勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜
第36話、頑張れエル!
◆ ◆ ◆
ボクたちはちょっとした広場に出た。
そして影の悪魔が操るモンスターたちが追って来ていると言うのに、あろうことか先頭を行くアルドさんが足を止め振り返る。
「二人共、冒険者にとって大事なものとはなんだと思う? 」
「……え? 」
訳も分からず立ち止まり、路地に見えるモンスターたちがこの広場まであと少しと言う所まで来ているのに、突然の質問。
そんなの分かる訳がない以前に、なにを言ってるの?
アルドさんは良い人だ。
でも普通の人とは少しズレてる部分があり、のめり込むととことん追求する一面がある。
今みたいに、この追い詰められた状態での質問とかが正にそうだけど——
嫌な予感が雫となり、ボクの頬をツゥーと流れ落ちる。
背後に追ってくるモンスター、それとは別に周囲の建物から姿を露わにする新手の敵たち。
思わず視線と共に首を忙しなく左右に振ってしまう中、アルドさんが語り始める。
「——それは生き残る力。危機を払い除けるための高い戦闘能力も良いだろう、不穏な空気を察知しいち早く逃げ危険を未然に回避する事も良いだろう。
……と言うわけでなんだ、これから二人には今ここで出来る最高のパフォーマンスを発揮、駆使して貰い、生き残る術を現場で学んで貰えればと思っている」
えっ、それって?
その感情がこもらない抑揚のない言葉が、なんだかここから先は一切加勢しないという宣言のように聞こえる。またこれからボクたちが通る過酷な未来が容易に想像出来たため、ボクの背筋がえも言われぬ寒さに震える。
「アルドさん、悪魔じゃないですよね?
アルドさんは聖職者なんですよね!? 」
もう聖職者気取りや、鬼コーチなんて思いませんから!
しかし広場に雪崩れ込み始めた敵をまるで果物でも叩いて潰すようにして、簡単に次から次へとメイスで粉砕しながら振り返ったアルドさんは、顔を笑みの形に変えてはいるけどその瞳は一切笑っていなかった。
「なあに、プロテクションを施しているし、いざとなったら助けに入れるよう側で待機をするから」
「お姉ちゃん! 」
お姉ちゃんの肩にすがる。
するとお姉ちゃんは、唇を結び強いまなこでボクを真っ直ぐ見据える。
「エルちゃん、アルドくんを信じましょう! 」
「この人信者だよ! アルド教の信者だよ! 」
そこでアルドさんが腰を落とし押し出すようにして突き出した掌底打ちを放つ。それを受けたパペットが後続のモンスターたちを巻き込みながら吹き飛びモンスターたちの突入の勢いが削がれると、その隙に助走をつけたアルドさんが民家の壁を蹴った反動で屋根の上に飛び上がる。
「それではスタートだ」
モンスターの進行を抑えていたアルドさんが屋根の上へ退いた事により、小さな広場に再度スケルトンとパペットの群れが一斉に雪崩れ込んでくる。
「お姉ちゃん! こっちへ! 」
「はっ、はい! 」
ボクたちはモンスターに背を向けると、一目散に細い路地を目指し駆ける。ふらふらと進行方向上に歩み出たパペットを両手で突き飛ばすと、細い路地へ踏み込み更に街の奥へと進んでいく。
どうしよう、どうしよう。
このまま逃げてても、いつかは行き止まりに行き着いてしまうかもしれない。
どうしよう、どうしよう。
アルドさんみたいに屋根の上に駆け上がれたら良いけど、それだと身軽なボクはまだしもお姉ちゃんは付いて来れないかもしれない。
どうしよう、どうしよう。
かと言って、あの大軍を倒せる技量や体力はボクたちにはない。
そうだ、兎に角まずは、どこかお姉ちゃんでも登れそうな屋根への逃走経路を見つけないと!
それからボクは道行く通路を徘徊するまだこちらに気付いていないモンスターたちに先制攻撃を喰らわせながら、台になりそうな物を探しながら道を切り開いていく。
よし、台は見つからなかったけど、だいぶあの大軍を少しは引き離せた! 次に広場のような所に出たら、民家の中に入ってでも足場になる物や場所を探そう!
「お姉ちゃん! 」
「はいです! 」
「次の広場で探し物をするから、そのあいだ援護をお願いします! 」
「わかりました! 」
そして民家の間を縫うようにして右へ左へ曲がる狭い路地を抜けると、さっきとは別のちょっとした広場に出た。
「お姉ちゃん、ここでお願いします! 」
「わかりました! 」
まず広場には足場になりそうな木箱や樽などは見当たらない。なら民家の中だ!
開け放たれた民家の一つに入ると、そこは一部屋だけの民家であった。その室内には大きな本棚が置かれている。
あの本棚なら足場になりそうだけど、ちょっと大きすぎるから運ぶだけで時間がかなりかかってしまう。
時間が勿体無い、別の民家だ。
隣の民家に入るとここも一部屋だけの建物であった。ただ中央には大きな丸テーブルが置かれている!
これだ!
これなら運び出せる!
「他者を妬み身を滅ぼす愚者よ、我に力の本源を! 闇の奔流! 」
昨日お姉ちゃんがララ先生から教わっていた、闇堕魔法の闇の矢を生み出す呪文を唱える声が聞こえた!
それはつまり、戦闘が始まる合図!
急がないと!
入り口に突き出た脚が引っかかりながらも、テーブルを広場へと運び出す事に成功する。
そこでボクの目に飛び込んで来たのは、放たれたダークアローが広場へと踊りだそうとしていたスケルトンの一体を霧へと変える場面だった。
あれ?
もしかしてダークネスを使えるお姉ちゃんが居たら、戦えるのでは?
ボクの攻撃は軽い。
だからアルドさんみたいに、ひと蹴りで複数の敵を吹き飛ばすなんて出来ない。
だから一体の相手をしているとあっという間に囲まれてしまうから、ジリジリと後退しながらの応戦になってしまう。
でもお姉ちゃんが援護してくれたら、かなり良い線を行けるのでは!?
「お姉ちゃん、ここで戦いましょう! 」
「はっ、はい! 」
そして怒涛の勢いで迫る敵たちに向け、ボクも迎え撃つため駆けたのだけど——
ボクは一瞬にして囲まれてしまった。
あれ? どうして?
敵の攻撃を避けながらも攻撃を当て、避けて避けて攻撃を当て、避けて避けて避けて——
お姉ちゃんが中々矢を射ってくれてない!
援護があると期待している分、おわっと、焦りが半端ないです!
「おっ、お姉ちゃん! ララ先生みたいに早く射って下さい! 」
「わかりました、やってみます! 」
そしてお姉ちゃんが即座に放った闇の矢が、あろう事かボクに迫ってきた。それを自身を覆う魔力に触れた時点で感じ取ったボクは、咄嗟に身を捩り被害を最小限に食い止めたんだけどお尻の薄皮一枚を掠めたためズボンが裂けた。
「エッ、エルちゃん、ごめんなさい! 」
そして放たれたニ射目はボクのおヘソの真横を通り過ぎ、またまたボクの服を裂いてしまう。
なぜ!?
こんなにたくさんの敵に囲まれてるのに、なぜボクに吸い寄せられるように飛んでくるの!?
「あわわわっ、早く援護しないと! 早く援護しないと! 」
「おおっ、お姉ちゃんストップです! 取り敢えずこの広場から脱出しましょう! 」
身を屈ませ囲まれていたモンスターの集団から抜け出すと、お姉ちゃんの手を引き奥へと続く路地へと飛び込む!
駄目だ、お姉ちゃんは凄いけど使えない!
あっ、焦るな!
今のは欲を出したのがいけなかった!
仕切り直して、今度は欲を出さずに直ぐに上へ逃げないと!
「リーヴェがポンコツですまない」
駆けるボクたちの直ぐ後ろから掛けられた声に、思わず心臓が飛び出そうになる。
振り返れば背後にピッタリとついてくるアルドさんの姿が。
「でもエルは頑張っているな、これからもその調子で頑張るんだ! 」
アルドさんはそう言い残すと、飛び上がり簡単に屋根の上へと移動をする。
なんだろう、この光景?
……すごく歯痒い。
ボクたちはちょっとした広場に出た。
そして影の悪魔が操るモンスターたちが追って来ていると言うのに、あろうことか先頭を行くアルドさんが足を止め振り返る。
「二人共、冒険者にとって大事なものとはなんだと思う? 」
「……え? 」
訳も分からず立ち止まり、路地に見えるモンスターたちがこの広場まであと少しと言う所まで来ているのに、突然の質問。
そんなの分かる訳がない以前に、なにを言ってるの?
アルドさんは良い人だ。
でも普通の人とは少しズレてる部分があり、のめり込むととことん追求する一面がある。
今みたいに、この追い詰められた状態での質問とかが正にそうだけど——
嫌な予感が雫となり、ボクの頬をツゥーと流れ落ちる。
背後に追ってくるモンスター、それとは別に周囲の建物から姿を露わにする新手の敵たち。
思わず視線と共に首を忙しなく左右に振ってしまう中、アルドさんが語り始める。
「——それは生き残る力。危機を払い除けるための高い戦闘能力も良いだろう、不穏な空気を察知しいち早く逃げ危険を未然に回避する事も良いだろう。
……と言うわけでなんだ、これから二人には今ここで出来る最高のパフォーマンスを発揮、駆使して貰い、生き残る術を現場で学んで貰えればと思っている」
えっ、それって?
その感情がこもらない抑揚のない言葉が、なんだかここから先は一切加勢しないという宣言のように聞こえる。またこれからボクたちが通る過酷な未来が容易に想像出来たため、ボクの背筋がえも言われぬ寒さに震える。
「アルドさん、悪魔じゃないですよね?
アルドさんは聖職者なんですよね!? 」
もう聖職者気取りや、鬼コーチなんて思いませんから!
しかし広場に雪崩れ込み始めた敵をまるで果物でも叩いて潰すようにして、簡単に次から次へとメイスで粉砕しながら振り返ったアルドさんは、顔を笑みの形に変えてはいるけどその瞳は一切笑っていなかった。
「なあに、プロテクションを施しているし、いざとなったら助けに入れるよう側で待機をするから」
「お姉ちゃん! 」
お姉ちゃんの肩にすがる。
するとお姉ちゃんは、唇を結び強いまなこでボクを真っ直ぐ見据える。
「エルちゃん、アルドくんを信じましょう! 」
「この人信者だよ! アルド教の信者だよ! 」
そこでアルドさんが腰を落とし押し出すようにして突き出した掌底打ちを放つ。それを受けたパペットが後続のモンスターたちを巻き込みながら吹き飛びモンスターたちの突入の勢いが削がれると、その隙に助走をつけたアルドさんが民家の壁を蹴った反動で屋根の上に飛び上がる。
「それではスタートだ」
モンスターの進行を抑えていたアルドさんが屋根の上へ退いた事により、小さな広場に再度スケルトンとパペットの群れが一斉に雪崩れ込んでくる。
「お姉ちゃん! こっちへ! 」
「はっ、はい! 」
ボクたちはモンスターに背を向けると、一目散に細い路地を目指し駆ける。ふらふらと進行方向上に歩み出たパペットを両手で突き飛ばすと、細い路地へ踏み込み更に街の奥へと進んでいく。
どうしよう、どうしよう。
このまま逃げてても、いつかは行き止まりに行き着いてしまうかもしれない。
どうしよう、どうしよう。
アルドさんみたいに屋根の上に駆け上がれたら良いけど、それだと身軽なボクはまだしもお姉ちゃんは付いて来れないかもしれない。
どうしよう、どうしよう。
かと言って、あの大軍を倒せる技量や体力はボクたちにはない。
そうだ、兎に角まずは、どこかお姉ちゃんでも登れそうな屋根への逃走経路を見つけないと!
それからボクは道行く通路を徘徊するまだこちらに気付いていないモンスターたちに先制攻撃を喰らわせながら、台になりそうな物を探しながら道を切り開いていく。
よし、台は見つからなかったけど、だいぶあの大軍を少しは引き離せた! 次に広場のような所に出たら、民家の中に入ってでも足場になる物や場所を探そう!
「お姉ちゃん! 」
「はいです! 」
「次の広場で探し物をするから、そのあいだ援護をお願いします! 」
「わかりました! 」
そして民家の間を縫うようにして右へ左へ曲がる狭い路地を抜けると、さっきとは別のちょっとした広場に出た。
「お姉ちゃん、ここでお願いします! 」
「わかりました! 」
まず広場には足場になりそうな木箱や樽などは見当たらない。なら民家の中だ!
開け放たれた民家の一つに入ると、そこは一部屋だけの民家であった。その室内には大きな本棚が置かれている。
あの本棚なら足場になりそうだけど、ちょっと大きすぎるから運ぶだけで時間がかなりかかってしまう。
時間が勿体無い、別の民家だ。
隣の民家に入るとここも一部屋だけの建物であった。ただ中央には大きな丸テーブルが置かれている!
これだ!
これなら運び出せる!
「他者を妬み身を滅ぼす愚者よ、我に力の本源を! 闇の奔流! 」
昨日お姉ちゃんがララ先生から教わっていた、闇堕魔法の闇の矢を生み出す呪文を唱える声が聞こえた!
それはつまり、戦闘が始まる合図!
急がないと!
入り口に突き出た脚が引っかかりながらも、テーブルを広場へと運び出す事に成功する。
そこでボクの目に飛び込んで来たのは、放たれたダークアローが広場へと踊りだそうとしていたスケルトンの一体を霧へと変える場面だった。
あれ?
もしかしてダークネスを使えるお姉ちゃんが居たら、戦えるのでは?
ボクの攻撃は軽い。
だからアルドさんみたいに、ひと蹴りで複数の敵を吹き飛ばすなんて出来ない。
だから一体の相手をしているとあっという間に囲まれてしまうから、ジリジリと後退しながらの応戦になってしまう。
でもお姉ちゃんが援護してくれたら、かなり良い線を行けるのでは!?
「お姉ちゃん、ここで戦いましょう! 」
「はっ、はい! 」
そして怒涛の勢いで迫る敵たちに向け、ボクも迎え撃つため駆けたのだけど——
ボクは一瞬にして囲まれてしまった。
あれ? どうして?
敵の攻撃を避けながらも攻撃を当て、避けて避けて攻撃を当て、避けて避けて避けて——
お姉ちゃんが中々矢を射ってくれてない!
援護があると期待している分、おわっと、焦りが半端ないです!
「おっ、お姉ちゃん! ララ先生みたいに早く射って下さい! 」
「わかりました、やってみます! 」
そしてお姉ちゃんが即座に放った闇の矢が、あろう事かボクに迫ってきた。それを自身を覆う魔力に触れた時点で感じ取ったボクは、咄嗟に身を捩り被害を最小限に食い止めたんだけどお尻の薄皮一枚を掠めたためズボンが裂けた。
「エッ、エルちゃん、ごめんなさい! 」
そして放たれたニ射目はボクのおヘソの真横を通り過ぎ、またまたボクの服を裂いてしまう。
なぜ!?
こんなにたくさんの敵に囲まれてるのに、なぜボクに吸い寄せられるように飛んでくるの!?
「あわわわっ、早く援護しないと! 早く援護しないと! 」
「おおっ、お姉ちゃんストップです! 取り敢えずこの広場から脱出しましょう! 」
身を屈ませ囲まれていたモンスターの集団から抜け出すと、お姉ちゃんの手を引き奥へと続く路地へと飛び込む!
駄目だ、お姉ちゃんは凄いけど使えない!
あっ、焦るな!
今のは欲を出したのがいけなかった!
仕切り直して、今度は欲を出さずに直ぐに上へ逃げないと!
「リーヴェがポンコツですまない」
駆けるボクたちの直ぐ後ろから掛けられた声に、思わず心臓が飛び出そうになる。
振り返れば背後にピッタリとついてくるアルドさんの姿が。
「でもエルは頑張っているな、これからもその調子で頑張るんだ! 」
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