄せているので、ノワールの表情はわからないが、アルクリスタにはノワールの少し赤い顔が見えた気がした。

「そうだ」

一旦アルクリスタを離すと、ノワールは胸元から小瓶を取り出した。

「ペリーから、お前が魔法に興味があると聞いて作った」

手渡されたそれは手のひらサイズのものであったが、とても綺麗である。
小瓶の中には、美しい"月夜"と薄ぼんやりと光る鉱石が入っていた。

「俺は美しい夜が好きだ。赤い月が最も好きだが……お前には澄んだ青が似合う。鉱石には俺の魔力が宿っているから、半永久的に光り続ける。部屋にでも飾ってくれ」

月も鉱石も、確かに青く光っていた。それは黒にも白にも見えるような儚い澄んだ青である。

「とっても綺麗……ありがとうございますわ。私が癒やされてしまいます……」

ほぅ……と息を吐きながら、アルクリスタはしばらく小瓶を眺め続けた。










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