勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜
第30話、絶体絶命
◆ ◆ ◆
リーヴェが作ってくれた風穴があったからこそ、巨大なリビングメイルを倒す事が出来たわけだが——
注目すべきは、小首を傾げながらこちらを見ているリーヴェだ。
なんだったのだ、あの矢の威力は?
通常の力ではまずあり得ない。
そして矢を放つ直前のリーヴェには、確かに複数のエンチャントが発動していた。
それも私が知らない強力なエンチャント——
「あの、……アルドくん? 」
リーヴェの手を取って見てみるが、エンチャントは私が施しているプロテクションしか感じられない。
なら別の部位か?
確認する場所を肘、二の腕、肩へと移動させていく。
「ふっ、二人とも、じろじろ見ないで……」
いや、もしかして弓の方か!
そして私が弓に意識を向けたちょうどその時、弓本体に大きな亀裂が入ってしまう。そして瞬く間にそこから小さな罅が全体に走ると、驚く事に粉々に砕けてしまった。
「あわわわ、ララ先生に貰った弓、壊しちゃいました」
「あー、いいよいいよ。あれだけの威力の矢を射ればね、しょうがないよ」
この独特な壊れ方、一度魔具で見た事があるが、道具に内包する魔力に器が耐えきれない時に見られる壊れ方と一緒。
たしかあの時の指輪の魔具は、かなりの年代物だったが。
——という事は、魔具の弓だったのか!?
しかしそれなら、なぜリーヴェを包み込むようにしてエンチャントが?
まてよ、思い出した!
そう言えばリーヴェ、猫がどうとか意味不明な言葉を言っていたよな?
「それよりアルド、気がついてる? 」
ララノアが辺りを見回しながらに言ったため、ピンとくる。
「……息苦しさがなくなっています」
「そう、ここへ魔素が流れ込んで来ていない」
そう言えば高密度の魔素が、先程感じた場所から移動していない。いや、むしろ少し奥側へ後退している?
先程のリビングメイルが生み出される際、それ相当の魔素が消費されたわけだから停滞はあり得る。しかし後退すると言うことは、魔素が大きく減少している証。
つまりそれは、ダンジョンの活性化が収まりつつあると言う事。
……それは本当に良かったが、それより今は猫だ! 謎のワード猫をリーヴェから直接聞き出さなければ!
そこで再度リーヴェに視線を向けると、彼女は今までの元気が嘘だったみたいに表情が陰り俯いてしまっている。
「どうかしたのか!? 」
私の問い掛けにこちらを見上げたリーヴェは、表情乏しく顔色は青ざめ、身体を震わせていた。
「どうしたリーヴェ、大丈夫か!? 」
「アルド君、悲鳴が——」
その時であった、何かの爆発音が少し離れた所から聞こえたのは。
これは精霊魔法の炎属性か、その派生の爆裂系の魔法!?
つまり、近くで誰かが戦闘をしている!
瞬時にオールヒール探索版を最大出力に上げ、その戦況を探る。
どうやら複数の人が大型の魔物と交戦中のようだが、負傷者もいるようで這ってその場を逃れようとしている者もいるようだ。
と言うかこの魔物、馬鹿でかい図体の割にかなり高速で移動が出来ている!?
「ララ先生、先程の馬鹿でかい魔物クラスのサイズで、高速で動くモンスターに心当たりはないですか? 」
「えっ、高速!? そんなモンスター聞いた事ないわ! 」
「……わかりました。あとどうやらこの先で、負傷者が出ているみたいです。ララ先生は予定通りこのまま引き返して報告をして下さい」
「えっ? 」
「……それと、二人をお任せします! 」
「あっ、ちょっ、アルド、勝手な行動は危険よ! 」
「私の事なら心配しなくていいです、こう言う展開には慣れていますので」
疾走しながら、意識を戦場へ向ける。
大型の魔物と交戦しているのは3名で、どうやら密集体形で迎え撃っている。
他には1名が這いつきながらもその場から離れるように移動をし、もう1名はかなりの重症なのか先程からピクリとも動きがない。
そこでその動きがない一名へ向け、さらに意識を集中する。
……心音らしき弱々しい波を感じられる、だが早く助けねば。
それに死してダンジョンへ吸収されてしまうような事になれば、それが引き金となり一気に活性期に突入、多くの人が命を落としてしまうかもしれない。
踏み締める足に、余計な力が入ってしまう。
そしてあと少しで現場へ到着するという時に、密集体形で戦っていた三人が、その場でバタバタと倒れるのを感じ取ってしまう。
◆ ◆ ◆
はぁ、はぁ、はぁ、誰か、誰かに知らせないと。
巨大な姿で宙を漂うそいつの姿は、ボロボロの布を羽織った骸骨で、その手には特大の大鎌が握られている。
そう、まるで死神のようだ。
しかも姿が鮮明ではなく虚ろで、細部に至っては空に浮かぶ雲のように刻々と形状を変化させている。
それはまるで闇の塊が形を成しているようで——
俺はつい今しがた、奴に背中から腰にかけてを斬られてしまった。そのためパックリ開いた傷からは血が止めどなく出、斬られた事によって腰から下が動かなくなったが懸命に地面を這っていく。
俺たちのパーティで回復役を務めていたディーズは、奴との出会い頭で真っ先にやられてしまった。
俺が常備している高級な回復薬を惜しげもなく使ったが、千切れかかる身体を繋ぎ止めるだけで精一杯だった。
……俺とディーズはもう、助からないかもしれない。
だが俺も冒険者だ!
仲間を救う事で俺の死を無駄にしない。いや、あいつらの中に俺の存在が残れば、それは死ではない!
先程からそう自身に言い聞かせているのだが、涙腺から溢れる涙が一向に止まってくれない。
死にたくない、こんな所で死にたくない。
だって、まだ早すぎるだろ?
両親を楽にしてやろうと思って冒険者になり、まだ三年も経っていない。
故郷のメアリーには、想いすら伝えてないのに。
斬られた背中は熱いが、指先が冷たい。
全身に感じる寒気が段々酷くなっている。
俺はこのままダンジョンに、喰われて消えてしまうのか。
そして意識が朦朧としだす中、何かに身体を掴まれる感触がした。
振り返り、言葉を失う。
あの死神から分離したドギーマンの一部が、亡者のような姿で俺の身体を恨めしそうに引っ張っていたのだ。
力の限り手を振り阻止しようとするが、新手の亡者たちに足や腰を掴まれてしまう。
くそっ、くそっ、あっちにいけ!
それは絶望。
懸命に進んだ道のりが、そいつらによって引き戻されていく。
とそこで、更なる絶望的な光景が目に飛び込んでくる。
死神と交戦していた三人が、死角から足元を掬うようにして振られた大鎌により、全員の体から足首が切り離されてしまったのだ。
苦悶の表情を浮かべ倒れていく三人。
そして地面に残された足首から下が、ジョッキに水を注ぎすぎて溢れてしまったみたいに血で濡れる中、死神から分離した亡者たちが三人へ群がっていく。
涙が止まらない。俺は意味もない言葉を大声で叫びながら、滝のように涙を流していく。
「ディメンションチェンジ、オールヒール」
とそこで、声を上げて泣き叫んでいた俺の耳に誰かの声が届いた。
その瞬間、その場が光りに包まれる。
……暖かい。
そして光が収まると、背中の痛みが消えている事に気付く。
それに腰から下、足が動く!?
纏わり付いているドギーマンたちへ向け、何度も蹴飛ばしたり手で払ったりして必死に追い払う。
ディーズを見れば、上半身だけをむくりと起き上がらせたため一瞬ゾンビになったのかと焦ったが、どうやら俺と同じで傷が治ってるっぽい。
そして一番驚いたのが、足首を切断された三人。
なんと三人とも、切断面の足首からニョキニョキとその先が生えてきたのだ。
そして切断されてしまった足首から下が、まだ地面に独立して立っている状態と相まって、気持ち悪いを通り越してホラーとなっている。
「皆さん、まだ戦闘中です。気を抜かずに自身の命を守る事だけを考えて下さい! 」
その声で俺たちの視線が一点に集まる。
中肉中背の外套を着た、……ん? あの肩の腕章は?
試験中の冒険者!?
なぜこんな危険なエリアに!
いや、そんな事より、この青年が俺たちを救ったと言うのか!?
「しかしこれは、相性が良さそうだ」
不気味な笑い声を上げながら天井をぐるぐる旋回している死神に向け、青年が大胆不敵な表情で見上げながらそう述べた直後——
「神聖降臨波」
複数の眩ゆい光球が青年を取り囲むようにして周囲に現れた。
リーヴェが作ってくれた風穴があったからこそ、巨大なリビングメイルを倒す事が出来たわけだが——
注目すべきは、小首を傾げながらこちらを見ているリーヴェだ。
なんだったのだ、あの矢の威力は?
通常の力ではまずあり得ない。
そして矢を放つ直前のリーヴェには、確かに複数のエンチャントが発動していた。
それも私が知らない強力なエンチャント——
「あの、……アルドくん? 」
リーヴェの手を取って見てみるが、エンチャントは私が施しているプロテクションしか感じられない。
なら別の部位か?
確認する場所を肘、二の腕、肩へと移動させていく。
「ふっ、二人とも、じろじろ見ないで……」
いや、もしかして弓の方か!
そして私が弓に意識を向けたちょうどその時、弓本体に大きな亀裂が入ってしまう。そして瞬く間にそこから小さな罅が全体に走ると、驚く事に粉々に砕けてしまった。
「あわわわ、ララ先生に貰った弓、壊しちゃいました」
「あー、いいよいいよ。あれだけの威力の矢を射ればね、しょうがないよ」
この独特な壊れ方、一度魔具で見た事があるが、道具に内包する魔力に器が耐えきれない時に見られる壊れ方と一緒。
たしかあの時の指輪の魔具は、かなりの年代物だったが。
——という事は、魔具の弓だったのか!?
しかしそれなら、なぜリーヴェを包み込むようにしてエンチャントが?
まてよ、思い出した!
そう言えばリーヴェ、猫がどうとか意味不明な言葉を言っていたよな?
「それよりアルド、気がついてる? 」
ララノアが辺りを見回しながらに言ったため、ピンとくる。
「……息苦しさがなくなっています」
「そう、ここへ魔素が流れ込んで来ていない」
そう言えば高密度の魔素が、先程感じた場所から移動していない。いや、むしろ少し奥側へ後退している?
先程のリビングメイルが生み出される際、それ相当の魔素が消費されたわけだから停滞はあり得る。しかし後退すると言うことは、魔素が大きく減少している証。
つまりそれは、ダンジョンの活性化が収まりつつあると言う事。
……それは本当に良かったが、それより今は猫だ! 謎のワード猫をリーヴェから直接聞き出さなければ!
そこで再度リーヴェに視線を向けると、彼女は今までの元気が嘘だったみたいに表情が陰り俯いてしまっている。
「どうかしたのか!? 」
私の問い掛けにこちらを見上げたリーヴェは、表情乏しく顔色は青ざめ、身体を震わせていた。
「どうしたリーヴェ、大丈夫か!? 」
「アルド君、悲鳴が——」
その時であった、何かの爆発音が少し離れた所から聞こえたのは。
これは精霊魔法の炎属性か、その派生の爆裂系の魔法!?
つまり、近くで誰かが戦闘をしている!
瞬時にオールヒール探索版を最大出力に上げ、その戦況を探る。
どうやら複数の人が大型の魔物と交戦中のようだが、負傷者もいるようで這ってその場を逃れようとしている者もいるようだ。
と言うかこの魔物、馬鹿でかい図体の割にかなり高速で移動が出来ている!?
「ララ先生、先程の馬鹿でかい魔物クラスのサイズで、高速で動くモンスターに心当たりはないですか? 」
「えっ、高速!? そんなモンスター聞いた事ないわ! 」
「……わかりました。あとどうやらこの先で、負傷者が出ているみたいです。ララ先生は予定通りこのまま引き返して報告をして下さい」
「えっ? 」
「……それと、二人をお任せします! 」
「あっ、ちょっ、アルド、勝手な行動は危険よ! 」
「私の事なら心配しなくていいです、こう言う展開には慣れていますので」
疾走しながら、意識を戦場へ向ける。
大型の魔物と交戦しているのは3名で、どうやら密集体形で迎え撃っている。
他には1名が這いつきながらもその場から離れるように移動をし、もう1名はかなりの重症なのか先程からピクリとも動きがない。
そこでその動きがない一名へ向け、さらに意識を集中する。
……心音らしき弱々しい波を感じられる、だが早く助けねば。
それに死してダンジョンへ吸収されてしまうような事になれば、それが引き金となり一気に活性期に突入、多くの人が命を落としてしまうかもしれない。
踏み締める足に、余計な力が入ってしまう。
そしてあと少しで現場へ到着するという時に、密集体形で戦っていた三人が、その場でバタバタと倒れるのを感じ取ってしまう。
◆ ◆ ◆
はぁ、はぁ、はぁ、誰か、誰かに知らせないと。
巨大な姿で宙を漂うそいつの姿は、ボロボロの布を羽織った骸骨で、その手には特大の大鎌が握られている。
そう、まるで死神のようだ。
しかも姿が鮮明ではなく虚ろで、細部に至っては空に浮かぶ雲のように刻々と形状を変化させている。
それはまるで闇の塊が形を成しているようで——
俺はつい今しがた、奴に背中から腰にかけてを斬られてしまった。そのためパックリ開いた傷からは血が止めどなく出、斬られた事によって腰から下が動かなくなったが懸命に地面を這っていく。
俺たちのパーティで回復役を務めていたディーズは、奴との出会い頭で真っ先にやられてしまった。
俺が常備している高級な回復薬を惜しげもなく使ったが、千切れかかる身体を繋ぎ止めるだけで精一杯だった。
……俺とディーズはもう、助からないかもしれない。
だが俺も冒険者だ!
仲間を救う事で俺の死を無駄にしない。いや、あいつらの中に俺の存在が残れば、それは死ではない!
先程からそう自身に言い聞かせているのだが、涙腺から溢れる涙が一向に止まってくれない。
死にたくない、こんな所で死にたくない。
だって、まだ早すぎるだろ?
両親を楽にしてやろうと思って冒険者になり、まだ三年も経っていない。
故郷のメアリーには、想いすら伝えてないのに。
斬られた背中は熱いが、指先が冷たい。
全身に感じる寒気が段々酷くなっている。
俺はこのままダンジョンに、喰われて消えてしまうのか。
そして意識が朦朧としだす中、何かに身体を掴まれる感触がした。
振り返り、言葉を失う。
あの死神から分離したドギーマンの一部が、亡者のような姿で俺の身体を恨めしそうに引っ張っていたのだ。
力の限り手を振り阻止しようとするが、新手の亡者たちに足や腰を掴まれてしまう。
くそっ、くそっ、あっちにいけ!
それは絶望。
懸命に進んだ道のりが、そいつらによって引き戻されていく。
とそこで、更なる絶望的な光景が目に飛び込んでくる。
死神と交戦していた三人が、死角から足元を掬うようにして振られた大鎌により、全員の体から足首が切り離されてしまったのだ。
苦悶の表情を浮かべ倒れていく三人。
そして地面に残された足首から下が、ジョッキに水を注ぎすぎて溢れてしまったみたいに血で濡れる中、死神から分離した亡者たちが三人へ群がっていく。
涙が止まらない。俺は意味もない言葉を大声で叫びながら、滝のように涙を流していく。
「ディメンションチェンジ、オールヒール」
とそこで、声を上げて泣き叫んでいた俺の耳に誰かの声が届いた。
その瞬間、その場が光りに包まれる。
……暖かい。
そして光が収まると、背中の痛みが消えている事に気付く。
それに腰から下、足が動く!?
纏わり付いているドギーマンたちへ向け、何度も蹴飛ばしたり手で払ったりして必死に追い払う。
ディーズを見れば、上半身だけをむくりと起き上がらせたため一瞬ゾンビになったのかと焦ったが、どうやら俺と同じで傷が治ってるっぽい。
そして一番驚いたのが、足首を切断された三人。
なんと三人とも、切断面の足首からニョキニョキとその先が生えてきたのだ。
そして切断されてしまった足首から下が、まだ地面に独立して立っている状態と相まって、気持ち悪いを通り越してホラーとなっている。
「皆さん、まだ戦闘中です。気を抜かずに自身の命を守る事だけを考えて下さい! 」
その声で俺たちの視線が一点に集まる。
中肉中背の外套を着た、……ん? あの肩の腕章は?
試験中の冒険者!?
なぜこんな危険なエリアに!
いや、そんな事より、この青年が俺たちを救ったと言うのか!?
「しかしこれは、相性が良さそうだ」
不気味な笑い声を上げながら天井をぐるぐる旋回している死神に向け、青年が大胆不敵な表情で見上げながらそう述べた直後——
「神聖降臨波」
複数の眩ゆい光球が青年を取り囲むようにして周囲に現れた。
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