勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜
第16話、エルを開発
◆ ◆ ◆
先ほどの霧が嘘のようだ。
大柄なゴブリンを一騎打ちで撃破した私は、例の抜け道を通りリーヴェたちと合流。それから足早に村から離れると、闇夜の森へと足を踏み入れる。
闇夜と言っても空には星々が輝いているため、最低限だが明かりは確保されていた。
しかしあの黒い霧に包まれた村は、さながら地獄に迷い込んでしまったような錯覚に陥るほど、不吉なものに満ち溢れていた。
一度脚を止めると、ぐるりと周囲を見回す。
ここなら危険は無さそうだな。
私たちは一度状況を整理するため、そしてこの中で最も心に傷を負ったであろうエルをケアするため、月明かりの元で小休憩を行なう事にした。
私はたまたま見つけた水溜りで顔と手に付いてしまっていた血を洗い流すと、頃合いを見計らってエルに歩み寄る。
「エル、大丈夫か? 」
「えっ、はい、大丈夫ですよ? 」
意外にもエルは元気な声で応えた。あのオヤジはどうでも良いが、恐らくエルの知り合いの多くは亡くなっていると言うのに。
「ところでエル、あの村以外で頼れる人がいたりするか? 」
「ボクにはお父さん以外、誰もいませんけど? 」
「そうか、ならこれからどうする? 宿での言葉に嘘偽りはない。お前さえ良ければ身寄りがない者同士、これから一緒に行動をしないか? 」
「えっ? ボクなら村に戻ってお父……あれ? 
ゴブリン? なんで村にゴブリンなんかが——」
……先程からエルが言ってる事がチグハグだ。もしかしたら非日常が突然訪れてしまったため、エルは現実を整理出来ていないのでは?
そして暫くすると、エルが落ち着いた。代わりに元気が全く感じられない。
「ボク、また捨てられたんだったですね」
そこでエルの瞳が涙で滲む。
「リーヴェがいます! 」
リーヴェが凛とした声で言った。
それを間近で聞いたエルは、顔をしかめ、ついには大粒の涙をポロポロ流し始める。
リーヴェはそんなエルの肩を掴むと続ける。
「エルちゃんは、一人じゃないです! 」
「お姉ちゃん」
抱きしめ合う二人。リーヴェに包まれたエルは、ヒクヒク身体を震わせていたが、時間と共に震えは治っていった。
そして私は、顔を上げたエルと目が合う。
「まぁ、なんだ、私もいるからな」
するとエルが、少しはにかんだように見えた。
「アルドさんも、優しいですよね」
「私はそんなんじゃないよ。まぁ、これからよろしくな」
「はい、よろしくお願いします! 」
そして結局私たちは、今晩も森の中で野宿をする事に。と言っても、近くにゴブリンがいるかもしれないため、今日も私は熟睡出来ない予定だ。
まぁ、日中に少しだけ仮眠が取れれば問題ないか。
因みに就寝時、今まで通りの私、リーヴェと来て、新たに加わったエルがリーヴェの前に陣取る形で、座って引っ付いて寝る事になってしまった。
——翌朝。
朝日が昇る前に起床をしていた私たちは、早朝から森の中を進んでいる。
しかし仕方がなかったとは言え、無一文か。
ただお金がないからとは言え、ここ数日間森の中にいる事が多かったため、だいぶ森での生活にも慣れており心に余裕がある。
それは優秀な食料調達係のリーヴェがいるからこそ、生活出来ているわけなんだが。
そして現在、リーヴェが朝食兼昼食の匂いを探知したため狩りに出かけているため、私とエルはその場で待機してリーヴェの帰りを待っている。
「そう言えばエル、良い筋肉の付き方をしているよな」
エルの体つきは細いのだが、質が違うように感じる。
「えっ? ……ありがとございます」
「それで少し、いいかな? 」
「えっ? あっ」
やはりか、手にしてわかる。
エルの腕は贅肉のない筋肉の塊。そして切開しないと言い切れないが、恐らくこのほとんどがピンク筋肉のはず。
筋肉には種類がある。赤筋と呼ばれる筋肉は、長時間動かすのには適しているのだが、瞬間的な力を出すことは不向き。
逆に白筋と呼ばれる筋肉は、持続能力は乏しいが爆発的な力を出すのに優れた筋肉。
そしてピンク筋肉とは、これら赤筋と白筋の両方の良い特性を兼ね備えた、瞬発力と持久力に優れた理想の筋肉である。
そしてそして、エルの魔力回路である。すでにどの程度まで機能しているのかは分からないが、ヒールを感じ取るだけの才能の持ち主。
どれ程の素質があるのかは、やはり興味深い。
「上半身裸になって貰っても良いか? 」
「えぇ!? ……それはちょっと」
エルはそう言うと、手の平を胸に当て身体を捻り背中を見せる。
「なにを恥ずかしがっている? 魔力回路を探すだけだぞ? 第一素肌に触れなくては、私でも難航するかもしれない」
……そう言えば男同士でも、えらく乳首を見られるのを嫌がる奴がいたな。
「まぁ、嫌がる者のを無理やり見るような趣味はないので、安心してくれ。それに用があるのは、背中側のほうだ」
「あうっ」
背を向けるエルの服を捲り上げ、有無を言わさず背中を露わにする。
そして私は右手の指を揃えて尻の少し上に向けてピンと伸ばすと、そのままエルの剥き出しの腰に指先だけを触れた。
「んっ」
「他人がやれば少し痛みがあるらしいが、私は痛くしない自信がある。それとこれはエルのためだ。少しだけ我慢をしてくれ」
「えっ!? くぁっ! 」
魔力やオーラと呼び方は様々だが、人は通常の瞳では視認出来ないエネルギーで薄っすら包まれている。
私は身体の薄皮一枚で形成されているそのエネルギーと素肌の間に、エルの魔力回路を探すため指の先端を食い込ませていく。
「アルドさん、これっ、くすぐったい、です」
「そうか」
そして私は、ズズズズッと手首までを一気に差し込んだ。そのため今私の手の平は、指を上に向けた状態でエルのヘソ下5センチの背中側に手の平を当てているような形になった。
しかし——
「……エル」
「はい!? 」
「少しだけ動くのを、抑えてくれないか?
これでは流石に場所が分からない」
「そんなこと言っても、くすっ、くすぐっ、ふふぁきゃっ」
エルは身体を左右に振りながら、背筋を丸めたり伸ばしたりして忙しなく動いているため、探る難度がかなり上がってしまっている。
だがそこで奇跡的にエルの魔力回路、全ての魔力回路を起動させるにあたって主となる天地万物支配を探り当てる事が出来た、のだが——
エルが常に動き回っているためすぐ見失うかもしれない。
そのため私は魔力回路を見つけたと同時に、軽く握り込んだ。
「アッ、アルドさん」
「どうした? 」
「なんか、……変な感覚です」
「そうか」
どんな感覚なのかは分からないが、大人しくなってくれるのは助かる。
しかしエルの魔力回路、これは想定外であった。
てっきり多少なり開いていると思っていたのだが、まさか完全に閉じた状態だったとは。
つまり初めて会った時、エルは魔力回路の恩恵なく感覚だけで私の回復魔法を避けた事になる。
これはかなりの逸材なのではないのか?
そんな人間、前世の世界では見たことも聞いたこともないぞ。それとも今の時代では、そこそこいたりするのだろうか?
情報が少ないため、今はこれ以上わからない。
しかし更に興味が湧いてきてしまう。
この眠っている魔力回路が開いていくと、どうなるのだろうか?
魔力回路、位置は大体へその下、丹田付近にある。
そのためケツを強打した時に覚醒したりする者もいるが、大体成長とともに自然に開く者や、戦いの最中攻撃魔法を受けたり、補助魔法や祝福を受けた弾みで開く者もいる。
そして私は元神学者。祝福についてさらなる深い研究を進めている際、偶然であったが奇跡を行ないながら強制的に下から二番目の魔力回路をこじ開ける術を習得している。
「……エル、もしかしたらお前は逸材かもしれない」
「えっ、そうなんですか? 」
「あぁ、そこでもう一つ試したい事があるのだが、今ここで私がしても良いだろうか? 」
エルが振り返りながら、疑惑の視線を投げかけてくる。
「……その、何をするんですか? 」
「人はみな魔力回路と言うものが備わっていて、多くの者がそれを眠らせたままになってしまっている。私はそれを、少し強引に開こうかと思うのだ」
「強引に、ですか? 」
不安げな表情のエルに要らぬ心配をかけまいと、私は自信満々に言ってのける。
「なに、私は初めて魔力回路をこじ開けるわけではない。逆に言えば、私ほど手慣れた者はいないだろう。言うならば、私はプロだ。
そんな私からされる事は、とても幸運な事なのではないのかとさえ思える。無論強引と言っても痛くはしない。エルはただ、身を委ねてくれるだけでいい」
「わっ、わかりました」
「よし、素直でいい子だ」
そして私は握り込んでいるエルの魔力回路に、奇跡を介して神力と共に私の魔力を少しだけ流し込んだ。
「あっ」
私とエルの魔力の質を同調、浸透させるため、すぐに魔力を流すのを止める。そしてエルの魔力が過敏に反応していたのが治ってきたのを見計らって、再度微弱な魔力を流し込み始める。
それから私はエルの反応を見ながら、強弱をつけて魔力を次から次へと流し込み始める。
「アルドさん、ボク、怖いです! なんかおかしくなりそうで、あう"ぅ"」
「エル、もう少しだ。もう少しの辛抱で、魔力回路が完全に開き機能し始める。それに怖がる事はない、みんな始めはそうなんだ。
私はあるがままのエルを受け止めよう。だからエルは身も心も私に委ね、ただただ感じる感覚だけに集中をしてくれ」
「でも、これ、んぐっ、んん"んん"っ」
そこで私は、口を真一文字にして耐えているエルの耳元で、そっと囁く。
「私の魔力を、エルの中に受け入れるのだ」
エルは両手で口元を抑え立つのがやっとだったのだが、その囁きの直後に背中を弓なりに反らし、何度か身体を小刻みに震わせるようにして痙攣をした。
この痙攣は魔力回路が開いた時に時折見られる反応。自身の内から流れ始めた魔力に、まだ馴染んでいない身体が過剰に反応してしまっているのだ。
その後エルはぺたんと座り込んでしまったが、もう少ししたらそのビビクッと言う痙攣も治るので、そしたら反応を見ながら確認のためにももう一度だけ魔力を——
『ドサッ』
物音に視線を向ければ、リーヴェが口元をあわあわさせながら少し離れた木々の間に立っていた。
そしてどうやら物音の正体は、リーヴェが仕留めてきたウサギたちを足元に落としてしまった音のようで——
「アッ、アルドくん、これはいったい何を? 」
「あぁ、これは——」
「アアアアアルドくん! 女の子の服の中に手を入れて、何をしてるんですか!? 」
ん? ……え?
先ほどの霧が嘘のようだ。
大柄なゴブリンを一騎打ちで撃破した私は、例の抜け道を通りリーヴェたちと合流。それから足早に村から離れると、闇夜の森へと足を踏み入れる。
闇夜と言っても空には星々が輝いているため、最低限だが明かりは確保されていた。
しかしあの黒い霧に包まれた村は、さながら地獄に迷い込んでしまったような錯覚に陥るほど、不吉なものに満ち溢れていた。
一度脚を止めると、ぐるりと周囲を見回す。
ここなら危険は無さそうだな。
私たちは一度状況を整理するため、そしてこの中で最も心に傷を負ったであろうエルをケアするため、月明かりの元で小休憩を行なう事にした。
私はたまたま見つけた水溜りで顔と手に付いてしまっていた血を洗い流すと、頃合いを見計らってエルに歩み寄る。
「エル、大丈夫か? 」
「えっ、はい、大丈夫ですよ? 」
意外にもエルは元気な声で応えた。あのオヤジはどうでも良いが、恐らくエルの知り合いの多くは亡くなっていると言うのに。
「ところでエル、あの村以外で頼れる人がいたりするか? 」
「ボクにはお父さん以外、誰もいませんけど? 」
「そうか、ならこれからどうする? 宿での言葉に嘘偽りはない。お前さえ良ければ身寄りがない者同士、これから一緒に行動をしないか? 」
「えっ? ボクなら村に戻ってお父……あれ? 
ゴブリン? なんで村にゴブリンなんかが——」
……先程からエルが言ってる事がチグハグだ。もしかしたら非日常が突然訪れてしまったため、エルは現実を整理出来ていないのでは?
そして暫くすると、エルが落ち着いた。代わりに元気が全く感じられない。
「ボク、また捨てられたんだったですね」
そこでエルの瞳が涙で滲む。
「リーヴェがいます! 」
リーヴェが凛とした声で言った。
それを間近で聞いたエルは、顔をしかめ、ついには大粒の涙をポロポロ流し始める。
リーヴェはそんなエルの肩を掴むと続ける。
「エルちゃんは、一人じゃないです! 」
「お姉ちゃん」
抱きしめ合う二人。リーヴェに包まれたエルは、ヒクヒク身体を震わせていたが、時間と共に震えは治っていった。
そして私は、顔を上げたエルと目が合う。
「まぁ、なんだ、私もいるからな」
するとエルが、少しはにかんだように見えた。
「アルドさんも、優しいですよね」
「私はそんなんじゃないよ。まぁ、これからよろしくな」
「はい、よろしくお願いします! 」
そして結局私たちは、今晩も森の中で野宿をする事に。と言っても、近くにゴブリンがいるかもしれないため、今日も私は熟睡出来ない予定だ。
まぁ、日中に少しだけ仮眠が取れれば問題ないか。
因みに就寝時、今まで通りの私、リーヴェと来て、新たに加わったエルがリーヴェの前に陣取る形で、座って引っ付いて寝る事になってしまった。
——翌朝。
朝日が昇る前に起床をしていた私たちは、早朝から森の中を進んでいる。
しかし仕方がなかったとは言え、無一文か。
ただお金がないからとは言え、ここ数日間森の中にいる事が多かったため、だいぶ森での生活にも慣れており心に余裕がある。
それは優秀な食料調達係のリーヴェがいるからこそ、生活出来ているわけなんだが。
そして現在、リーヴェが朝食兼昼食の匂いを探知したため狩りに出かけているため、私とエルはその場で待機してリーヴェの帰りを待っている。
「そう言えばエル、良い筋肉の付き方をしているよな」
エルの体つきは細いのだが、質が違うように感じる。
「えっ? ……ありがとございます」
「それで少し、いいかな? 」
「えっ? あっ」
やはりか、手にしてわかる。
エルの腕は贅肉のない筋肉の塊。そして切開しないと言い切れないが、恐らくこのほとんどがピンク筋肉のはず。
筋肉には種類がある。赤筋と呼ばれる筋肉は、長時間動かすのには適しているのだが、瞬間的な力を出すことは不向き。
逆に白筋と呼ばれる筋肉は、持続能力は乏しいが爆発的な力を出すのに優れた筋肉。
そしてピンク筋肉とは、これら赤筋と白筋の両方の良い特性を兼ね備えた、瞬発力と持久力に優れた理想の筋肉である。
そしてそして、エルの魔力回路である。すでにどの程度まで機能しているのかは分からないが、ヒールを感じ取るだけの才能の持ち主。
どれ程の素質があるのかは、やはり興味深い。
「上半身裸になって貰っても良いか? 」
「えぇ!? ……それはちょっと」
エルはそう言うと、手の平を胸に当て身体を捻り背中を見せる。
「なにを恥ずかしがっている? 魔力回路を探すだけだぞ? 第一素肌に触れなくては、私でも難航するかもしれない」
……そう言えば男同士でも、えらく乳首を見られるのを嫌がる奴がいたな。
「まぁ、嫌がる者のを無理やり見るような趣味はないので、安心してくれ。それに用があるのは、背中側のほうだ」
「あうっ」
背を向けるエルの服を捲り上げ、有無を言わさず背中を露わにする。
そして私は右手の指を揃えて尻の少し上に向けてピンと伸ばすと、そのままエルの剥き出しの腰に指先だけを触れた。
「んっ」
「他人がやれば少し痛みがあるらしいが、私は痛くしない自信がある。それとこれはエルのためだ。少しだけ我慢をしてくれ」
「えっ!? くぁっ! 」
魔力やオーラと呼び方は様々だが、人は通常の瞳では視認出来ないエネルギーで薄っすら包まれている。
私は身体の薄皮一枚で形成されているそのエネルギーと素肌の間に、エルの魔力回路を探すため指の先端を食い込ませていく。
「アルドさん、これっ、くすぐったい、です」
「そうか」
そして私は、ズズズズッと手首までを一気に差し込んだ。そのため今私の手の平は、指を上に向けた状態でエルのヘソ下5センチの背中側に手の平を当てているような形になった。
しかし——
「……エル」
「はい!? 」
「少しだけ動くのを、抑えてくれないか?
これでは流石に場所が分からない」
「そんなこと言っても、くすっ、くすぐっ、ふふぁきゃっ」
エルは身体を左右に振りながら、背筋を丸めたり伸ばしたりして忙しなく動いているため、探る難度がかなり上がってしまっている。
だがそこで奇跡的にエルの魔力回路、全ての魔力回路を起動させるにあたって主となる天地万物支配を探り当てる事が出来た、のだが——
エルが常に動き回っているためすぐ見失うかもしれない。
そのため私は魔力回路を見つけたと同時に、軽く握り込んだ。
「アッ、アルドさん」
「どうした? 」
「なんか、……変な感覚です」
「そうか」
どんな感覚なのかは分からないが、大人しくなってくれるのは助かる。
しかしエルの魔力回路、これは想定外であった。
てっきり多少なり開いていると思っていたのだが、まさか完全に閉じた状態だったとは。
つまり初めて会った時、エルは魔力回路の恩恵なく感覚だけで私の回復魔法を避けた事になる。
これはかなりの逸材なのではないのか?
そんな人間、前世の世界では見たことも聞いたこともないぞ。それとも今の時代では、そこそこいたりするのだろうか?
情報が少ないため、今はこれ以上わからない。
しかし更に興味が湧いてきてしまう。
この眠っている魔力回路が開いていくと、どうなるのだろうか?
魔力回路、位置は大体へその下、丹田付近にある。
そのためケツを強打した時に覚醒したりする者もいるが、大体成長とともに自然に開く者や、戦いの最中攻撃魔法を受けたり、補助魔法や祝福を受けた弾みで開く者もいる。
そして私は元神学者。祝福についてさらなる深い研究を進めている際、偶然であったが奇跡を行ないながら強制的に下から二番目の魔力回路をこじ開ける術を習得している。
「……エル、もしかしたらお前は逸材かもしれない」
「えっ、そうなんですか? 」
「あぁ、そこでもう一つ試したい事があるのだが、今ここで私がしても良いだろうか? 」
エルが振り返りながら、疑惑の視線を投げかけてくる。
「……その、何をするんですか? 」
「人はみな魔力回路と言うものが備わっていて、多くの者がそれを眠らせたままになってしまっている。私はそれを、少し強引に開こうかと思うのだ」
「強引に、ですか? 」
不安げな表情のエルに要らぬ心配をかけまいと、私は自信満々に言ってのける。
「なに、私は初めて魔力回路をこじ開けるわけではない。逆に言えば、私ほど手慣れた者はいないだろう。言うならば、私はプロだ。
そんな私からされる事は、とても幸運な事なのではないのかとさえ思える。無論強引と言っても痛くはしない。エルはただ、身を委ねてくれるだけでいい」
「わっ、わかりました」
「よし、素直でいい子だ」
そして私は握り込んでいるエルの魔力回路に、奇跡を介して神力と共に私の魔力を少しだけ流し込んだ。
「あっ」
私とエルの魔力の質を同調、浸透させるため、すぐに魔力を流すのを止める。そしてエルの魔力が過敏に反応していたのが治ってきたのを見計らって、再度微弱な魔力を流し込み始める。
それから私はエルの反応を見ながら、強弱をつけて魔力を次から次へと流し込み始める。
「アルドさん、ボク、怖いです! なんかおかしくなりそうで、あう"ぅ"」
「エル、もう少しだ。もう少しの辛抱で、魔力回路が完全に開き機能し始める。それに怖がる事はない、みんな始めはそうなんだ。
私はあるがままのエルを受け止めよう。だからエルは身も心も私に委ね、ただただ感じる感覚だけに集中をしてくれ」
「でも、これ、んぐっ、んん"んん"っ」
そこで私は、口を真一文字にして耐えているエルの耳元で、そっと囁く。
「私の魔力を、エルの中に受け入れるのだ」
エルは両手で口元を抑え立つのがやっとだったのだが、その囁きの直後に背中を弓なりに反らし、何度か身体を小刻みに震わせるようにして痙攣をした。
この痙攣は魔力回路が開いた時に時折見られる反応。自身の内から流れ始めた魔力に、まだ馴染んでいない身体が過剰に反応してしまっているのだ。
その後エルはぺたんと座り込んでしまったが、もう少ししたらそのビビクッと言う痙攣も治るので、そしたら反応を見ながら確認のためにももう一度だけ魔力を——
『ドサッ』
物音に視線を向ければ、リーヴェが口元をあわあわさせながら少し離れた木々の間に立っていた。
そしてどうやら物音の正体は、リーヴェが仕留めてきたウサギたちを足元に落としてしまった音のようで——
「アッ、アルドくん、これはいったい何を? 」
「あぁ、これは——」
「アアアアアルドくん! 女の子の服の中に手を入れて、何をしてるんですか!? 」
ん? ……え?
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