勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜

北河原 黒観

第32話、お酒は程々にね

 ◆ ◆ ◆


 私は心を有と無の間に置き、時折走る鋭い痛みが湧き上がるたびに切り離していく。
 そして心臓に刺さるナイフを抜き捨てると同時に改めてヒールを発動させ、心臓を貫通する穴を閉じ完治させる。

 結構ギリギリの戦いであった。
 現在最高の手である第三段階トリプルと即座に捨て身の攻撃を行なっていなければ、敗北をしないまでも最悪相手に逃げられていたかも知れない。

 しかしこの男——

 胸元が開き血を流し崩れ落ちている、冒険者風の男に視線を落とす。

 私を見るなりいきなり襲ってき、しかも音を感じさせない独特の足運びに魔力回路を使いこなした戦い方。
 高確率で今回の騒動に関わりがある、最重要人物。

 ダンジョン活性化の件があり、また色々と話を聞き出さなければいけないからな。

 私はまだ手にしていた心臓を倒れている男の胸に戻すと、ヒールを発動。
 そして暫くして男が息を吹き返したのを確認すると、手足を折ったうえで猿ぐつわを行なう。

 しかし普通に考えると、この男が一人だけで行動していたとは考えにくい。

 そこで現在回復魔法系のみ有効な神力次元変換ディメンションチェンジでオールヒール探索版にブースト行ない広範囲を警戒してみると、ダンジョンの奥深い場所に生命反応を一つ見つける。
 罠の可能性も視野に入れつつその場へ向かうと、瀕死の状態の冒険者を新たに見つけたため回復魔法を使い助けるのであった。


 その後日、今回のダンジョン活性化騒動の最重要参考人として捉えていた男の供述に注目をしていたのだが、男は独房の壁に頭を打ち付けるという壮絶な自殺を図ってしまったため、真相は闇に包まれてしまった。

 しかしそこでゴブリン騒動を思い出す。
 なにか大きな力が働いていると判断し、まだ誰が信用できるか分からない状態であったため警戒し無闇矢鱈に調べようとはしなかったが、今回ララノアに頼み内密にエルが住んでいた村について改めて調べてみた。

 するとどうやら私達が去ったその直後に、村ごと全焼する騒ぎがあったらしい。
 そのため多くの焼死体が発見されたらしいのだが、瓦礫に埋もれていたり丸焦げだったりと遺体の損傷が激しいため正確な被害者数が把握出来ていないそうだ。
 ただどうも住民の数より多くの死体が見つかっているため、今のところ日頃から恨みがある村同士規模の争いがここで行われたのではと言う見解になっているらしい。

 そして活性化間近だったダンジョンに関してだが、もう少し様子を見て完全に収束状態と判断されれば、最終調査を兼ねて生まれ落ちた変異種を全て狩るメンバーが組織されるらしい。
 そしてギルド長の計らいで、その最終調査でダンジョン深部へ向かうパーティーメンバーの中に、特別に私だけ一緒に同行する事が許されている。

 真実の呪文の手がかりが眠る、ダンジョンへの探索。今から待ち遠しい。
 そうだ、紙と鉛筆を購入しておかないといけないな。


 ◆


 更に翌日の夕刻——

「乾杯! 」

 ララノアから誘いを受けた私たちは、喧騒の中ギルド内にある酒場で丸テーブルを囲んでいる。
 そしてこの場に腰掛ける私たちの装いは、今までのように平民が着る服を外套で隠しているのではなく冒険者のそれに変わっていた。

 リーヴェの衣服は、肌より暗い色で統一されている。
 首まである皮の上着はその細い体型にぴったりフィットしているのだが、胸元の上部が大胆にも黒タイツになっているため肌が透けて見えてしまっている。
 少し丈が短かいミニスカートはセクシーなのだが、でもどこか可愛らしさが感じられ、同じく黒を基調とした膝上まであるブーツや全身を覆い隠せる外套も、どこか彼女の魅力を引き立てているように感じる。

 代わってエルは少し少年っぽい印象を受けるが、一般的な冒険者が使用する厚手の上着に動きやすそうな7分丈のズボン、そして頑丈だけが取り柄そうな手袋にブーツ。

 因みに私の服装は、エルと大して変わりないため割愛。

 しかし二人を見て思う、馬子にも衣装だなと。

 またエルは剣のグレードが上がり、リーヴェも新たな弓を入手。私は年季が入ってそうだが、戦棍メイスを所持している。
 因みにこれらの服装や武器、実は全部おさがりだったりする。

 つい先日私たちはダンジョン内で複数の冒険者を助ける形になったわけだが、ダンジョン脱出後に彼らがお礼をしたいと申し出て来ていた。
 最初それらを断っていたのだが、彼らの誰かが私たちの装備が貧相と言ったのが発端で、『そうだそうだ』と装備を買ってくれると言い出し始め、それも断っていると『じゃ、俺たちの持ち物を譲るならいいだろ! 』になり押し切られる形で昨日無理やり渡されてしまっていた。
 ただ恐らく唯一女性と認識されているリーヴェのみ、服がえらくセクシーでいて可愛いらしいうえに真新しい感じであったのだが、そこは気持ちとして黙って受け取る事にした。

 そして私たち三人は今回の一件で高評価を受け見事試験に合格、正式に冒険者ギルドの一員となった。
 と言うわけで、晴れて同じ冒険者ギルドの仲間になった記念で、先輩冒険者ララノアから奢ってもらう事になったのだ。

 因みにララノアのみエールを注文しているのだが、私たちの木製ジョッキの中身はただのぬるい水だ。

「さー食べて食べて」

「「いただきまーす」」

 しかし今回の件で、冒険者業は危険が付き纏う仕事だと言う事を再認識させられた。
 だが今更付いてくるなと言っても、二人の意思は固い。そうなると自ずと新たな仲間を加える流れになるわけか。

 そうだな、贅沢を言うならば私が回復に専念できる仲間が良い。筋肉質で大柄の戦士で、脳筋の者だと更に好ましいのだが——

「二人とも、ちょっと良いかな? 」

 リーヴェとエルが各々ミニトマトとサラダをフォークでパクついている最中であったため、視線だけをこちらへ向ける。

「これから仲間を探そうと思うのだが、どう思う? 」

「良いと思いますよ」

「リーヴェも良いと思います」

「因みに仲間に求めるモノはあったりするか? 」

「アルドさんに任せます」

 そのエルの言葉に、リーヴェもうんうん首肯をする。

「そうか——」

 そこで視線を彷徨わせていると、こちらに背を向けるまさに屈強な戦士といった男を見つける。その者は己の肉体を防具としているようで、上半身裸で黒のブーメランパンツを愛用している。

「あの戦士なんかどう思う? あの全てを受け止めてくれそうな肉体、今の私たちに必要だと思わないか? 」

 しかしリーヴェとエルの反応は、私が思う最低な反応であった。
 露骨に嫌そうな表情になると、二人して猛抗議を始める。

「アルドさん、僕たちのパーティーに男の人はありえません! アルドさん以外の男の人と旅するなんて、いつ襲われるのかビクビクしながらの旅になってしまうと思います! 怖いです! 」

「リーヴェも、アルドくん以外は……その、嫌です」

 否定はされたが、悪い気分ではないな。

「なんだ二人とも、そんなに私の事を信頼してくれているのか? 」

「いえ、アルドさんにはそんな勇気がないと考えているだけです」

 ……なぬ?

「リーヴェは……アルドくんなら……」

「ん? リーヴェ今なにか言ったか? 」

「……なんでもないですぅ」

 そこでララノアが割って入ってくる。

「それよりさアルド、仮にだけど新しく入ってきた男が、リリっちと仲良くなるのは良いわけ? 」

 リーヴェと他の男が仲良く、つまり恋仲と言うことか。
 それでリーヴェが幸せになるのであれば……、いや、これはなんなのだろうか?
 なにかは分からないが、私の心の奥で何かが引っかかってしまっている。

「えーと、そうですね」

 そこで三人が食い入るように私を凝視している事に気がつく。
 しかしこの気持ちをなんと表現をすれば良いのか分からないため、自然と下を向いてしまう。

 ……そのまま思った事を言えば、納得してくれるかな。

「……よくわからないです」

「ふーん」

「ただなんと言うか、そう考えれば考えるほど、頭ではリーヴェとその人を祝福してあげたいと思っているのですが、……なぜか心がモヤっとしています」

 なんとか気持ちを整理して言葉にしてみるが、三人の反応がない。
 そのため顔を上げたのだが——

 ララノアとエルは瞳を輝かせ、リーヴェはなぜか俯いてしまっている。

「すみません、うまく表現出来なくて」

「いいや上出来よ! さぁ、食べた食べた! 」

 そしてお腹もだいぶ膨れて来たあたりで、先程からエールばかりを飲んでいるララノアが座った目で私をジッと見だし始める。

「アルド、あぁた18なんでしょ? あんで水なんかぁ飲んでるのよ? 」

 頬を赤く染めるララノア、どうやら酔うと他者に絡む性質が出てくるらしい。

「アルコールが入ると、食材の味に集中出来なくなるからです」

「それじゃっ、そろそろ飲んでも大丈夫ってことよねぇ? おなかいっぱいでしょ? まぁさか、わたしの酒を断る、あんてことは、しないわよねぇ? 」

 そしてウェイトレスから運ばれたばかりの四つのジョッキの内一つを、グイッと私に差し出す。
 まぁ前世でも断れない酒の席はあったし、飲み比べをさせられた事もあった。だから嗜む程度くらいなら付き合っても良いだろう。
 仮に酔ったとしてもヒールで解毒出来るため、飲酒のリスクは限りなくゼロに近い。

 それより——

「リーヴェも飲むのか? 」

 リーヴェはララノアから配られたジョッキを、両手で挟み込むようにして持っている。

「はっ、はい、もう飲んでも良い年齢ですし、それに少しだけ、興味があるので……」

「なるほどな」

 ただ——

「エル、お前はまだ16になってないだろ? これはお預けだ」

 私はエルが引き寄せていたジョッキを奪うと、そのまま自身のジョッキ横へ並べる。

「えー、そんなー、僕だけ仲間はずれ!? 」

 そこで新たに注文を。
 そしてエル用の飲み物が届いたところで、ミルクに一人憤慨するエルをよそに再度乾杯を行なう。

 しかしリーヴェ、チビチビ飲むスタイルのようだが先程から結構な量を飲んでいるな。
 顔にも出ていないため、かなりの酒豪なのかも知れない。

「ところでリーヴェ、あのあと猫はどんな感じなんだ? 」

「えーと——」

 先日リーヴェから聞いた話によると、リーヴェの魔力により召喚された二足歩行の猫は、それから四六時中リーヴェの側に居るらしい。
 そしてダンジョンでのリビングメイル戦で見せた力は、その猫がリーヴェに力を付与したと言う。
 しかもその猫、自分の意思を明確に持ち、普通に話しかけてくると言うではないか。

 全てに於いて前例がない。
 しかし常時召喚についてだけは、魔力を垂れ流しにしているリーヴェだからこそ可能なのではと考えられる。

 そこでリーヴェがテーブル下、自身の足元を覗き見たためそれに習い見てみると、リーヴェのミニスカートの中、デルタゾーンが見えそうになったため慌てて顔を上げ姿勢を正す。

「今うちわ猫のアオグさんが、ヒック、呼び寄せた息子さんのハルカゼさんをトレーニングしてます」

「トレーニング? ……と言うか、猫が増えたのか? 」

「はっ、はい……ヒック」

 さらに同時召喚!?
 いや、今の言い回しだと、召喚された者が自力で更に召喚した事になる!

「ちょっとアルドォ、さっきから一口も飲んでないじゃないのぉ! 」

「えっ、えぇ、すみません」

「リリっち、アルドに勧めてあげなさい! 」

「はい、ヒック」

 そして丁寧にリーヴェが手渡ししてくれたジョッキを手に口をつけ、エールを一口含んだのだが——

 こっ、これは、この感覚は、もしかして今世の私、酒に弱い体質なのでは!?

 現在、絶賛世界がぐわんぐわん歪んで見えている。
 これは、洒落にならない。そうそう……に、かいふくまほう……を——

 そこで誰かが、私の肩に組みついてきた。
 ララノアだ。
 怒った様子なのは分かるが、私の身体にべったりくっ付いて来ている。

「あにチビチビ飲んでんのよぉ! 」

 そして顔を赤らめるララノアが、さらに私の身体に密着をしてきて——

「リリっち、今のうちに、飲ませるのよ! 」

「ヒック」

 そしてリーヴェの、顔が迫ってきてる!?

「んんぅ!? 」

 ずっと嗅いでいたくなる甘い香りが届く中、唇に柔らかで熱いものが触れた。かと思うと、私が仰け反ってしまったため重心が傾き、そこへ体重を預けてきていたリーヴェの身体が重なってきて、唇が唇で押し広げられ——

「んくっ、んくっ」

 そして微量ではあるが、確かに口移しで、先程より甘美な酒が流しこまれていく感触が——

 そのお酒で一気に酔いが回った私は、そこからの記憶が完全に途切れてしまうのであった。

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