俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

コウジの悩みの種は解消 そしてまたもやあの方が

 コルトがこの部屋での仕事を辞めて去っていった。
 ひょっとして俺、無意識のうちにコルトに未練があるかもしれん。
 寂しくなって泣いたらどうしよう、なんてことを考えたりしてたが、全然そんなことはなかったぜ。

「今まで本当に、お世話になりましたっ」
「おう、そっちも早く新しい生活に馴染むようにな。なんせそっちにカレーうどんはなさそうだから」
「!!」

 後足で砂をかけるとか言うんだっけか?
 コルトが未練を残すのはカレーうどんだけってとこに、ある意味安心感はあった。
 しかし今後の店の売り上げが心配だ。
 自分で何とかしなきゃならんことなんだが。

 コルトが去った翌日、そんなことを思案しているところに、屋根裏部屋にやってきたのは、コルトを連れてったあの二人。

「おそらく困ってるだろうな、と思ってな」

 今は主のない、元コルトの部屋に招き入れた。
 担いだ風呂敷包みを簡易テーブルの上に置く。
 開いた風呂敷から出てきたのは、冒険者らが身に纏っている防具。

「コルトちゃんから話を聞いてな。俺も報酬の契約には頭を悩ませたもんさ。何せ相手は日本円が使えないし持ってないときたもんだ」
「何かわざと意地悪な言い方してない?」

 相変わらず仲が良さそうで何より。

「俺の仕事の合間の時間に作ってみた。コルトちゃんが作る物よりは質はいいと思う。こういうのが高く売れてるってコルトちゃん言ってたしな。だが問題はニーズだよな」

 店、サブカルに強くなれば顧客増えそうかも。
 だがちょっと待て。
 俺は有り難いが、テンシュさんはどうなんだ?
 いくら暇を見つけてと言っても、得することがあるのか?

「でも……なんか悪い気がしますね。自分だけいい目を見てるような気がして」
「いや、割と質のいい材料がかなり落ちてたから問題ない。むしろ、俺からの礼だな」
「テンシュが他人に素直に礼を言うなんて珍しいわね」
「だから余計な一言はいらねぇんだよ、セレナ!」

 落ちてた?
 どこに?
 って言うか、俺が落としたなら筋は通るけどな。

「材料が落ちてたって……どこにです?」
「コルトちゃんがここに来る前の部屋……ダンジョンか。彼女が消費しきれずそこにストックしておいたって言ってたからな」

 そう言えばそんなことを言ってたような気がする。

「それにおにぎりとアイテムだのを交換かなんかするんだろ? それを引き取らせてもらえば、こっちにも利益は出るし、コウジ……君にも利益が出るようにこっちでいろいろと製造してみよう」
「そりゃ助かりますが……テンシュさんは日本に戻るつもりはないんですか?」

 ……って無神経な事聞いちまったかな。

「……俺は確かに日本人だが、人間離れしちまったからな。日本……この世界に住むのは、もう無理だ、な」
「テンシュは、私達の世界に住むのに適した体になったんです。お気遣い、ありがとうございます」

 まぁ……そんならいいか。

「じゃああの素材は全部引き取って、今後もちょくちょく寄らせてもらうよ」
「え? あ、はい……」

 ちょくちょく……って。
 何でそう簡単に行き来できるんだ?
 他の冒険者達は痛々しい姿で来る奴がほとんどなんだが……。

 まぁ……俺が気にすることじゃないか。
 その扉だって見えないんだし……。

「ふぅあっ!」
「へ?」

 テンシュさんが突然立ち上がった。

「どうしたんです?」

 何か、青い顔をしてる。
 体も震えてるが……いきなり風邪?

「……コウジさん、多分どなたかが来られたんじゃないでしょうか? 法王……いえ、教主と初めて会った時より……」

 セレナさんも青い顔をしてる。
 しかも何を言ってるか分からない。
 って言うか、客が来たってこと?

 まぁ、随分話し込んじまったからなー。

「とりあえず、こっちもそちらにも得する話、ということでいいんですよね? 用件はそれだけならお開きということで」
「え、えぇ……。テンシュ、行くわよ? 大丈夫?」
「あ、ああ……。なるべく、目立たないようにな」

 一体何が何やらだ。
 部屋を出ると、何度もこの部屋に来ている冒険者の一人が声をかけてきた。

「……コウジ。お前に用事があるんだと。屋根裏部屋の方にいる。何と言うか……誰? あの人」

 いや、その前に馴れ馴れしく話しかけるお前こそ誰だよ。
 まったくどいつもこいつもだなー。

「はいはい、お待たせしまし……た……」

 あぁ、見覚えある。
 二回目だ。
 表面積のでかい衣装来たどこぞの女王様。

 名前は忘れたけどなっ!

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