俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

コルト、手記で昔話を

 村を出た後大きな町に到着した私は、餞別として受け取ったお金を使って、冒険者になるための修練所に通いました。

「コルト、さんか。素養判定では魔術師が向いているようですね」

 受け付けの人からはそう言われました。
 その時は、私が希望する職種と合ってたのでうれしかったです。
 でも、魔術師に適している、とは言われなかったんですよね。
 そのあと、回復などの補助か攻撃関連のどちらを習得するかを尋ねられました。
 魔物とかが怖いので回復役を選びました。

 回復能力を高めるなら、神官とかそっちの方面に進むのがいいようです。
 信仰心が高ければなおさら成長度も高くなるみたいです。
 でも村では、何かの神を崇めるとか、そんな風習はありませんでした。
 誰も知らない所から命は宿り、命尽きたら誰も知らない所に還る。
 そんな感じなので、何かを信仰するのは無理かなって思ったので、神職方面は全く考えてませんでした。

 でも、私の選択はある意味正解だったようです。
 冒険者を希望する人達は、魔物退治で名声を得たいって思ってる人達や、財宝を手にして一攫千金を狙う人達が多いみたいなんです。
 目立ちたがり屋さんとかお金持ちになりたいってことなんでしょうね。

 なので私みたいに、誰かを引き立てる役割が中心になる職種になろうとする人は少ないんです。
 就職の人気は低いです。
 けど、回復能力たとえ低かったとしても、パーティやチームへの勧誘率はとても高いんです。

 ただ、私の場合は世間知らずでした。

 初心者や新人同士でパーティを組むと、全員の成長度は低いです。
 ベテランの人達に鍛えてもらいながら仕事に取り組む方が成長力は跳ね上がるんです。
 私と同じ職に就く人達と一緒に勉強しましたが、その学業を終えて卒業する時は誰もがみんな、ベテランのチームやパーティに混ざりました。
 離れ離れになったので、チームやパーティの実力とかの情報を聞くことはできませんでした。

 私が入ったパーティは……。

 ……嫌なことはすぐに忘れるものですね。
 名前も顔も、思い出そうとしても思い出せません。
 思い出すことを本能的に嫌がってるだけかもしれないですが。

 でも忘れられないこともあります。

 私の入ったチームのリーダーは人馬族の男の人で戦士でした。
 他には、ワニの亜人で戦士の男。
 妖精族と言ってましたが、今思い返すと魔族の女だと思います。攻撃専門の魔術師でした。
 巨人族の女、武闘家。
 鍵を解除したり罠を見破って外したりする罠師の蝙蝠の亜人。
 この五人のチームでした。

「回復の魔術の種類は少なそうだけど、回復量は大したもんだ」
「麻痺、毒の解除も出来るのね」
「呪いも軽度なら問題ないのはすごいよ」
「しかも本人にも耐久性がある。回復術師としての本質を誰も見てないんだな」
「気が弱そうに見えるのがネックだったんだろう。みんなでカバーすれば将来楽しみな人材だよ。君は……コルトって言うのか。君さえよければどうだろう? 入ってくれるとうれしいんだけど」

 初めて褒められた言葉は本当だったようです。
 私一人で突入したら自殺行為と思われそうな魔物の巣窟に行きました。
 一番最初の討伐クエストですよ?
 あり得ません。

 でも、先輩たち五人はあっさりと鎮圧しました。
 私にも能力向上の補助をかけさせてくれたり、魔力体力攻撃力の増幅魔法を発動したり、みんなと同じくらい戦闘で活動しました。
 本来新人は、安全を図るためあまり表立った行動をとらせないようにするんだそうです。
 一戦ごとに息も絶え絶えでした。

「うちらに入ったら楽勝だよ?」

 参加を決断する前は、そんな言葉もかけられました。
 嘘つきぃ。
 真っ先に思いました。

 そのクエストの達成は、思いのほか簡単だったそうです。

「お前がいてくれて助かった」
「コルトちゃんの補助、上手だったねー」

 地面に突っ伏して動けない私にかけてくれた言葉はそんな内容でした。
 動けない私にそんなことを言う?
 ひどい扱いされてる。
 そう思いました。

 そのあと、私達は二つ三つクエストを受け、毎回私は同じようにくたびれきってました。
 クエストから戻ってみんなが最初にしたことは、私への介抱でした。
 そんなんで騙されるもんかー。
 そんなことを思いました。

 その次に受けたクエストはかなり大掛かり。
 チームやパーティがいくつか集まっての共同戦線。
 ミーティングの時に、久しぶりに会った顔がありました。
 修練所で一緒に勉強した仲間達。

「コルトちゃん……何それ……」

 仲間の一人が、驚いた顔でそんなことを言われました。

「うん、貧相でしょ? いいように使われまくってるのよ。おかげでいつもこんなくたびれた顔してるの」
「そうじゃないよ!」

 私の能力を見たんだそうです。
 私の方が、術師の能力レベルは三倍以上上回ってました。

「え? 私、そんなに成長してるの?」
「え?! コルトちゃん、自分の能力確認してないの?!」

 これまでのことを話しました。

「それでもこんなに成長しないと思うよ? 私がそっちに混ざったら、コルトちゃんの半分くらいは成長してると思うけど、そこまでは……」
「うん、人間離れしてるよね。人間じゃなくてエルフに言う言葉として適切かどうか知らないけど」
「今の仲間達には申し訳ないけど、俺、そっちに入りたかったなぁ」

 そこで私は初めて、このチームの人達は私の成長のために鍛えてくれてたんだ、と実感したんです。
 チームのみんなへの感情は、感謝以外にありませんでした。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品