勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜

北河原 黒観

第22話、模擬戦闘

「覚悟の上か、いい返事じゃな」

 瞬間ガウェインの身体を覆う魔力が闘気へ変換され、一気に場の空気が重くなる。

 この感じだと、やはりガウェインも魔法を一切使わない純粋な戦士!
 しかしこれ程の使い手だっ——

 それは突撃という言葉が相応しかった。
 肉の塊のような巨体が眼前に迫る。
 そしてあっという間に、視界の全てを占めるまでに接近を許してしまう!

 接近戦での戦闘経験の少なさが、ここにきて出てしまった。
 そう、木製の斧と盾のため重量が少ない分、相手は早く動け——

 脳内で警鐘が鳴る!

 線を引くようにして少しもぶれる事なく、戦斧が横薙ぎに振られた。

「くっ、……しまった」

 会場がどよめく中、一旦距離をとるためバックステップをする。

 ガウェインはというと、離れる私に追随はせずにその場で構えを取っている。

 取り敢えず助かったが、今ので私の左腕がポッキリ折れてしまっている。
 これは悪い癖が出てしまった。
 脳筋補正が掛かっているガウェインの一撃を、あろうことか素手で受けてしまったのだ。

 しかしプロテクションを発動していたと言うのに、軽くへし折られるとは。

 そして一瞬回復魔法を使いそうになってしまった自分がいた。
 それでは駄目だ。

 私は魔力切れ間近で自身に回復が使えない状態ででも、ダンジョンで仲間を守りきり生存出来るだけの力を持っていなければいけない。
 その力を持たずして、大切な仲間を危険なダンジョンへ連れて行くわけにはいかない!

 それにこの模擬戦闘は、勘が鈍ってしまっている今世の自身への訓練でもある。
 また冒険者になり旅を続けていれば、必ず追い込まれる事があるはず。接近戦でもその窮地を脱する術を、私は学ばなければならない。
 そしてそれを前もって体験できる今この瞬間は、私の人生にとってプラスでしかない。

 ガウェインの動向を注視しながら外套を剥ぎ取ると、折れた左腕が邪魔にならないようぐるぐる巻いて右手と口を使い固く結ぶ。

「まだやるようじゃのう」

「当たり前だ! 」

 考えるのだ!

 腕一本使い物にならなくなった今、生き残るためにこの逆境を物ともせず弾き飛ばし掴み取る行動を!

 ——そう言えばあいつ、とことん逆境に強かったよな。
 超一流である暗殺勇者。

 それにあいつはよく私にダメ出しをしていたが、気配を断つ事に関してだけは素直に褒めてくれていた。
 そして初めて褒めてくれた数時間前、何故か私はあいつの逆鱗に触れてしまっていた。その時死ぬ気でかくれんぼをしたのは、ただただ恐怖体験でしかなかったが。

 思い出しで苦笑してしまう。
 しかしお陰で気負いは無くなった。

 ガウェインを中心に円を描くよう、ゆるりと歩を進める。

 あいつの動きを真似る、思考を重ね合せる——

 あいつが常々言っていた事。
 真剣勝負では、刻々と状況が変わり気を抜けば一瞬で人生の幕が降りる。
 互いに無傷で戦闘が長引くなど、優位な方が力を抜いているか、片方が守りに徹し虎視眈々と反撃の機を伺っている最中でしかない。

 反撃の機を狙う。

 なるほど、ガウェインは仕掛けて来ないのではなく、あの待ちの体勢が本来の戦闘スタイルなのだろう。そして本領は、恐らく盾を使った守りからのカウンター。
 ただそんな守り重視である相手であっても、あいつなら一瞬で片をつけてしまう。

 その極意とは、いかに隙を見つけるか。
 無いなら隙を作るのみ。
 虚をつき欺き、動きを読まれてしまったとしても惑わす。
 戦場で頭を使わない奴は、すぐ屍となってしまうから。

 一瞬一瞬が勝負。

 ……おかげで、どう動くかがわかってきた。
 そして私がやるべき事は——

「いくぞ! 」

 私から行くのだ!
 油断を誘うためわざと宣言するよう声を上げてから、地を蹴り、剣を振りかぶり、ガウェインとの距離を詰めて行く。

「猪突猛進、若いな! 」

 そして私は、盾を構えるガウェインに向け力の限り剣を振り下ろした。続けて受け止められてしまった盾目掛けて、押し出すようにして渾身の後ろ回し蹴りを放つ!

「ぐぬぉ、なんじゃこの力は!? 」

 蹴りによりガウェインがその巨軀をよろけさせた隙に、屈み地を這うようにして移動。

 普通に考えるなら、大楯を構えているため真正面に隙は存在しない。
 しかしそこが盲点だ。
 絶対の自信を持つ場所を僅かにでも崩されると、必ずボロを出すはず。

 相手の懐、盾を持っているからこそ出来る死角への潜り込み。
 いま私は、ガウェインの視界から消えたはず。

 相手に考える隙を与えるな!
 迅速に動くんだ!
 ガウェインが大楯を僅かにズラし、私の姿を確認してしまう前に!

「くっ、小賢しい! 」

 そして、ガウェインが苛立ちの言葉を上げたと同時に、勝負は決した。
 大楯の右側から飛び出していた私が握る木剣が、相手の脇を捉えていた。
 これが真剣ならば、今頃ガウェインは肩口から腕一本を失う大ダメージを負っているだろう。

 そしてギャラリーからオオオッとどよめきが起こったあと、一泊置いて割れんばかりの歓声が上がった。

「勝負ありましたね」

「だーフェイントか。やられた、悔しいがワシの負けじゃ」

 因みに私は、ガウェインの虚をついたからこそ一撃を決め勝利していた。

 まず大楯に身を潜ませ視界から消えていた私は、片膝をつき更に体勢を低くすると、木剣を置き代わりに地面にある僅かな砂を握り込んだ。

 一瞬だけでいい、相手の気が引ければ。

 そしてそのタイミングで気配を断ち、私から見て盾の左側の虚空に向けその砂を投げつけると即座に剣を拾う。
 そうして相手へ警戒させた左側の反対である右側から、ガウェインが砂に意識が向き苛立ちの言葉を思わず漏らす中、私は盾をすり抜けて攻撃を行なったのだ。

 そこで傷ついた箇所を完治させるためヒールを発動しながら、リーヴェを見やる。

 しかし本当に危なかった。
 リーヴェは私が勝った事で、案の定はしゃいで喜んだ。しかし次の瞬間、水晶を手元から落としてしまった事に気づき青ざめる。

 まぁ、落とす事を予見していたギルド長が風魔法を操り、落下を防いでくれたため一大事にならなくて助かったが。

 因みに水晶を発光させ続ける事が落とす事により中断されたため、リーヴェの能力アピールテストもそこで強制終了となった。

 それとどうやら私の戦いが目立ってしまったようで、リーヴェは注目されなかった。それでもエルと私の試験中ずっと水晶を輝かせていた才能だけは、即魔法使いとして通用するレベル。

 そして私の合格が言い渡された時、ギルド長からその才能を評価して貰え無事リーヴェも第一試験を合格した。

 しかしリーヴェ、凄い才能なのに本当に宝の持ち腐れである。無理やりスペルを覚えさせてしまった方が良いのだろうか?
 しかしそれだと気持ちが乗っていないため、魔法にプラス効果は期待出来ないし、応用も難しいだろう。

 かといって召喚魔法は精霊魔法よりさらに詠唱が難しく、しかも失敗すると最悪魔物を呼び寄せてしまう事もある。
 リーヴェの才能が才能だけに、とんでもない化け物が引き摺り出される可能性もなきにしもあらず。

 なにかのヒントが隠されているかもしれないから、魔力回路の種類は今晩中に確認するが、恐らく魔力に特化した型だろうし——

 どうすれば良いんだ。
 せっかく合格したと言うのに、リーヴェのその先が一切見えて来ない。

「ガウェインのおっさんを倒すなんて、たいした新人じゃない」

 声につられて見上げると、青味がかった漆黒の肌、純粋なダークエルフの女性が佇んでいた。

 たしかこの人、ギャラリーの中にいた人。
 しかし目のやり場に困る。

 このダークエルフの女性、豊満な胸やムッチリとしたお尻を隠す事はせず、逆に見てくれと言わんばかりの布面積が少ない下着のような衣服を着用している。しかも紐の部分すらある始末。
 また漆黒の肌と同系色な服のため、ぱっと見裸なのかと驚いたぐらいである。

 実はエルの能力アピール中にこの女性を発見してしまったのだが、その後は出来るだけ視界にこのお姉さんを入れないよう努力をしていた。

 しかし同じ豊満な女性でも、清楚なイメージのリーヴェとは真反対の人物であるな。

「私はララノア=クライシス、よろしくね」

 そして差し出される手。

「えーと、どういう事ですか? 」

「ふふっ、ララ先生は君たちが見事一次試験に合格した暁には、君たちに挨拶するように言われてここへ呼ばれていたのよ。つまり私は、第二試験で君たちを受け持つギルド専任講師レクチャラーよ。
 とそうそう、私のことは敬愛を込めてララ先生と呼んでね」

 こうして仮免許が付いている私たちのパーティに、先輩であるC級冒険者が一時的に加わった。
 そして私たちは何も予定が入っていないため、早速明日から最終試験のためにダンジョンへ向かう事となった。

「勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く