俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

新しい部屋、完成

 俺の予測通り、プレハブ増築の工事は半月で終わった。
 ただしいろいろと仕掛けがしてある。
 その仕掛けがなければ、屋根裏部屋のふすまと同様、ここに来る者達の目に見えない物だらけ、ということになる。

 その仕掛けを活かすには、屋根裏部屋からの作業が必要になるはずだ。
 この部屋にショーケースを持ち込んだのは俺。
 この部屋が出来た後に持ち込んだり設置したりする物は連中には見えるようだ。

 だからここからは俺の腕の見せ所。
 と言っても、素人がやることだからな。

 この部屋に入って左側の壁に向かう。
 プレハブはこの壁の向こうにある。
 屋根の庇も弄って、部屋とプレハブの壁を密着させた。
 本来であれば、プレハブのその壁の一部に出入り口が付けられる。
 けれどもドアなどはつけられていない。言ってみればただのでかい穴。

 その穴の位置と大きさは計測済み。
 それに合わせて屋根裏部屋の内側から穴をあける作業を始める。
 いよいよ俺の増築計画の開始ってわけだ。

「壁の欠片とかくずとかは……捨てるのよね?」
「何かの役に立てられるのか?」
「ううん。どこかにまとめる?」
「頼む」

 これだけ長く顔を合わせてれば、しばらくよそよそしい言葉遣いだったコルトも慣れてくる。
 ま、そんな話し方の方がこっちも肩ひじ張らずに済んで楽なんだよな。

 余計な傷をつけないように、錐で何カ所か穴を空ける
 カッターでプレハブの出入り口の穴と同じ大きさくらいになるように傷をつける。
 そしてのこぎりで切ると……。

「こんなとこか? ゆっくり力を加えて押す。ひびが広がりそうなところにはさらにカッターで切り込んで……。っしょおっ!」
「穴が開い……わぁ……」

 コルトが貫通した穴を覗いて感動している。
 ま、部屋が広くなったってことだけだろうけどな。
 だがここからが問題。
 部屋の中に起きっぱなしのいろんな基材は組み立てるだけでいい。
 コルトと有志の冒険者達に手伝ってもらう。

「蛇口とシャワーはみんな見えるよな?」
「シャワーって言うと……ここから水が出るの? で、これは……何だろ?」

 蛇口も見えるらしい。
 そしてただ置かれているユニットバスも見えてるようだ。

「こっから出ているホースを排水溝に繋げて、この台の先のホースも合流させる」

 電気の配線などは既に終えている。
 洗面台も設置して、後は……。

「業者が印をつけてくれてる。そこにこの板を持ってきて……」
「壁にするのか」
「そ。それで風呂場の出来上がり」

 壁を支えてくれてる奴が聞いてくる。

「俺達が使えるのか?」
「お前らみんなして、この娘のために何かしてやれよってずっと言ってたじゃねぇか」

 面子が変わっても、コルトへの気遣いの言葉は変わらない。
 その言葉が聞こえるたびに、コルトはいつも恐縮するような顔をする。
 俺も、コルトに何もしてやれなかった心苦しさから解放されてる感じがする。

「その隣にお前の作業部屋兼個室を作る。そこにあるのはベッドだ。見えるよな?」

 一々確認するのが煩わしい。
 でも見えない物も存在するからしょうがない。
 コルトの目は次第にキラキラしてくる。
 間違いなく喜んでるよな、これ。

 一人じゃ、しかも人間じゃ無理な力仕事も、連中に手伝ってもらうとどんどん捗って有り難い。
 取り分ける器は使い捨てにしたとしても、やっぱ後片付けはしんどい。
 けれど、手伝ってもらったり応援してもらったり、時間短縮のやり方を教えてくれたみんなのために……。

「一回だけだぞ? 一回だけだからな?!」
「何が?」
「何かするのか?」
「みんなに素うどんふるまう。ただしコルトだけ具を入れる」

 その直後、俺は耳をふさがずにいられなかった。
 連中の歓声の声がうるせぇうるせぇ。

「まだもう一仕事あるんだよ! 静かにしろぃ!」

 木の枠にはめ込まれたガラス板。
 部屋に置かれた、俺が注文したパーツはその二枚。

「目印はっと……。ここだな」

 壁にあてがってそのまま押し込む。
 すると押し込まれた壁は外に押し出され落下。
 ガラスがはめ込まれた。
 それより大きいガラス板は、脚立を使って天井に押し当て、同じように押し込む。
 ガラス板が落下しない細工をして、一応の完成。

「このガラスには触るなよ? 割れたらとんでもないことが起きる……が、見えるよな?」

 最大最後の問題はこれだ。
 見えなかったら意味がない。
 が、その心配は無用だったみたいだ。

「……コウジさん……」
「何だよ」
「久しぶりに、空を、見ました……」

「そりゃ何より」

 窓の方向は道路のない山側。
 行きかう人がいない方向。
 だから、外から誰かが覗くということはない。
 誰かからプレハブの中を見られることはない。
 見えたとしても、部屋の中全てが見えるわけじゃない。

 いずれ、コルトばかりではなく全員が、見える外の風景に釘づけだ。

「じゃ、うどん作りの準備するから大人しくしてろよ」
「……うん……」

 だが家の廊下に出る出入り口は見えてないようだ。
 こいつらを入れてから内装を整えるという計画は、我ながらうまくいった。

 だが俺にはもう一仕事残っていた。
 それが終わってからうどん作りの準備だが、ま、朝飯前の仕事だ。

 ……朝飯はとっくに済ませたけどな!

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