俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

子供→幼児→巣立ち そしてオイこら女魔導師!

 柄にもなく自分語りをしてしまった。

 いつもはコルトと二人で握り飯の配給をしてたが、他の冒険者と一緒になってあの四人の子供につきっきり。
 久しぶりに準備から後片付けまで、一人でやることになった。
 おまけに俺まで首を突っ込ませやがって。

 そんなコルトは今、何してると思う?

 着ぐるみを何枚も展開させてくっつけてでかい寝袋を作って、その子供四人と一緒に中に入ってお寝んねしてやがるっ。
 ちょっと前に子供らは寝付いたんだが、その時まで頭なでなでしてやがった。
 寝入ったらこっちの手伝いしてくれるかと思ったら、そのまま眠ってやんの。

 ここにいる連中も寝始めて、こっちはなるべく音を立てずに丼とかを洗ってる。
 当てつけのために、あいつに朝っぱらからこの洗い物をさせようかと思ったんだが、米炊きの仕事が順番待ちしてるんだよな。
 仕事貯めるわけにもいかねぇしよっ。

 まだ積もりはしないが、薄明りの部屋の中から天窓を見ると、雪がちらついてるのが見える。
 加湿器と暖房が効いてるこの部屋で、ピーピー泣いてた子供らが、あんな風に寝心地良さそうな寝顔になってる。
 しかもコルトに四人ともしがみつこうって格好でよ。
 端の二人は内側の二人をコルトに見立ててるみたいなんだよな。

 コルト。
 お前はそいつらの母親かっての。

 けどしばらくすると、子供の一人がむっくりと起き上がった。
 何があったかと見守ってると、きょろきょろした後俺の所に近寄って来た。

「おとーさん」

 お、お父さん?!
 寝ぼけてんのか? こいつはっ!

「おとーさん、おしっこ」
「お、おしっこ?!」

 家の中と勘違いしてるのか。
 コルトの部屋のトイレしかねえよな。
 鍵かかってるわけじゃなし。

「お、おう……こっちだよ」
「うん、おとーさん……」

 目をこすりながらズボンのすそを握ってる。
 可愛いんだけどさ……。
 まぁ、おもらししない分賢いか。
 っていうか、おもらしする年でもないか。
 でも、赤ちゃん返りしてもおかしくはないよな。

「周りに散らすなよ? そうそう……終わったら手を洗えよー」

 男の子だから何とか付き添えるが、女の子がそんなこと言ってきたらどうするよ。

 ……起きちゃったよ。
 一人目が寝袋に入ったら、別の子が起き出したよ。

「んー……。あ……、おとーしゃん」

 しゃん?!
 しゃんだと?!

 もういいよ。連れてくよ、分かった分かった。

「トイレだな? よく一人で起きれたな。こっちだぞ」
「あい……」

 こっちの十五才とそっちの十五才では、精神年齢とか違うのか?
 まぁ……部屋を汚さなきゃいいけどさ。

 同じ寝袋で起きたり入ったりしても、コルト、起きねぇなぁ。
 蹴飛ばしたくなるわ。
 こっちも寝かせろっての。

 そんなこんなで、結局四人の面倒を見る羽目になり、二巡したところでようやくこっちも就寝。

 ったくこのガキどもがっ!

 いい夢見た夜が終わったら、いい現実が起きるように努力しろよな!

 ※※※※※ ※※※※※

 翌朝。
 いつもの時間通りに握り飯タイム。
 今朝のコルトも普段通り。

「昨日は一人で仕事させてごめんなさい」

 ……きちんと謝罪できるんなら、まぁいいけどさ。

 今朝の握り飯は、特別なメニューはない。
 梅、シャケ、筋子、たらこ、おかか……いつも通り。
 誰も不満を持たず、全員がいつものように行列を作る。

 壁際から立ち上がれない者へ手渡す助け合いの行動も見られた。

 そしてその時間も終わり、後片付け。

「お兄さん、お世話になりました」
「ん?」

 子供四人が横並びで俺の前にやって来た。

「今日、帰ろうと思います。お父さんとお母さんに、無事に戻れたことを報告します」

 帰る時は声をかけなくてもいいって言ったんだけどな。
 でもまぁ……。

 ちったあマシな顔になってんじゃねぇか。
 四人一緒に俺にお辞儀をして、そのまま出口の方に向かう。
 世話になったことを分かってんだろうな。その途中で他の冒険者達に向かって、同じようにお辞儀をして挨拶をしてるようだ。

「昨日俺一人で仕事してた分、この時間はお前一人で仕事してろ」
「あぅ……。はあい……」

 謝罪は受けたが、それはそれ。これはこれ。
 少しはのんびりさせてもらうさ。ちょっと寝不足っぽいしな。

「ふふ。おはよ、コウジさん」

 女魔導師が近づいてきた。

「ん? あぁ……おはよ……」
「昨日は大変だったわね、お父さんっ」

 ……こいつ、起きてやがったのかっ。
 性格、悪ィ……。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品