紡がれた意思、閉ざされた思い

北きつね

第六話 修羅場


「ナベさん。ナベさん」

 真辺は、山本に起こされた。

「あぁすまん。寝てしまったみたいだ」
「えぇそうですね。それに、なんど見てもびっくりしますよ。本当に器用に寝ますよね」
「特技だからな。なんなら、秘伝だが、お前になら伝授してもいいぞ?」
「遠慮しておきます。俺は、やわからなベッドの上が好きですからね」
「あぁそうだな。隣に愛おしい奥方が居れば尚良だろ」

 二人は、お互いを見て笑った。
 鉄火場。修羅場。デスマーチ。どんな言われ方をしていても火中にいるのには違いない。しかし、真辺たちは笑う事を忘れない。余裕がない時ほど、”笑え”と言っているのだ。客も最初は不謹慎だと言ったりするが、それでも笑う事を続ける。そうでないと、心が壊れてしまうのを知っているからだ。

 真辺たちも、仲間だった者が心を壊して、最悪な選択をするのを何度も見ている。真辺は、同期だけで三人の葬儀に出ている。関連会社や協力会社を入れればもっと多いだろう。
 自殺という選択肢を選ばなくても、朝出勤してこなかったり、仕事中に突然居なくなってしまったり、狂いだして壁に頭を打ち付けたり、見えない物が見え始めたり、様々な事象を見てきた。後になると笑い話しになる事もある。
 しかし、そうならないためにも、どんなに忙しくても、どんなに追い詰められても、どんなに身体が辛いときでも、笑う事を義務付けている。心からの笑いじゃなくてもいい。作り笑いでもいい。
 作り笑いもできなくなったら、心が摩耗しつくしている時だと考えている。できれば、作り笑いになる前に、強制的に休みを作る事にしている。
 笑えなくなった部下を一人だけで休ませると、最悪な選択肢を選ぶ可能性もある。だから、真辺はどんな修羅場でも、部下が作り笑いになってきたら、全員で休む事にしている。

 笑って、周りを見て、自分を確認しろ。

 真辺たちは、今のチームになってから、一人の脱落者もないまま業界で過ごしている。
 そんな部下たちを真辺は心の底から頼もしく思っている。信頼できる仲間だ。戦友と言葉を使っても違和感は無いと思っている。

「山本。それじゃ、ちゃっちゃと、始めるか?」
「いえ、もう殆ど終わりました。後は、火入れと確認です」
「あっそうか、すまんな。起こせばよかったのに・・・」
「何、言っているのですか?横でサーバラックの解体や移動のすごい音の中でも平気で寝ていた人が・・・」
「それもそうか、すまん。この埋め合わせは、何か精神的な形で還元するからな」
「はい、はい、解っていますよ」

 サーバ室に移動して、電源を入れた。
 順番はないが、幾つかのパターンで電源を入れて、しっかり起動するのかを確認する。
 NASも有るために、NASを最初に起動する様には指導しているが、実際にその通りに、実行してくれる可能性の方が低いだろう。
 施設には、地下発電があるので、停電の心配は少ないが、UPSを入れている。シャットダウンが想定の1/3で終わるのも確認していく、確認が終わったときには、金曜日の26時を回っていた。

「山本。チームメンバーで起きている連中が居たら、集合させてくれ。すこし、まずいことになりそうな状況が発生したから、夜食でも食いながら説明する」
「了解。駐車場集合でいいですか?」
「あぁお前の車以外で移動する事にしよう」
「おれの86はダメですか?」
「俺は、Type-Rが好きだ。時点で、RX7か8だな。新86に乗るのなら、CIVIC Type-Rだな」
「このホンダ教め。いいですよ。解りました、送迎用のバスが借りられるかもしれないから、聞いてみますね」
「そうだな。その方が楽だな。頼む」

 10分後。施設に来ているメンバーほぼ全員が揃った。
 帰ったメンバーも居るが、それでもAM2時にこれだけの人間が揃うのはすこし異常な事だ。

「はぁ・・・」

 真辺は一つため息を着いて

「解った、今日は、俺が出す。酒はダメだが、好きな物を注文しろ」

 結局、複数の車で、隣町にある24時間営業のファミレスに行った。

 そこで、真辺は、チームメンバーに白鳥の一件を説明した。まだ調査中で、篠原に任せた事も合わせて説明した。

「ナベさん。それで、何か俺たちがやることはありますか?」
「茶のみ話でいいから、協力会社や客にロックバルトとの直接のやり取りがなかったか確認して欲しい。ロックバルトの奴は、よほど切羽詰まっているからなにかしている可能性が高い」
「イエッサー!」

 それから、食事をして、ファミレスを出た。
 今日は土曜日。明日は日曜日だという噂が流れている。世間では、日曜日という日が休みだという都市伝説まであるらしい。誰がいい出したのか詳細に聞いてみたい。
 そんな都市伝説の様な話に乗っかって、土曜日と日曜日で、部下を半分ずつ、家に帰す事にした。

 現在の状況を聞いて、帰る順番を決めていく。真辺自身も日曜日の深夜に帰る事にした。

 久しぶりの我が家に帰った真辺だが、やる事がなにかあるわけじゃない。
 それにいろいろな事で面倒になってしまった。近くのスーパ銭湯に行く事にした。
 そこで風呂にゆっくり浸かって、仮眠してから施設に戻る事にした。月曜日は、予定は昼からになっているが、篠原が手配した営業が、施設内のいろいろ場所に挨拶周りをする事になっている。
 それに合わせるように、施設に到着できるように行く事にする。

 真辺が施設に付いたら、丁度営業が最寄り駅に付いたと連絡が入った。
 そこからタクシーを使って来るという事なので、玄関で待っている事にした。

 営業は、全部で7名来ている。

(旦那。気張ってくれたな。それとも、この施設の運用を取るつもりなのか?ちょっと難しいと思うけどな)

「真辺部長」
「あっありがとう。誰がどこに行くのかを決まっているの?」
「はい。篠原部長からの指示が出ています」
「そうか、よろしく。俺は、サーバ室に詰めているから、何か合ったら連絡ください」
「解りました。それから、此奴を、部長に付けます。下僕の様に使って下さい」
「あぁありがとう。初めましてだよね。名前は?」

 身長140cm位の女の子という表現が正しいだろう。
 スーツもまだまだ着られている印象がある。悲壮な顔をしているし、他の面子よりも荷物が多い。泊まりとか言われているのだろう。
 すこし、髪の毛を茶色にして、薄く化粧をしている。

「あっはじめまして、山本貴子といいます。真辺部長。よろしくお願いします」
「ねぇ森君。この娘、家の娘?」
「そうです。今年の新人の中では一番の有望株です」
「へぇそう」
「一通りは仕込んでいますから大丈夫だと想います」
「あっそう。解った。今週が勝負だから、ダメだと思ったら戻すけどいいよね?」

「はい。大丈夫です。山本。いいな。なんとしても、1週間耐えろ!」

「おいおい。森君。それじゃ俺が鬼のようなやつのようじゃないか?俺は基本的に平和主義者だよ」
「あぁそうですね。それでは、真辺部長。山本を頼みます。俺たちは、各部署に別れて作業します」
「あっうん。わかった。部のメンバーは解るよね?」
「もちろんです!」

 営業は、二名ずつになって、石川/小林/井上の所に分かれていった。

「あの・・・真辺部長」
「あぁゴメン。それから、俺のことは、”ナベさん”って呼ぶようにね。客前では、”真辺さん”で頼む」
「解りました。真辺部長」
「ほら・・・。まぁそのうち慣れてね。山本が資料作っているから手伝ってあげて」
「はい」

 サーバ室に移動した。

「おい。山本。営業からここの手伝いをするために来た。山本さんだ」
「おぉ女の子をよこすって、営業は何を感が手言える?」
「文句なら、森君に言ってよ。そもそも、何も考えていないと思うぞ・・・。そうか、二人とも山本か・・・それじゃ、お前を『バカ本』って呼べばいいか」
「ナベさんそりゃぁ酷いな」

 二人のやり取りにあっけに取られている山本さんだったが、自分が来た意味を思い出して

「山本主任。はじめまして、山本貴子といいます。よろしくお願いします。真辺部長。私の事は、貴子と呼んでください。同期にも”山本”が3人居て、名前で呼ばれる方がいいです」
「そうか、解った。貴子さんだね。本当は、ちゃん付けって感じだけどな」
「ナベさん。すっかりおじさんだな。年齢的には、お父さんでも不思議じゃないからな」
「え?そうなのですか?そうは見えないですね」
「ありがとう。貴子ちゃん」
「そりゃそうだよ。ナベさんは気楽な独身貴族で家庭の苦労をしらないから、いつまでも若くいられるのだろう」
「それを言うなら、お前もそんなに変わらないだろう?」

 付き合いが長い山本が、真辺の話に付き合っていると、話が横道に逸れていくばかりなのを悟って、話をもとに戻す。
「ナベさん。それで、貴子ちゃんには何をしてもらうの?」
「あぁロットバルトの件の資料作りだね。お前も俺もそこまで手が回りそうにないからな」
「解りました」
「あぁあと、多分、俺への連絡係だろう?貴子ちゃん」
「はい。そう言われています」
「うん。ロットバルトの事は把握しているの?」
「ロットバルト?」
「ナベさん。それじゃわからないですよ。いいです。俺が説明しておきますよ」
「あぁそうか、頼む」

 山本さんが山本に連れられて端末がある部屋に移動した。
 そこで、昨日、真辺が話した、白鳥の事を説明している。

 聞こえてくる声から、それが解る。真辺は、今週のスケジュールの確認を行う。
 何度も見直しているが、問題はなさそうだ。部下たちには無理をさせているのは解っている。その為にも、自分が組んだスケジュールで狂う要素は少ないほうがいいに決まっている。
 問題は、突発的な問題が発生したときだ。白鳥の問題は、大きな問題だが、政治層の問題で、開発層や運営層には影響してこないはずだ。

 会社に残しているメンバーも居る。何か発生しても対処出来るだろうと思って、すこしだけ安心した。
 それらをまとめて、篠原にメールしておく。

 現場からあがってくる連絡事項や、協力会社からの質問や、修正版を振り分けていると、いつの間にか昼になっていた。
 作業をしていた、山本と山本さんも食事に行くようだ。真辺も一緒に施設の食堂に向かう。

 施設内の人の為に、食堂はだいぶ前から、二種類だけだけど食事を提供してくれている。それを食べながら、篠原や森からどんな事を、言われてきたのかを確認する。
 やはり、徹夜上等で女性でも泊まり込みが普通だと脅されていたらしい。そして、真辺を怒らすと、とんでもない事になるから、絶対に怒らすなと、言われていたと白状した。

(あいつら・・・。次に会った時に奢らせてやる)

 山本が笑いながら誤解だと説明している。
 怖いのは怖いが、それは報告をしなかったり、出来ていない事を出来ていると報告したり、した時だけで普段は昼行灯かと思うような人物と説明した。

(山本、その言い方もどうかと思うけどな)

「え?そうなのですか?」
「あぁ荷物が多いから、徹夜や泊まり込みの準備をしてきたのだろうけど、そこまでする必要はないよ」
「え?そうなのですか?」
「あ。うん。家が遠くて帰るのが難しいのなら、そう言ってね。通勤が辛いとかね」
「あっそうですね。ここまで来るのに、電車を乗り継いで2時間位かかります」
「そうか、それは辛いね。それじゃ、近くにホテルを取るから、そこから通ってよ」
「え?いいのですか?」
「うん。山本。機密費。余裕あるよな?」
「えぇ大丈夫です」
「え?機密費?え?森さんとか篠原部長に言わなくていいのですか?」
「あぁ大丈夫だよ。俺から話しておくからよ」
「はい。すみません。お言葉に甘えさせて下さい」
「うん。石川が泊まっているホテルに空きがないか確認して貰って、一緒に行けば迷わないだろう」
「了解。後で、石川に確認しますよ」「たのむ」「ありがとうございます」

 食事を終えて、山本が石川に連絡して、山本さんを連れて行った。

 真辺達には、会社から支給された経費以外に、真辺が行っている独自の積立がある。急な出張やハードウェアの調達で、緊急に金が必要になる事がある。その時に、会社の承認を待っていると、間に合わない場合が多い。その時の為の隠し金庫だ。隠し金庫というよりも、元々は宴会用の口座だった。最初は、部下たちが真辺と一緒に飲みに行った次の日に、割り勘分を真辺に渡そうとした時に断られて、その金を貯金箱に入れていたのが始まりだ。
 昼飯とか小さくはお茶代とか、真辺に奢って貰った人間が自主的に出して積み立てられていて、チームで飲みに行くときに使おうと思っていた。
 真辺が居ると、真辺が先に会計を済ませてしまうので、減るどころか貯まる一方だったので、山本ら古株が真辺に口座を作ってもらって、そこに積み立てるようになった。
 それを、”機密費”と呼んで、部署で必要になって、会社に請求出来そうな物の時に、機密費から先出しするようにしている。
 本来なら自腹を切って、後清算になるのだが、真辺がそれを嫌っていたので、部署内の公然の秘密になっている。部署以外でも、真辺達と関わりが有った人間たちは知っている者も多い。部署の人間たちは、全部真辺の物だと思っている。しかし、真辺は部署で貯めた物と思っている。

 火が付いている現場では、魔の時間帯がある。
 11時と15時だ、後すこし危険度が下がるが、19時だ。
 朝から何か発生したり、朝からの会議で問題が発覚したりして、連絡が来るのが11時頃だ。

 そして、13時頃から会議が行われる事が多い。この会議が終わるのが15時位だ。15時には、朝から行った会議の裏取りが終わった情報も出てくる。
 19時は、客が帰り始める時間帯で、客が帰るちょっと前に連絡してくる場合が多いのだ。

 そして、今日も15時をすこし回った時に、大きな爆弾が投下された。

 一本の電話から始まった。

『ナベさん。至急、集まりたいのですが、可能ですか?』

 石川からだ。

『どうした・・・』
『ロットバルトの奴。信じられない事をしていました』

 石川からの連絡が入って、すぐに施設を管理している人に施設を借りたい旨を説明して、老人ホームのレクリエーションをしている場所を借りた。
 ここは、30名位が入られる施設になっていて、ホワイトボードやテーブルがあり。会議をするのには適している。
 また、大型TV60インチが二台置かれているので、プロジェクタ代わりにもなって便利なのだ。

 真辺は、皆にレクリエーションルームに集まるように指示した。
 作業をしている人間は、その作業が終わり次第合流するように指示を出した。会社に残っているメンバーにも緊急時に備えて、いつでも出られるように指示をだす。
 篠原や社長や”まともな副社長”の居場所を確認させる。あと、できれば、他の部署の部長や主任の居所も確認させる。

 真辺がそれらの指示を出し終わってから、レクリエーションルームに入ると、各部門の担当をしてもらっている人間と今朝来たばかりだが営業が揃っている。
 一部の営業が、青い顔をしている。よほどの爆弾が破裂したのが解る。営業の状況を見て、他にも緊張が伝播してしまっている。

 真辺は、皆を落ち着かせるように皆に聞かせる。『俺たちが慌てても何も解決しない。それに、俺たちは間違っていない。間違ったのは、SIerだ』と認識させるように言って聞かせる。

 次に真辺が行ったのは、場を落ち着かせる事だ。
「森君。悪いけど、若いやつに、買い物を頼んでいいか?」
「え?あっはい」
「貴子ちゃん。それに、そこの若い奴3人。車を運転出来るやつは?」
「はい。私は出来ます」

 山本さんが手を挙げる。
「そうか、これ、俺の車。4人で近くのショッピングセンターに行って、紙コップと適当に飲み物とおやつ買ってきて、余ったら、好きなケーキや甘い物買ってきていいからね」

 そう言って、3万円を渡す。

「ナベさん。ナベさん。あの車。女の子には無理ですよ」
「そんな事はないよね?貴子ちゃん。MT運転できるよね?」
「え?無理です」
「やっぱり・・・って、ナベさんの車。ナベさん以外で運転出来る人って居ないと思いますよ」
「そんな事ないだろう?普通にちょっとだけいじってある、一般的な1,800ccだぞ!それに、5ナンバーだぞ?」
「ちょっと?まぁいいですよ。貴子ちゃん。俺が送っていくよ。エスティマだからみんな余裕で乗れるよ」

 井上がそう言って、立ち上がって、営業の若手を引き連れて部屋を出ていった。

「さて、石川。何があった?」
「あっこれを見て下さい」

 真辺に向かって、営業の森が、真辺の行為で気がついたのだろう。

「あっ真辺部長。ありがとうございます」

 森は真辺に一礼した。

「何のことだ。俺は、甘いものが食べたくなって、俺のわがままで、営業に買い物に走ってもらった。文句を言われるのなら解るが、礼を言われるような事ではないぞ」
「そうですね。そういう事にしておきます」

「石川。早く説明しろ。30分位で戻ってくるぞ。今の時間はエメラルドの粒よりも貴重だぞ」
「はいはい。見つけた物はこれです。裏取りも終わっています。そして、問題はこの書類です。こっちは、まだ裏取りしていません。ナベさんに確認してからと思っていました」

 一つ目の書類に目を落とす。

 (斜め上を行ってくれる)

 その書類は、某ハードウェアメーカの書類で『サーバ及びネットワーク機器。貸出契約書』となっていた。
 先週末に、山本が移動したサーバ群は、ハードウェアメーカから借りている物だ。期限が、8月末となっている。丁寧に、返却の催促の通知も2通届いている。
 最終警告書が一通届いていた。

「石川。森。どういう事だ?」
「あぁ・・・そういう事です。あれだけのサーバですからね。買って、動きませんでしたでは済まないと思って、レンタルにしたのでしょう。現場はそう説明されていたようです」
「そうか、この契約書では、レンタルではなく、短期間の無料貸出になっているぞ」
「はい。メーカに連絡して確認しました。SIerの名前で貸し出されたサーバのようです。ただ、設置場所はこの施設になっていないようです」
「ん?ならなんで、催促がこっちに来ているのだ?」
「ロットバルトが、実環境で動かしてみると言って設置場所の変更をしたようです」
「はぁ俺たちは、無料貸出で、もうすでに貸出期間が過ぎている端末でテストしていたわけか・・・。ハン!滑稽だな」
「はい。それで、こっちの経理に確認したら、ロットバルトからサーバのレンタル料金の請求が来ているそうなのです」
「あいつ。どこまで腐っている」

「井上。片桐に連絡して、すぐに来いって言ってくれ」
「解りました。理由は?」
「俺がすごい剣幕で呼んでいるって言えば解る。それでも渋ったら、”白鳥の件だ!”と、言え」
「イエッサー」

「あぁすまん。石川。それで、施設は払ったのか?」
「いえ、まだ支払っていないそうです」
「そうか、それは良かった。なんで支払いをしなかったのだ?」
「返還の催促状が来たので、それをロットバルトに聞いたら、メーカと交渉するからすこし待って欲しいと言ってきたそうです」
「了解。その裏取りは出来たのか?」
「いえ、施設側に来た請求書は抑えましたが・・・。録音などはありません。メールは、来ていましたが、フリーアカウントからでした。メールは抑えました」
「そうか、わかった。山本。後で、メールのヘッダの解析を頼む」
「ラジャ!」

「石川。請求書は、電子ファイルなのか?」
「はい。そうです。Excelファイルでした」
「そうか、後で、ファイルを俺に回してくれ」
「解りました」

(Excelファイルならもしかしたら、関連付けられたアカウント情報が解るかもしれない。決定的な証拠にはならないけど、状況証拠の補完にはなるだろう)

「森。メーカに、今のハードウェアをそのまま買い取れないか確認してみてくれ」
「ダメでした。石川さんに言われて、すぐに交渉したのですが、まずは返してくれの一点張りです」

「あぁナベさん。あれって、○PとD○LLで、多分余った”球”を回したけど、使い所が出てきたって所でしょ」
「森。ダメ元で、2割増しで買い取るけどダメか?と交渉してくれ。オーバ分は、篠原の旦那に交渉してもらおう」

「あ。ナベさん。その件だけど、次の書類を見て下さい」

 石川に言われて、真辺は、もう一つの書類を手にとって、確認した。

「おい。石川。嘘だと言ってくれ・・・」
「・・・。ドッキリです。と言えれば、どんなに幸せなのか・・・。でも、事実です」

 そこには、白鳥から真辺の会社に向けての見積依頼書だ。
 それに対する返答として、貸出書類にあったハードウェア一覧と同じ構成の物が書かれていて、”約倍”になった値段が書かれていた。作成者は、副社長の名前になっている。
 日付は、9月7日。白鳥が、ドメイン料金の請求書を発効した日付だ。

 そして、次には、副社長からSIerに対して、請求書を出している。名目は、ハードウェア一式購入の為の前金となっている。前金額は、半額を請求している。
 振込口座は、副社長が持っている別会社の口座になっている。

 そこで終わっていたらまだ救いがあったが、終わりではなかった。

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