勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜

北河原 黒観

第48話、開戦怒りのパッカラロード

◆ ◆ ◆


 暫く使われていないからだろう、道無き道のような悪路が身体を強制的に揺らす。

 キャラバン隊は順調に進んで渓谷を通過、レコ王国内のゴル地帯ど真ん中へと入っていた。
 現在私達はキャラバン隊の中腹あたりに位置する荷馬車に乗っているが、これは特例だろう。なにせ軍の人間からすれば有象無象の集団である冒険者は、本来なら一番危険な外周を任される事が多い。
 つまりドラゴンバスターシグナはああは言っていたが、女性が多い私達を真に心配してくれているようだ。
 まぁゴル地帯、いつ襲われてもおかしくない危険な土地であるため、こと戦闘が始まれば内側でも外側でもいずれ戦闘に巻き込まれる訳なのだが。

 とそこで、先頭車輌から何やら声が上がる。先程から展開しているオールヒールには何も反応が出ていないため、半径100メートル以上離れた所で異常があったのかもしれない。

 二頭のパッカラが引く疾走する荷馬車の開け放たれた後方部から身を乗り出し冷たい風をその身に受けながらも前方を確認すると、先頭のパッカラに乗る護衛の一人が進行方向から見て左側へ腕を伸ばして指差していた。

「あっ、アルドさん、あれ! 」

 私に続いて私の下から身を乗り出し顔を覗かせていたエルが、左側を見据えながら声を震わせ叫んだ。
 そこですかさず同じく左を確認すると、パッカラより早い陰が!
 あれは人ほどの大きさがある漆黒の犬型のモンスター、ハイハウンド。そしてそれに跨がる長ズボンだけを履いていると言う上半身裸で頭をツルッと丸刈りに剃り上げた人が、砂煙を上げて遠くからグングンと迫ってきていた。しかも同じような格好の者達が、かなりの数いる!?

 敵襲だ。戦闘員のあの独特で奇抜な格好、恐らくアッガス率いる盗賊団である荒野の蜥蜴で間違いない。
 そしてキャラバン隊と並走するまで接近してきたそいつらは、オールヒールに反応するその数二十組。
 また現れたのは、そいつらだけではなかった。ハイハウンドが起こした土埃で目視は出来ないがこの速度と大きさ、オールヒールの索敵に続々とパッカラに跨がるであろう新手の敵の反応が。

 そうこうしていると左側でハイハウンドに跨がる一団と、キャラバン隊側のパッカラに単独で乗る商人に扮装した護衛の一団が衝突をする。
 パッカラの足音に混ざり聞こえてくる金属音。
 すぐ近くで戦闘が行われているわけであるが、まだ手が届かない距離でもある。そのため私は一度荷台の中へと戻る。

「アルドくん、敵襲ですか!? 」

 リーヴェはかなり緊張しているようで、弓を握りしめる手に力が入っている。

「あぁ、まだ距離が離れているが戦闘が始まった。じきに私達も戦闘状態にはいるだろう」

「リーヴェはどうしたら良いですか? 」

「そうだな、この悪路で更に動く標的だ。だからこそ正確な援護射撃が求められる。見晴らしの良い御者台からゆっくりで良いから焦らず、自分のペースで矢を射るんだ。リーヴェ、出来るな? 」

「……わかりました」

「それと敵も遠距離攻撃をしてくる者がいるかもしれない。その対策で私も隣で待機するからその点は安心してくれ」

「はいです! 」

 次にエルへ視線を向ける。

「エルは接近されるまで私の隣で待機だ」

「了解です! 」

 そこで長い魔銃を両手で抱えたイリスが、こちらへ身を乗り出す。

「アルル、私もこのスナイパーライフルGで応戦するのです」

「その武器、弓矢のように遠距離攻撃が出来るのか? 」

「はいです、しかも銃身を覗かせる少しの隙間があれば攻撃出来るので、荷馬車の後ろから隠れながら攻撃するのです」

「任せても大丈夫なのか? 」

 私の質問に冷静な表情を崩さないイリスは首肯で答える。
 まだイリスの事は知らない事だらけであるがこの落ち着きよう、彼女はこれまでの生の中で何度も訪れた修羅場をその度に潜り抜けてきているのかもしれない。

「わかった、敵に接近されるまではそれで行こう。仮に敵に接近されたら、イリスも私の近くまで来てくれ」

 そこでオールヒールを通して戦況を確認していた私は、キャラバン隊の左側が敵味方が入り乱れた乱戦に突入した事を感じとる。
 急がねば。

「みんな、魔法を付与するから一度私に近寄ってくれ」

 そうして私は、自身と女性陣三人にプロテクションをかけていく。するとイリスが感嘆の息を吐く。

「アルル、本当に僧侶なのですね」

「そうだが、なにか? 」

「いや、いいのです」

 意味不明な事を言うイリスを一人残して、私達は御者台へと移動をする。

「マイケルさん、受け取って下さい」

 パッカラの手綱を持った操縦手であるマイケルさんと、私達の荷馬車を引く二頭のパッカラにもプロテクションをかける。
 それは私の手が届くのが自分達が乗る荷馬車の人間だからと言うのと、集団戦で一番怖いのが孤立だからである。

 この高速で移動する中、移動手段であるパッカラを攻撃され失いその場に単独で残される事は、すなわち死へと直結してしまうから。

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