四ツ葉のヒロイン候補達は幸福を届けてくれない

コタツ

5話モテない男子高校生のとある会話

 昼休み、弛緩した空気が流れる中で俺は数人女子生徒の後ろをついて歩く夏希に声をかけた。

「おい、箸忘れてたぞ。 手で食う気か」

 夏希は友達に一言何かを言うと、一人になったところで箸を受け取り周りを見ながらボソッと言う。

「ありがと」

「あー別に同じクラスだったからな。 他クラスなら持って行ってない」

「それをわざわざいう辺り性格の悪さがでてますね……。 他に何か要件はありますか?」

「いや特にないけど……学校で話しかけるとお前いつも嫌がるような顔するな」

 その言葉に、若干夏希が反論する。

「嫌がるようなではなく嫌がってるんです。 悠河と私は一応双子という形で周りに知られてるんですから、あまり話してるとその……」

「恥ずかしいのか!」

「違いますよ! 友達の中で色々と言われるのが嫌なんです。 悠河には分からないと思いますけど」

 なるほどな。 女子の人間関係というのはどこか難しいと思うが、男子も似たところがあるから夏希の気持ちが分からないわけでもない。

「では、友達を待たせてるので。 お箸ありがと」

 夏希はそのまま教室を出て行った、いつもどおり食堂にでも行くんだろうか。
 俺が自分の席に戻ると、勢い良く友人の山田浩太《やまだこうた》飛びかかってきた。

「ゆーうーが!!! 死ねぇぇぇぇぇえ!!!」

 あぶね、横にかわす。
 すると、そのまま浩太は何処かに飛んでいき、壁にぶつかった。

「かわすなや!」

「やだよ。 お前本気で蹴りに来ただろ……殺す気か」

「当たり前や! 我がクラスのアイドル夏希ちゃんに近づく奴はたとえ親友だとしても潰す!」

 ほら夏希、俺もこれがあるんだよ。
 隣にもう一人友人の榊我久《さかきがく》は穏やかな笑みを浮かべ二人の様子を眺めている、助けろや。

「ばっか、俺とあいつは双子だから学校で話すのも当たり前だろ」

「なおさらや! お前が夏希ちゃんと一つ屋根の下で寝泊まりしてることにどれだけの高校男児が根に持ってることやら……私服姿に寝顔……手料理。 羨ましいなぁ! なぁ、我久も思うだろ!?」

 ようやく席につけたかと思えば俺この学校の男子からそんな風に思われてるの? いじめられないよね……。

「ん? 俺にいきなり振られてもな。 確かに四葉さんは可愛いけど俺らじゃ高嶺の花だろ?」

「なーに言ってんだよ、クラス一のモテ男が」

「やめてくれよ、俺なんて全然だ」

「俺もこれに関しては浩太に同感だな」

「悠河まで!? お、お前らな……そう言っても俺ら三人彼女いないだろ」

 我久の言う通り俺らがつるんでから一度もそんな浮かれ話聞いたことないな。
 それでも、我久は俺たち三人の中でも際立ってモテるんだけどな。
 浩太はちょっと調子乗りで空回り、俺はそもそも性格が暗い、それに比べて我久は誰に対しても優しく、爽やかイケメンで、これと言った欠点もない。 女子の噂じゃ俺と浩太は我久君親衛隊とか呼ばれてるらしい(夏希情報)。 ふざけんな。

「はぁ……俺も! 夏希ちゃんとイチャイチャしてーな! なぁ悠河! 夏希ちゃんって彼氏とかいるのか?」

 俺に聞くなよ……そんな話したことねーよ。

「あいつ勉強ばかりでそいうの疎いからな、恋愛経験なんてゼロに近いぞ」

「意外だよなー、みんな可愛い可愛い言ってんのに誰も告白しないんだからよー。 オーラがあるよなやっぱりうんうん」

 あいつが可愛いね……。 顔は確かに他と比べれば秀でてるかもしれんが、他が壊滅的だからな……美化されすぎなんだよな。

「そこまで言うなら浩太が告白したら良いんじゃないか? 俺は応援するよ」

「我久ーそんな簡単に言うなよー! 夏希ちゃんと同じクラスになったのは今年からでほとんど関わらないんだぞ? ほら、もっとキッカケとかな…………キッカケあるじゃん!」

 嫌な予感がするんだが、こっちみんな。
 だが、どこか真剣な表情で俺の方を向く浩太。

「お前がいるじゃないか……悠河」

「は?」

「今週の日曜、お前の家行くわ!」

「はっ!? はぁぁぁあ!? やだよ! 来んなよ!」

「我久も来るよな?」

 こいつ俺の話を聞いちゃいない。
 ぶん殴ってよろしいか。

「俺は部活も丁度休みだから良いけど……悠河の許可がなけりゃ勝手に行くわけにも行かないからな」

 さすがイケメン! ナイスフォローだ。
 だが、隣の浩太は諦めてない様子で。

「良いじゃん良いじゃん! 別に夏希ちゃんに会いに行きたいとかじゃないって! ただお前の家一度も行ったことないだろ? それで気になってさ? な? 良いだろ! 悠河!」

 下心丸見えなんだよな……だが、こいつら二人を夏希以外のあいつらに会わせるのは何やら嫌な予感しかしない。
 だがここまで言われると一言嫌だと断っても聞かないし、俺はちょっと悩む。

「わかったわかった! 家に聞くから後日また言うよ、それで無理なら諦めろよ?」

「うしっ! サンキュー悠河! あ、別に夏希ちゃんはいなくても良いからな? で、でも声ぐらいは掛けといてくれても?」

「俺がそんな優しい男に見えるか?」

 ……やっぱり断れば良かったかな。
 夏希には何処かに行ってもらおう、そうしよう。
 まぁ何にせよ、多分他が反対するか。
 一旦、話が途切れた所で我久が一つ話題を振る。

「そういえば進路調査の紙、二人は決めたか?」

「あーなんも考えてないなー! 進路とか言われてもあと二年あるし……そんな先のことわかんらんっしょ」

「浩太は適当だからな……違って悠河は真面目だしどうなんだ?」

 進路か……確かに俺は大体決めて部分もあるが、この件は近々家で話そうと思ってたんだよな。

「俺は今のところ進学かな、やりたいこともないし大学行くつもりだ」

「受験とか考えたくねーな! 高校受験が終わったばっかなのにまたすぐそんな時期かよー!」

「我久は決めてるのか?」

「俺は推薦を狙ってる。 勿論部活でだけどな。 悠河みたいに頭が良いわけじゃないから、俺が大学に行くにはそれしかないしな」

 我久は静かに笑いながら、食べ終わったお弁当片付け始める。
 浩太は面白くないのか凄く退屈そうだ。

「二人ともそんな堅苦しい話やめてさ! ほら、女の子の話とかさ、コイバナとかさ! もっと男子高校生みたいな話しようぜー!」

「だってお前一緒の話しかしないじゃん」

「ち、ちげーよ! 俺は一途なんだよ! 夏希ちゃん一筋!」

「あ、夏希」

 俺が指差すと慌てた様子で椅子から転げ落ちる浩太。

「どこ!? 嘘!? 俺の話聞かれてた!?」

「わりぃ。 英語のハギワラ先生だったわ」

「悠河……ビビらせんなよ! それに間違える要素ねぇからな!? シンデレラの魔女ぐらい違うぞ!?」

 それを聞かれたらどうすんだ……。

「ほんと毎日同じ話してるのに飽きないよな俺たち」

「だな。 でも平和で良いんじゃね」

 一人テンションの高い浩太を眺めつつ、我久と俺はそんなやり取りを交わす。
 そう、俺はこんな冴えない日常が大好きで仕方がない。 
 どこかの誰かは俺のことをラノベの主人公と言ったみたいだが、そんなイベントを一度も望んだことはない。
 どちらにせよ、現実じゃそう甘くはないけどなと鼻で笑った。

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