勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜

北河原 黒観

第40話、増援到着

 アストラル界で出会った繁栄光樹アニマは、前世で会った事があるレダエルの魂と近しく感じた。

 ……安直な考えだが、レダエルが二つに分裂したとかなのか?
 まぁこの直感が正しければ、真実の呪文でなくなっている回復魔法が、アニマから齎される情報で全て使えるようになるわけで——

 クククッ。実証するにも、魔法研究を始めるのが一番か。

 まずは祈りを捧げて、気付きの中から呪文を構築していき、それで駄目なら私が考えうる全てのパターンを試していく。
 そうすれば必ず、真実の呪文に辿り着く予感はしている。
 夜はまだまだあるし、明日はなにか予定が入っているわけではないため徹夜も問題ない。

 そこで祈りを行うため心を落ち着けようと瞑想に入るのだが、今の私は新しいオモチャを与えられた子供のように心が弾んでしまっているため、今しばらく魔法研究を開始するのに時間がかかりそうである。

 ……。

 …………。

 ……ま、待てない。

 そっそうだ、直感ですぐさま真実の呪文に辿り着いても味気ないからな。
 それに新たな魔法の研究も行なうわけだから、最初から色々やっても良いではないか!

 クククファ、まずはレダエルの部分だけをそのままアニマに変更してやってみよう!
 いやいや、まずはレダエルの『レ』をアニマの『ア』から変更するところから始めるのも楽しそうだ!

 クックックッ、クファーファファッファ!


 ◆ ◆ ◆


 自室でエルちゃんとお話をしたあと寝台で横になっていると、すぐ下から声が聞こえて来ます。

「おうおう、もうへばっちまったのか? 」

「大丈夫っす、父ちゃん! 気合い、根性、熱血っす! 」

 寝台の下から聞こえてきたため身を乗り出して覗き見ると、姿が見えないなと思ってた猫さんたちがいました。
 ちなみにうちわ猫のアオグさんが息子さんであるハルカゼさんの背中の上で胡座をかいている中、額から汗を流すハルカゼさんが高速連続腕立て伏せを行なっています。

「誰でぃ? 」

 そこでガクガク上下に揺られていたアオグさんが、背中から飛び降りたためビックリして謝ろうとしていると、猫さんの視線はリーヴェではない方向を向いていました。

 寝台の四隅にある脚の一本、壁側の暗がりから、シルクハットにタキシードでその身を包むステッキを手にした上品そうな猫ちゃんが姿を現します。
 その猫ちゃんは背筋を反らすようにして胸を張ると、細くて長い太ももから足先までを棒のように伸ばしながらツカツカ歩いて来ます。

「吾輩はパラソル猫のスヴァン。リーヴェ様、以後お見知り置きを」

 シルクハットを取った右手をお腹に当て左手を腰のほうにやると、リーヴェに向かって身体を折り曲げて丁寧にお辞儀をしてきます。

「おうおう、噂は聞いてるぜ、パラソルの。凄腕なんだってな? んでテメェ一人か? 」

「私が手塩にかけた愛娘たちも、こちらに向かっていますよ。……しかし口が悪いですね。リーヴェ様に相応しくない。貴方、出直して来てはどうですか? 」

 その言葉に、アオグさんの眼光が炎のように燃え上がります。

「あぁぁん? それはどう言う意味でぃ? 」

「言葉の通りですよ、リーヴェ様に貴方は相応しくない」

 スヴァンさんは涼しい顔と口調ですけど、その言葉には寒気を伴う鋭さがあります。
 そこでアオグさんがうちわに手を掛けると、スヴァンさんはステッキをクルクル回して握り込んで細剣レイピアのようにして構えます。
 スヴァンさんはゆっくりと前進を始めたため、その距離は刻々と近付いていっています。

 とと言うか、喧嘩が始まりそうです!
 そこで二匹の猫さんに向かって、何かが突撃してきました!
 そのため二匹の猫さんは後ろに飛び退き距離が離れます。

「だひゃー、やっと着いたぜ」

 突然の場に削ぐわない陽気な声と共に乱入して来たのは、帆が取り付けられた小さなリアカーを引いているシマシマ模様の猫ちゃんと、そのリアカーの中でゴロンと横になっている真っ白な毛並みの綺麗な猫ちゃんです。

「おっ、烈火の団扇と氷霧ひょうむの傘とか凄い面子だな。しっかし一番だと思ったんだけどな」

「そういうテメェは種馬の、また新しい女をタラし込んだのか? 」

「失敬な、みぃーちゃんはウチの看板女優で奥さんだよ? 安定期に入ってるとは言え、身籠もの身体の奥様に、なに言っちゃってくれてるんだよ? 」

 そこでリアカーを引いてきた猫さんが、こちらを向いてお辞儀をします。

「リーヴェ様、自分は劇団げきだん猫のドラキチで、この綺麗な子が、妻のみぃーちゃんです。よろしくお願いします」

「はっ、はい、よろしくお願いします」

「白けましたね」

 そこでスヴァンさんがその場で背を向けると、リーヴェの方へ歩いて来て肩の上に飛び乗って髪の毛の中に入ってきました。

「へぇん、おととい来やがれ! 」

 そう吐き捨てたアオグさんは背を向けると、ずっと腕立て伏せをしていたハルカゼさんの背中の上に戻りました。

 えっ、えーと、リーヴェにしか見えない謎の猫さんたちが、一気に増えちゃいました!

 ……アルドくんには、なんて説明したら良いのかな?

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