勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜

北河原 黒観

第46話、特務部隊2

 シグナは話を続ける。

「あまり大声では言えないが、襲われる可能性が極めて高い任務のため俺たちが呼ばれているんだけど、その意味がわかるか? 」

 ……もしかして護衛とは名ばかりで、初めから返り討ちを想定しているのだろうか?

「迎え撃つのですか? 」

「そうだ、……特務任務のため他言無用、多くは語れないが、釣り糸に引っかかるまで俺たちは何往復も繰り返す。そんな高確率で危険が付き纏う任務に、生半可な気持ちで参加されても命がいくつあっても足りはしない。お前さんたちのためだ、この依頼は取り消したほうが良いんじゃないのか? 」

 その言葉にリーヴェとエルが生唾を飲み込む。
 確かに危険すぎる場面には彼女らを連れてはいけない。またエルが開眼しかかっているとは言えイリスも加わった以上、私には彼女たちを助けれる強さが必須である。

 しかし我々も生半可な気持ちで冒険者をやっている訳ではない。また教育のため、ダンジョンに潜る以上一度は危険な任務を肌で感じさせるのも大切な事であると考える。それも早い段階で。
 逆にこれはいい機会である。私たちは片道しか参加しない。しかし今の話でこれからの任務が面白半分の任務でないことがエルたちに伝わった。
 またこの国最強の部隊、勇者カザン率いる特務部隊がいるとなると、私たち以外が全滅するような事はまず無いだろう。
 それだけ信用に足る仲間たちがいる中の参加だと、私は彼女らの事さえ心配していれば良い事になる。

「問題ありません、彼女たちは私が守りますので」

「……そうか」

 そうして各荷馬車に分かれた総勢48名もの依頼受注者たちは、この大所帯のキャラバン隊長の指示の元、危険なルートを進む任務の護衛を任されるのであった。


◆ ◆ ◆


 荷馬車に揺られる事一時間半、既に景色は草木が疎らな荒野に変わっている。
 俺たち特務部隊の今回の任務は、ここらの治安を著しく悪化させている盗賊団、アッガス率いる『荒野の蜥蜴』の殲滅作戦である。
 情報ではワイバーンを飼い慣らしているらしい盗賊団、一筋縄ではいかないだろう。
 まぁ三十五名もの特務部隊員が商人や冒険者に扮し荷馬車を操縦するわけなんだが、中にはこのクエストを受注した冒険者もいる。
 またカタスベル財団に全面協力して貰い、実際に物資を運びその護衛にあたる。そのため釣り糸に獲物が引っかからなければ、当分の間護衛業が仕事となるわけで——

「シグー、なんか面白い話してー」

 もういつ襲撃にあってもおかしくないと言うのに緊張感がないとは。
 幼い顔立ちで顔のシルエットに沿って肩にかからないようカットされた黄金色の髪の毛先が跳ねている彼女は、シャルル=ゴールド。魔法の才能があるも、下級貴族である彼女はマジェスタ王国に売られる事なく過ごしていた。そんな彼女はカザンに憧れ女性ながらに特務部隊入りを果たすのだが——

「ねぇったら、ねぇー」

「……今頭の中で状況確認してるから、しっしっ」

「ひっ、酷い扱い。でもそんな扱いも、ちょっとだけなら嫌じゃないかも」

「意外に胸キュン!? 」

「意外に胸キュン」

 とこんな感じで、部隊で一番懐かれてしまっていたりする。
 しかし若干十六歳と言う若さで、魔力回路の全知全能の開花エナジークラウンのステージツゥーまで解放している。そのため精霊を召喚して思い通りに操作する事が出来るのだが、まさか精霊にそんな使い方があるのか、とシャルルの発想力には驚かされるものがある。

「あっ、また状況確認モードになってる! 」

 魔力回路の解放と言えば、あの若い冒険者、アルドと言ったか、あの青年から感じる凄味から、あの青年もどこかしらの魔力回路が解放されているのだろう。
 あの威圧の正体、戦士系なら感覚鋭敏化ゴッドアイの威圧。戦士系でなければ僧侶系の超越した愛トランスハートになるわけだが——

 まぁ服装と武器のメイスを見るからに限りなく後者に近いだろう。

「おーい、シグよ、おーい」

 若いのに魔力回路を機能させている彼とは、一度鍛え方とかについて話しながら酒を飲み交わしてみたいな。

「えい! 」

「あたっ」

 何故かと言うか無視しすぎたためだろう、俺はシャルルに脳天チョップをくらっていた。
 たく、かまってちゃんだな。

「そんなにお仕置きがして欲しいのか? 」

「やだ、シグのエッチ」

「その発想になるお前の方がエッチだよ」

「デリカシーの欠片もないのですね」

「俺は剣に生きているからな」

「やだ、なに真顔でカッコいい台詞吐いているの? 荷馬車に揺られて少し酔ってるの? 」

「本当の事だよ」

「もー、いつもと違ってシグが釣れないよ。悲しいよ」

 今回の任務で少なからず盗賊団側に死者が出るだろう。そんな危険な任務はシャルルは初体験。ここは鬼になって接さないと。

「今日の俺はいつもと違うの」

「ねぇねぇ、どう違うの? 」

「どこがって——」

 いかん、普通に受け答えをしていてはいつもと変わらないではないか。ここは心を鬼にして、冷たく接さないと。

「うるさいな、少し静かにしてくれないか」

「もう、シグの馬鹿、しらない! 」

 これで良い、俺は間違っていない、はず。
 そう、間違っていない。

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