俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

ダンジョン内での実戦授業中にアクシデント遭遇

「今回は魔物も全体的に弱めだし、地下三階に着いたら何体か狩るか」
「今回は、自分の物は自分で管理してるから、時間かけずに戻れるよね」
「エッジの奴、この班にいらねぇんじゃね?」

 おい、本人に聞こえてるんだが?
 まぁ……いいけどよ。
 無事に冒険者として卒業できりゃ文句はない。

「さて、地下三階に辿り着いたが」
「うん。どんなのが出てくるんだろ」
「……オークがいるみたいだな」
「補助魔法、かけとくね、ヒュージ、ノクト」

 油断はない。
 この時点までは。

「私にも魔法効果の補助かけとこ」
「うん、万全にしないとね」

 発見したオークも俺らに気付いた。
 明かりが奥まで届かない。
 が、少なくとも七体はいた。

「まずは俺らが物理攻撃っ!」
「あらかじめ補助魔法はかけてるから、こっちからも魔法攻撃仕掛けるよ!」
「あぁ、頼む、マーナ、アイラ、フォールス!」

 いつもの通りの魔法攻撃。
 だったんだが。

「うおっ! お前、魔法増強の術かけてたろ! 巻き沿い食らうとこだったぞ!」
「あ、ごめんごめん」
「油断しないの! まだオークが二体残ってる!」

 俺は違和感を感じた。
 だがその原因はすぐに分かった。
 何を言われても構わねぇ。
 後悔だけはしたくねぇ!

「ヒュージッ! ノクトッ! そっからどけええぇ!」

 俺は猛ダッシュで二人に向かって駆けだした。
 地面にひびが入ってた。
 攻撃が地面にまで響いてたらしい。
 そしてこのダンジョンはまだ地下がある。
 地面に穴が開いちまったら救出は難しくなる。
 なんせ前衛二人を失うことになるんだから。

「お?」
「ちょっ!」

 ヒュージにしがみついて、後ろに向かって放り投げる。
 俺によくそんな力があるもんだって、我ながら思うよ。
 続いてノクトも放り投げた。

「エッジ! 危ないっ!」

 フォールスが俺に向かって走ってきた。
 何が危ない?
 俺もそっちに行けば問題は何も……。

「お?」

 急に足元がふらついた。
 眩暈、じゃないよな。

「エッジ! ぼんやりするな!」

 フォールスが俺に抱き着いてきた。
 何を焦ってるのやら。

 と思ったら、足元が漆黒の闇に包まれている。

「え? これ……」

「エッジ! フォールスーっ!」

 他のメンバーが叫んでる。
 ようやく俺は理解した。

 俺の予感は当たってた。
 地面が割れ、瓦礫と一緒に下の階層に落ちていくところだった。
 間もなく俺はフォールスと一緒に、強い衝撃を受けると同時に地面に叩きつけられた。
 上を見上げると、高い天井に穴らしきものが見える。
 ひょっとしたらメンバーが上から覗き込んでるかもしれない。
 けどこっちからは見えなかったし、おそらく向こうも見えなかっただろう。

 俺も、そしてフォールスも声を出すのを我慢した。
 上からも安否を確認する声も聞こえない。
 これは当然だ。
 声を出したら魔物達にも聞こえてしまうから。

「……痛てて……。フォールス……。とりあえず、怪我は?」
「ないわよ。あなたにもないでしょ? ダメージ軽減の補助魔法のお陰ね」

 オークとの戦闘前に準備した魔法の効果は、こういうことにも現れる。
 それにしても、真っ暗じゃないのは助かる。
 薄明りなのは、おそらく魔物も真っ暗なところじゃ住みづらいんだろう。
 そいつらの魔力で明かりを灯してる……んだと思う。
 でもそれはこっちにとって助かった。
 なんせ俺の持ち物は、全部上の方にあるから。
 ちなみにフォールスのも。

「……あのさ」
「何?」
「なんで俺を助けようとしたの?」
「……エッジ、あんたは何であの二人を助けようとしたの?」

 質問を質問で返された。
 まぁいいけどさ。

「そりゃあいつらは前線の貴重な戦力だからな。でもお前は」
「あんたは戦力にはならないわね」

 知ってるよ。
 自覚してる。

「でも一応、グループの一人だし、全員生還が前提にされてるから」

 あ、そういうことね。
 なら納得。
 何と言うか、フォールスって、学校にとっての優等生のイメージだからな。

「けど、全員生還は難しくなったな」
「え?」

 どうやら暗さへの視力の対応は俺の方が優れてるらしい。
 極限状態で判明する能力ってあるんだな。

「目の前に……でかいワニがいるんだけど」
「え?!」

 ワニって大抵水辺にいるよな。
 水が流れる音とか、水があることで冷気を感じたりすることがあるけどそんな気配もないんだよ。
 ワニとは別種かもしれんけど体の作りはおなじみみたいだから、おそらくそれと同じような行動を起こすと思う。
 そして敵意を持った時の行動は、大きな口を開けて飛び掛かってくるかあるいは……。

「危ないっ!」
「キャッ!」

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