四ツ葉のヒロイン候補達は幸福を届けてくれない
3話妹はゴキと戯れて
数種類の野菜達を食べやすい大きさに切り、皿の上に盛り付けていく。
「肉の方はどうだ? 野菜終わったけど?」
俺は横目に作業する夏希を見る。
夏希も鶏肉を大きさは大小様々だが良い感じに切っていた。
二人で作業するのはやはり効果的で、俺的には敵対されるよりもこっちの方が気が楽だし助かるんだよな。
「肉の盛り付けが終わったら机の上をちょっと片付けてくれ。 俺はホットプレート置くから」
夏希が頷くのを確認してから俺は物置部屋に入りホットプレートを探す。
非常食やら調味料にいつ使ったか分からないようなベーカリー機など物が溢れかえっている。 いつかここも整理しないとな。
それから数秒探していたモノを見つけ物置から出ると台拭きを握っている瑚子は足を震わせながらこっちに飛んできた。
「いきなりなんだよ!?」
ぎゅっと俺の服を掴みながら後ろに隠れる夏希。 
「あ……ああ…………あそこ…………」
俺は後ろから指差すその先を目を凝らし観察してみる。
家の床をカサカサと音を立てながら動く黒い影。
それは、少し大きめのゴキブリだった。
なるほど、そういえばこいつ大の虫嫌いだったな。
「大袈裟なんだよ……。 ただのゴキブリじゃねーか。 初めて見るわけでも、何か害があるわけでもないんだからほっとけば良いだろ」
てか、そろそろ離してくれませんかね息遣いが近いし! ホットプレート重たいから!
「いやです! いやです! 何とかしてください! 悠河は一応男なんですから! 始末してください!抹消してください!!!」
叫ぶと同時に、俺の肩を掴みながら揺すってきた。
落ちる落ちる! ホットプレート落ちるから!
「わかったわかったよ、とりあえず俺がどうにかするからお前はそこで見てろ」
涙目でうんと頷く夏希、さっきまで威勢は姿形なく隠れてしまっている。 こう見れば普通なんだがなー。
面倒臭いが俺は近くにあった新聞紙をクルクルと丸め棒状にする。
それからゴキにゆっくりと近づいていく。
悪いな……お前は何もしないって分かってるんだけどな……ウチの馬鹿が怖い怖い叫ぶからこのままだと近所迷惑になっちまう。
そして——
「せいっ」
掛け声とともに軽く棒を振り落とした。
見事ゴキにクリンヒットし、棒を退けるとピクピクと痙攣していた。 上から被せる感じにしたから殺しはしてないけどこれ治るかな。
「悠河終わりましたか……?」
未だ奥で震えている夏希は少し首を伸ばして聞いてくる。
「とりあえずはな。 お前もそろそろ虫に慣れろよな。 これからもずっと俺がいる保障なんてないんだから」
「そんなこと言われても無理な物は無理です……悠河のこいうところは本当に頼りになるので、こういった緊急事態の時は飛んできてくださいよ」
夏希はそう言いながら、俺の後ろにやってくる。
「もう少し言い方を考えてくれ、褒められてるのは分かるが嬉しくねー。 あと、絶対呼ばれても行かねーからな」
基本俺は生物皆兄弟主義で殺すことに抵抗がある。 こいつも俺が一人で居たならティッシュにくるんで外に逃がしたんだけどな。
さて、いつも通り後は外に出すだけなんだけどティッシュは机の上だったけ。
と俺がティッシュを取りに行っていると何やら玄関先から物凄い足音の何かが迫ってくるのが聞こえる。
「おかえりんごの! ひゃーほーいッ!!!」
勢いよく開けられたドアから意味のわからない掛け声と共にそいつ、四葉愛秋《よつばあき》は飛び込むかのよう帰宅する。
どこか幼げな雰囲気もあるがこう見えて俺と比べて年が一つしか違わず何かと心配。 むしろこの家で一番ヤバい奴といっても過言じゃない。
「愛秋うるさいですよ? ほら、すぐご飯にしますから着替えて着なさい」
「おっなんだか今日のご飯も豪華そーだね! ん? ゆーにぃ何してるの?」
俺がゴキを捕まえようとすると、愛秋が興味津々に覗き込んできた。
「……!? アトランティスオオカブト!?!?」
こいつ何言ってんだ。
「どこをどう見てカブトムシに見えんだお前の目は……ただのゴキブリだろ?」
「ち、違う。 この大きさにこの艶間違いなくあっしのペットのコーカサスオオカブトだよ」
ペットだと……それにアトランティスオオカブトじゃ無かったのかよ。
「なんで……なんで、彼をこんな姿にしたんだ!!! ゆーにぃには人の心ってモノがないのか!」
泣き叫ぶ愛秋にボロクソ言われる。 いや、ホントにこいつうるせー。
「俺も別に殺すつもりはなかった。 でも、そこの半べそかいてる奴がヤレッて脅すから」
「な、泣いてませんし! そこまで酷くは言ってないです!」
「なつねぇーもゆーにぃも悲しくないんか! あっしらの友達が死んだんやで! まだピクピクしてるけど!」
膝をつきながら拳を地面に何度何度も打ち付け悔しがる愛秋。
俺は何を見せられてるんだ。
愛秋の世界は独特で関われば厄介だと知っている俺と夏希は静かになるまで見守っていた。
「あっしが毎日苦手なピーマンを残してヘラクレスオオカブトに与えて育てた苦労も知らずに……許さない……ゆーにぃのお命ここで頂戴いたす!」
「ばっか! 暴れんな! 上で姉ちゃん寝てんだよ!」
俺が叩いた新聞紙を手に取り振り回してくる愛秋の一撃をなんとかバックステップで回避しながら一撃を避ける。
すると、愛秋は立ち止まりゴキの方を向く。
「どうしたの? ヘラクレス…………うん……わかった」
名前ヘラクレスで決まっちゃったのかよ。
そんなどうでも良いことを考えると愛秋もどうでも良い演技でゴキに自分の耳を傾ける。
「醜い争いを止めろ愛秋。 復讐したってそこに生まれるのは悲しみだけだ、私のことは良いお前は幸せになれ。 その心の中に私はいつでも生きている」
裏声混じりの低い声を出しながらうわーと泣き出す。
「いやぁ! 死んじゃ嫌! あなたが居なきゃあっしは生きる希望もないの!」
ドロ沼の恋愛小説か。
ほらついに夏希さん疲れて小説読み出しちゃったよ。
「あっしもあなたを追いかけます。 あなたが居ない世界にあっしがいる価値なんて無いですから……今行きますね」
立ち上がった愛秋は拳を高々と突き上げて手をナイフの形にし勢いよく自分の心臓辺りに突き刺した。 実際、刺さってないけどね。
「我が生涯に一片の悔いなし!!!」
そのまま隣に倒れこむかのようゴキと向かい合わせになる。
なんで最後の台詞だけ少年マンガ入ってんだよ……それも昭和の名作じゃねぇか。
「ゴキ君……あなたと出会えてホントに幸せでした。 このまま二人で棺桶入ろうね」
なんだよ、そこは天国とかだろ普通。
少しリアルな話を織り交ぜつつ愛秋の奇怪な行動も幕を下ろしたらしい。
一体俺は何を見せられてるんだ! さっきも言ったな。
「ゆーにぃどうだった!? あっしのハイクオリティなえ・ん・ぎ! これならアカデミー賞も余裕だね!」
「よーし飯食うか」
「無視!? 華麗なスルー! あっしの演技を最後まで見といてその仕打ち! ゆーにぃ……アレだね? 追う立場より追われたい派だな?」
「お前の晩飯ピーマンだけにするぞ?」
「あー!!! ごめんなさい! 謝るから! 許してください! お肉いっぱい食べるから!」
「いや待て、ピーマンも食えよ」
はぁ……どうしてこうもこの家の奴らはここまで個性が強いのか……。 それにまだ後一人居るんだよな、問題児。
「賑やかな家庭ですね、ホント……」
呆れた様子で夏希が声を漏らすが、お前もだからなと心の中でツッコミつつ、俺はゴキを窓から逃がしてやった。 生きろよ絶対。
「肉の方はどうだ? 野菜終わったけど?」
俺は横目に作業する夏希を見る。
夏希も鶏肉を大きさは大小様々だが良い感じに切っていた。
二人で作業するのはやはり効果的で、俺的には敵対されるよりもこっちの方が気が楽だし助かるんだよな。
「肉の盛り付けが終わったら机の上をちょっと片付けてくれ。 俺はホットプレート置くから」
夏希が頷くのを確認してから俺は物置部屋に入りホットプレートを探す。
非常食やら調味料にいつ使ったか分からないようなベーカリー機など物が溢れかえっている。 いつかここも整理しないとな。
それから数秒探していたモノを見つけ物置から出ると台拭きを握っている瑚子は足を震わせながらこっちに飛んできた。
「いきなりなんだよ!?」
ぎゅっと俺の服を掴みながら後ろに隠れる夏希。 
「あ……ああ…………あそこ…………」
俺は後ろから指差すその先を目を凝らし観察してみる。
家の床をカサカサと音を立てながら動く黒い影。
それは、少し大きめのゴキブリだった。
なるほど、そういえばこいつ大の虫嫌いだったな。
「大袈裟なんだよ……。 ただのゴキブリじゃねーか。 初めて見るわけでも、何か害があるわけでもないんだからほっとけば良いだろ」
てか、そろそろ離してくれませんかね息遣いが近いし! ホットプレート重たいから!
「いやです! いやです! 何とかしてください! 悠河は一応男なんですから! 始末してください!抹消してください!!!」
叫ぶと同時に、俺の肩を掴みながら揺すってきた。
落ちる落ちる! ホットプレート落ちるから!
「わかったわかったよ、とりあえず俺がどうにかするからお前はそこで見てろ」
涙目でうんと頷く夏希、さっきまで威勢は姿形なく隠れてしまっている。 こう見れば普通なんだがなー。
面倒臭いが俺は近くにあった新聞紙をクルクルと丸め棒状にする。
それからゴキにゆっくりと近づいていく。
悪いな……お前は何もしないって分かってるんだけどな……ウチの馬鹿が怖い怖い叫ぶからこのままだと近所迷惑になっちまう。
そして——
「せいっ」
掛け声とともに軽く棒を振り落とした。
見事ゴキにクリンヒットし、棒を退けるとピクピクと痙攣していた。 上から被せる感じにしたから殺しはしてないけどこれ治るかな。
「悠河終わりましたか……?」
未だ奥で震えている夏希は少し首を伸ばして聞いてくる。
「とりあえずはな。 お前もそろそろ虫に慣れろよな。 これからもずっと俺がいる保障なんてないんだから」
「そんなこと言われても無理な物は無理です……悠河のこいうところは本当に頼りになるので、こういった緊急事態の時は飛んできてくださいよ」
夏希はそう言いながら、俺の後ろにやってくる。
「もう少し言い方を考えてくれ、褒められてるのは分かるが嬉しくねー。 あと、絶対呼ばれても行かねーからな」
基本俺は生物皆兄弟主義で殺すことに抵抗がある。 こいつも俺が一人で居たならティッシュにくるんで外に逃がしたんだけどな。
さて、いつも通り後は外に出すだけなんだけどティッシュは机の上だったけ。
と俺がティッシュを取りに行っていると何やら玄関先から物凄い足音の何かが迫ってくるのが聞こえる。
「おかえりんごの! ひゃーほーいッ!!!」
勢いよく開けられたドアから意味のわからない掛け声と共にそいつ、四葉愛秋《よつばあき》は飛び込むかのよう帰宅する。
どこか幼げな雰囲気もあるがこう見えて俺と比べて年が一つしか違わず何かと心配。 むしろこの家で一番ヤバい奴といっても過言じゃない。
「愛秋うるさいですよ? ほら、すぐご飯にしますから着替えて着なさい」
「おっなんだか今日のご飯も豪華そーだね! ん? ゆーにぃ何してるの?」
俺がゴキを捕まえようとすると、愛秋が興味津々に覗き込んできた。
「……!? アトランティスオオカブト!?!?」
こいつ何言ってんだ。
「どこをどう見てカブトムシに見えんだお前の目は……ただのゴキブリだろ?」
「ち、違う。 この大きさにこの艶間違いなくあっしのペットのコーカサスオオカブトだよ」
ペットだと……それにアトランティスオオカブトじゃ無かったのかよ。
「なんで……なんで、彼をこんな姿にしたんだ!!! ゆーにぃには人の心ってモノがないのか!」
泣き叫ぶ愛秋にボロクソ言われる。 いや、ホントにこいつうるせー。
「俺も別に殺すつもりはなかった。 でも、そこの半べそかいてる奴がヤレッて脅すから」
「な、泣いてませんし! そこまで酷くは言ってないです!」
「なつねぇーもゆーにぃも悲しくないんか! あっしらの友達が死んだんやで! まだピクピクしてるけど!」
膝をつきながら拳を地面に何度何度も打ち付け悔しがる愛秋。
俺は何を見せられてるんだ。
愛秋の世界は独特で関われば厄介だと知っている俺と夏希は静かになるまで見守っていた。
「あっしが毎日苦手なピーマンを残してヘラクレスオオカブトに与えて育てた苦労も知らずに……許さない……ゆーにぃのお命ここで頂戴いたす!」
「ばっか! 暴れんな! 上で姉ちゃん寝てんだよ!」
俺が叩いた新聞紙を手に取り振り回してくる愛秋の一撃をなんとかバックステップで回避しながら一撃を避ける。
すると、愛秋は立ち止まりゴキの方を向く。
「どうしたの? ヘラクレス…………うん……わかった」
名前ヘラクレスで決まっちゃったのかよ。
そんなどうでも良いことを考えると愛秋もどうでも良い演技でゴキに自分の耳を傾ける。
「醜い争いを止めろ愛秋。 復讐したってそこに生まれるのは悲しみだけだ、私のことは良いお前は幸せになれ。 その心の中に私はいつでも生きている」
裏声混じりの低い声を出しながらうわーと泣き出す。
「いやぁ! 死んじゃ嫌! あなたが居なきゃあっしは生きる希望もないの!」
ドロ沼の恋愛小説か。
ほらついに夏希さん疲れて小説読み出しちゃったよ。
「あっしもあなたを追いかけます。 あなたが居ない世界にあっしがいる価値なんて無いですから……今行きますね」
立ち上がった愛秋は拳を高々と突き上げて手をナイフの形にし勢いよく自分の心臓辺りに突き刺した。 実際、刺さってないけどね。
「我が生涯に一片の悔いなし!!!」
そのまま隣に倒れこむかのようゴキと向かい合わせになる。
なんで最後の台詞だけ少年マンガ入ってんだよ……それも昭和の名作じゃねぇか。
「ゴキ君……あなたと出会えてホントに幸せでした。 このまま二人で棺桶入ろうね」
なんだよ、そこは天国とかだろ普通。
少しリアルな話を織り交ぜつつ愛秋の奇怪な行動も幕を下ろしたらしい。
一体俺は何を見せられてるんだ! さっきも言ったな。
「ゆーにぃどうだった!? あっしのハイクオリティなえ・ん・ぎ! これならアカデミー賞も余裕だね!」
「よーし飯食うか」
「無視!? 華麗なスルー! あっしの演技を最後まで見といてその仕打ち! ゆーにぃ……アレだね? 追う立場より追われたい派だな?」
「お前の晩飯ピーマンだけにするぞ?」
「あー!!! ごめんなさい! 謝るから! 許してください! お肉いっぱい食べるから!」
「いや待て、ピーマンも食えよ」
はぁ……どうしてこうもこの家の奴らはここまで個性が強いのか……。 それにまだ後一人居るんだよな、問題児。
「賑やかな家庭ですね、ホント……」
呆れた様子で夏希が声を漏らすが、お前もだからなと心の中でツッコミつつ、俺はゴキを窓から逃がしてやった。 生きろよ絶対。
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