俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

俺、エッジ=エズの家のこと 2

 母さんは、俺を育てなきゃならない、みたいなことを言って、しばらく休んでた冒険者業を再開した。
 そして俺は、いつまでも親に甘えてばかりいてはならないって思うようになった。
 だから最後の甘えを許してくださいって頭を下げた。
 母さんは、何馬鹿な事言ってるのって大笑いしてたけど、俺は本気だった。

 体力がついたら、魔力がなくても冒険者になる。
 ひと山でもふた山でも当てて、母さんに楽させてあげたいんだ。

 けど、魔力がないってことだけで、いろいろとハンディがあるんだよな。
 体力がないうちにできることってば、荷物の管理くらいなんだってさ。
 中には体力も増えない人もいるらしい。
 そうなったら普通に一般職に就くしかないんだって。

 それだと母さんに楽させてやれないから、何とか頑張らないとって必死になった。

「じゃあ母さん、仕事に行ってくるから。弁当用意してるから忘れないでね」

 俺が起きて着替えをしてる時には母さんはいつも、身支度を既に整えていた。
 そしていつも俺に一声かけてから出かける。
 だから俺が学校に行くときは、俺一人しかいないわけだ。

 誰もいなくても真面目に通ってるよ?
 けど問題が一つ起きちゃってさ。

「……なんか、物足りないんだよな……。作ってくれた弁当も今食って、昼までは大丈夫って感じなんだよな……」

 弁当、もっと量を増やしてほしいって思うんだけど、何か言いづらくってさ。
 いろいろ苦労してるの、知ってるから。

「おにぎり、作ってみるか」

 手の平に少し溢れるくらいの大きさの握り飯を七個。
 昼ご飯にするにはちょっと多いかもしれないけど、余ったら学校帰りに食べながら帰る。

 けど、おにぎりを作ってるときも、ちょっとだけ気が重い。
 自分のことは全部自分でできるようになれたら、こんな風に感じることはないんだろうけど。

 でも、他にも気が重くなる理由はある。

 学校に行くだろ?
 普通の勉強もするけど、冒険者としての知恵を身につけるのが中心になる。
 現代の冒険者は、欠点を補う者達同士でパーティを組んで活動するのが主流なんだ。
 卒業後すぐに実践に出られるように、現役の冒険者の活動に近いカリキュラムを取り入れてるんだって。

 授業の内容は、講義と実践。
 その実践のため、クラスでは男女三人ずつの六人一組にパーティを組まされた。
 パーティを組まされる前に、全員適してるポジションの検査を受ける。
 といっても、前衛か後衛かってことだけなんだけど。

 魔力がない奴、少ない奴は俺だけじゃないどころか、割といた。
 体力があれば武力任せの前衛に割り当てられる。
 でも俺は残念ながら、ご飯はたくさん食べるようになったけど筋肉がなかなかつかない。

「鬼人族で体力がない、というのも珍しいな……。まぁ家族を思いやる気持ちも尊重してあげたいし……」

 そんな教官からの計らいと、冒険者たるもの生還を第一とすべしという基本的観念から、後衛を担当することになった。
 とは言っても、魔力がないから補助魔法なんて使えるわけがない。
 やれることと言ったら荷物持ちとか荷物の番。あとは伝令伝達の係くらい。
 筋肉はないくせに、足は速かったしね。

 他の五人は、男子は人馬族とワーウルフ族。どちらも前衛。
 女子は鳥人族とエルフ二人で、後衛は四人ってことになる。
 どのグループにも前衛と後衛がいるように組まされたんだけど、能力の高低はあまり重要視されなかった。
 成長の度合いで激しく変化するからなんだって。

 入学当時はどのグループもそんなに差は見られなかったんだけど、授業を受けていくにつれその差はだんだん見えてくる。
 はっきり言えば、俺達のグループがクラスで一番力の伸びがあった。
 一人一人が成長して実力をつけたってこともあるんだけど、チームワークのおかげというのが一番でかい。
 それぞれが自分のポジションを守り、お互いにフォローし合ってたから。
 誰もでしゃばることはなかったんだよね。

 けど、学校生活では……最悪だった。
 ……最悪なのは、自分だけって感じなんだけどね。

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