俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる
二人の兵士の騒動の、知られざるアフターケア
「部下、配下のすべてに目を配らせていたのだが、妾もまだまだ人を見る目がなかったようでな……。すまなかった」
神妙な顔つきで頭を下げられた。
あんなことが二度と起きないって言うのであれば、こっちは別に構わないけどさ。
「そうこうしているうちに、このままではいかんと思うてな。イゾウの健勝を確かめずにおられなくなってな。しかし妾も忙しい身。だから配下にもう一度確認させるために遣わせたのだ」
ここに来るには体力魔力を消耗しなきゃ来れないって話だったがな。
よくやれるもんだ。
……ん?
「遣わせた」って?
そんな奴誰か来たっけか?
「報告を聞けば、イゾウらしきものはおらんかった。ただしその役割を引き継いだ者がおる、とな。さらに、何やら特別な力の持ち主が傍にいて、助言をしてから戻った、と」
あ、まさか。
コルトにバツをさせた時の……あの女か!
「え、あ、あの、魔法剣士さん、ですか? 細身の剣を持ってた……」
「うむ。流石に覚えておったか」
あいつか!
魔法剣士、なんて初めて聞いた職種だから覚えてた。
そうだ。
名前を言おうとしてなかったっけか?
わざわざ名前を名乗ろうとしたのも覚えてる。
あれだけ騒ぎを起こして何の音沙汰もなくなったから、その後のことを気にはしてたが……。
「妾の側近の一人だからの。ただ、イゾウと思しき者はいなかったという報告が気がかりでのぉ。よもや、亡くなっておったとは……」
寿命の感覚が違えば自ずとそうなるだろうな。
「しかし、イゾウの孫ではなく曾孫とは……。コウジ、と言ったな? するとお主が二代目か?」
「いや、俺は三代目。二代目は俺の祖父母だ。親父とお袋は早くに亡くなったからな」
別にお悔やみの言葉なんぞ求めるつもりはなかったが、何となく沈痛な面持ちをされてしまった。
両親を亡くした俺を憐れんでいるのか、それともそれほど初代と仲が良かったのか。
「……時の流れとは……非情なものだの……。足が遠のけば、それだけ縁も遠のく、か」
悔恨ってほどでもないが、その初代との思い出話なんぞ聞かされそうだ。
まあどれだけ親しかったかは推して知るべし、か?
異世界人が店の名前を口にしたのはこいつが初めてだ。
だがこっちは、これからの予定がある。
「高貴な方とお会いできて光栄だが、こっちにゃこっちの都合があってな。握り飯の準備をせにゃならん」
「握り飯か。懐かしいの。妾も散々世話になった。……新しく広い部屋ができたようだが、あの部屋はまだ使っておるのだろうな?」
あの部屋?
何の話だ?
「ふむ? コウジは何の苦労もしておらんのか? コウジも大勢の冒険者相手に握り飯とやらを作っておるのだろ? 米とやらが不足にならんか?」
何だそれは。
何か対策があるとでも言うのか?
「何を言ってるのか分からん。俺は祖母ちゃんが元気なうちから頼まれてこれをやってるんだが……。部屋? 何のことだ?」
って言うか、いきなり呼び捨てにされちゃってるよ俺。
って、まだコルトを撫でまわしてるし。
そんなに可愛がるようなもんか? こいつは。
あ、その手が止まった。
「コウジ……。そうか……。代替わりして、そこは伝えられなかったのだな……。もっと頻繁に様子を見に来ればよかった……。あらぬ苦労をさせてしまったの……」
はい?
要するに、しなくてもいい苦労をしてきたってことか?
……まぁ……店が儲かってれば、少しは経済的に楽になってたかもなぁ。
でもそれはこの店のことで、異世界の人が何とかする問題じゃないだろ。
「あー……。気遣い無用ですよ。大体そんな長きにわたって面倒を見るってのも大変でしょうし」
大国か小国かは知らんけど、そのトップの座に座った奴なら間違いなく忙しそうだ。
そんな奴が、わざわざ出向いて様子を見に来るほどのことでもないだろうに。
……それともそうまで感謝の気持ちを表したくなるほど、この人に初代は何かをしてやったってのか?
……何やらかしたんだ、曾爺さんは。
「ふむ……。この建物の外観は見たことはないが……。こちらの部屋とそっちの部屋、広さが若干違うじゃろ?」
「ん? まぁ、ね。でも不都合はないし、冷暖房も防音もしっかり効いてるから快適ではあるな」
「そうではない。新しい部屋は広い。比べてこちらの方は狭い。というか、奥行きが狭いのだな」
あぁ。
階下の店と同じ広さだと思ってたが、屋根裏部屋の方が、指摘された通り奥行きはやや狭い。
俺には見えない扉があると思われる土壁。
その奥に……何か、もう一部屋ありそうな気がずっとしてた。
だが入り口がない。ただの壁。そう思ってたし……。
「同郷の異世界人達が合流できる部屋、だと思ってたが……。別に気にしなかった。何かあるのか?」
……なんか深いため息ついてるよこの人。
一体何がどうしたのやら。
「重ね重ね、本当に余計な苦労させて申し訳なかったの……。イゾウが亡くなったことを妾が知っておれば……」
いや、もう悔やみの言葉はどうでもいいんだけど。
いくら血を引いてるからと言っても、顔を合わせたこともない間柄だし。
つか、何があったっての?
勿体ぶるなよなぁ。
神妙な顔つきで頭を下げられた。
あんなことが二度と起きないって言うのであれば、こっちは別に構わないけどさ。
「そうこうしているうちに、このままではいかんと思うてな。イゾウの健勝を確かめずにおられなくなってな。しかし妾も忙しい身。だから配下にもう一度確認させるために遣わせたのだ」
ここに来るには体力魔力を消耗しなきゃ来れないって話だったがな。
よくやれるもんだ。
……ん?
「遣わせた」って?
そんな奴誰か来たっけか?
「報告を聞けば、イゾウらしきものはおらんかった。ただしその役割を引き継いだ者がおる、とな。さらに、何やら特別な力の持ち主が傍にいて、助言をしてから戻った、と」
あ、まさか。
コルトにバツをさせた時の……あの女か!
「え、あ、あの、魔法剣士さん、ですか? 細身の剣を持ってた……」
「うむ。流石に覚えておったか」
あいつか!
魔法剣士、なんて初めて聞いた職種だから覚えてた。
そうだ。
名前を言おうとしてなかったっけか?
わざわざ名前を名乗ろうとしたのも覚えてる。
あれだけ騒ぎを起こして何の音沙汰もなくなったから、その後のことを気にはしてたが……。
「妾の側近の一人だからの。ただ、イゾウと思しき者はいなかったという報告が気がかりでのぉ。よもや、亡くなっておったとは……」
寿命の感覚が違えば自ずとそうなるだろうな。
「しかし、イゾウの孫ではなく曾孫とは……。コウジ、と言ったな? するとお主が二代目か?」
「いや、俺は三代目。二代目は俺の祖父母だ。親父とお袋は早くに亡くなったからな」
別にお悔やみの言葉なんぞ求めるつもりはなかったが、何となく沈痛な面持ちをされてしまった。
両親を亡くした俺を憐れんでいるのか、それともそれほど初代と仲が良かったのか。
「……時の流れとは……非情なものだの……。足が遠のけば、それだけ縁も遠のく、か」
悔恨ってほどでもないが、その初代との思い出話なんぞ聞かされそうだ。
まあどれだけ親しかったかは推して知るべし、か?
異世界人が店の名前を口にしたのはこいつが初めてだ。
だがこっちは、これからの予定がある。
「高貴な方とお会いできて光栄だが、こっちにゃこっちの都合があってな。握り飯の準備をせにゃならん」
「握り飯か。懐かしいの。妾も散々世話になった。……新しく広い部屋ができたようだが、あの部屋はまだ使っておるのだろうな?」
あの部屋?
何の話だ?
「ふむ? コウジは何の苦労もしておらんのか? コウジも大勢の冒険者相手に握り飯とやらを作っておるのだろ? 米とやらが不足にならんか?」
何だそれは。
何か対策があるとでも言うのか?
「何を言ってるのか分からん。俺は祖母ちゃんが元気なうちから頼まれてこれをやってるんだが……。部屋? 何のことだ?」
って言うか、いきなり呼び捨てにされちゃってるよ俺。
って、まだコルトを撫でまわしてるし。
そんなに可愛がるようなもんか? こいつは。
あ、その手が止まった。
「コウジ……。そうか……。代替わりして、そこは伝えられなかったのだな……。もっと頻繁に様子を見に来ればよかった……。あらぬ苦労をさせてしまったの……」
はい?
要するに、しなくてもいい苦労をしてきたってことか?
……まぁ……店が儲かってれば、少しは経済的に楽になってたかもなぁ。
でもそれはこの店のことで、異世界の人が何とかする問題じゃないだろ。
「あー……。気遣い無用ですよ。大体そんな長きにわたって面倒を見るってのも大変でしょうし」
大国か小国かは知らんけど、そのトップの座に座った奴なら間違いなく忙しそうだ。
そんな奴が、わざわざ出向いて様子を見に来るほどのことでもないだろうに。
……それともそうまで感謝の気持ちを表したくなるほど、この人に初代は何かをしてやったってのか?
……何やらかしたんだ、曾爺さんは。
「ふむ……。この建物の外観は見たことはないが……。こちらの部屋とそっちの部屋、広さが若干違うじゃろ?」
「ん? まぁ、ね。でも不都合はないし、冷暖房も防音もしっかり効いてるから快適ではあるな」
「そうではない。新しい部屋は広い。比べてこちらの方は狭い。というか、奥行きが狭いのだな」
あぁ。
階下の店と同じ広さだと思ってたが、屋根裏部屋の方が、指摘された通り奥行きはやや狭い。
俺には見えない扉があると思われる土壁。
その奥に……何か、もう一部屋ありそうな気がずっとしてた。
だが入り口がない。ただの壁。そう思ってたし……。
「同郷の異世界人達が合流できる部屋、だと思ってたが……。別に気にしなかった。何かあるのか?」
……なんか深いため息ついてるよこの人。
一体何がどうしたのやら。
「重ね重ね、本当に余計な苦労させて申し訳なかったの……。イゾウが亡くなったことを妾が知っておれば……」
いや、もう悔やみの言葉はどうでもいいんだけど。
いくら血を引いてるからと言っても、顔を合わせたこともない間柄だし。
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