俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

瓢箪から駒 コルトの機転

 まぁ避難場所としてやって来るのは構わないんだけどさ。

「な、何か、俺の連れが済まないな」

 初めて来た奴に気を遣われてるぞ、オイ。

「気にするな。だが握り飯タイムには……まだ時間はありすぎるな」

 今は昼の十二時前。
 普通に一日三食のタイミングで出すにはいろんな都合上、無理がかかる。

「まぁゆっくり休んでいってくれ。ここではそれしかできることはないけどな」
「いや、それだけで十分だ。あ、けどアイテムと引き換えじゃなかったかな?」
「それは握り飯を受け取る時に、何か余分な物を持っていた場合の話だ。ただ休む分にはこっちに気を遣う必要はない」

 この男は……槍使いか?
 槍戦士か。何と言うか、礼儀を弁えてるって言うか、その様子がこっちには清々しいイメージを感じるな。
 だが槍のほかに何やら得体のしれない物を担いでいるようだが……。

「だが、体力回復までかなり時間がかかりそうだ。こいつから話は聞いたが、おそらく今日一日ずっと休ませてもらうことになるかもしれん。その……握り飯タイムって言うのか? その世話にもなるだろうから、それと引き換えに……」
「何だそりゃ?」

 槍の男は、その得体のしれない物を俺の前に置いた。

「……魔獣の毛皮、のように見えますが……」
「ご明察。でかい猪っぽい奴を仕留めてな。その肉は食用になるから途中でみんなと食ってたんだが、こいつは持ち帰らないとなってことでな」

 でかい、というには、それでもかさばらなさそうなくらいの面積。
 ピンチに陥っても手放すまでもなかったってことか。

「ま、アイテムが何もなかったとしても、疲労回復を促進できる必要最低限な分なら好きに持ってっていいけどな」
「だがそれではこちらの気が済まない。こいつはどうだかは分からんが、少なくとも俺はな」

 弓、言われてんぞ?
 だが信頼関係が厚そうな間柄だな。
 コルトにもそんな関係は存在することを分かってもらいたいが。

 それにしても、毛皮?
 防具にならんだろうし、店の商品にするにも……。
 絨毯っぽくしてみても、蚤とかいたらまずいし。

「コウジさん、これを使って、ここで使える物を作ってもいいですか?」

 商品にも防具にもなれず、何かの役に立てられる物に変わるなら、それはコルトの判断に任せる。
 にしても、何を作るってんだ?
 毛皮だぞ?
 武器に変わることはないだろ。

「えへへ。ナイショです」

 いたずらっぽく笑うコルトを見ると、どんな些細なことでも楽しくやろうって思いを持ってるように見える。
 窓を通して、という条件が付いてるが、日が当たる場所にいるのが、そんな思いを引き起こす。
 そんな風にも見える。
 もっともそんな表情をしているのはコルトだけじゃない。
 だからこそそう思える。

「ま、任せるさ。けど米炊きの手伝いも頼むぜ?」

 その代わり、米を一階から二階に運び込む作業が増えた。
 でも、一人で作業するより、一緒に作業してくれる人がいると、それだけで仕事は捗るもんだよな。

 ※※※※※ ※※※※※

 しかしなかなか芳しくない。
 何がって言うと、おにぎりの具のことだ。
 何日も新しい具材について考えてきたが、目新しい物が思い浮かばない。
 考え込んでいるうちに、握り飯を作る時間がいつの間にか近づいていた。

「今の種類で十分だよ」
「気にしすぎですよ、コウジさん」

 そんな声に慰められるが、つくづくお前ら、握り飯だけで体力回復できるよな。
 俺は、特別何かの力を持ってるわけじゃないぞ?

「コウジさん、出来ました」
「握り飯の具?」
「違いますよ。何言ってるんですか」

 コルトがタイミングよくそんなことを口にするからだろ。

「これですよ、これ」

 いつぞやの毛皮が……何だこれ?
 袋状になってるが……。

「着ぐるみか?」
「違いますよ」

 コルトが頬を膨らませる。
 その顔も悪くない。

「寝袋です」
「寝袋?」
「はい。話に聞けば、ここ、相当寒い時期があるそうですね。そんなときにこの中に入ったら、暖かくて眠りやすくなります。寒さで体力を奪われることはありません!」

 着ぐるみでも十分通用するぞ?
 枕に当たる部分がフードになって、しかも獣の耳までついてやがる。
 いや、そうなると店の商品に出来なくもないが……。

「体を震わせながら眠ってる人を放置するなんてできませんよ」

 考えてみりゃ、夜は俺は自分の部屋で寝るもんな。
 こいつらがどんな風になって寝てるかなんて、見に来ることは考えたこともなかった。
 修学旅行の引率教師じゃあるまいし。
 けど、着ぐるみ、じゃなかった。寝袋を使ってるところを見てみたいもんだが。

「どんな風に使うんだ?」
「どんな風って……ただ入るだけですよ」
「入れる? ジッパーとかついてないよな?」
「このまま入るだけですよ」
「靴とか履いたまま?」
「そんなわけないでしょ」

 コルトは靴を脱ぎ、着のみ着のままで寝袋に入る。

「こんな感じで」
「同じ材料でなきゃ同じ物は作れないか」

「材質が同じなら作れます。今まで引き取ったアイテムの中で、鳥類の毛皮とかありますから」
「ならいくつか同じ物が作れるよな。店の商品に」
「しません。屋根裏部屋の方、暖房効かなさそうじゃないですか。そっちで眠る人たちのために作ることを優先したいです」

 お?
 それは思ってもみなかった。
 解決できない問題だと思ってたしな。
 けどその前に。

「コルト」
「はい? なんです?」
「その格好、可愛いから動画で撮りたいんだが……」

 勝手に撮ってもいいだろうが一応、な。

「なんか変なこと考えてません? 大体コウジさんの店の売り物にはまだしませんよ」

 ちぇっ。
 可愛いのになー。
 ま、屋根裏部屋で眠る人数分完成させてもらってからでいいか。

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