勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜
第13話、小柄な殺戮者
「おっ、なんだエル。客か? 」
酒瓶を手に外から入って来た酔っ払いのオヤジが、エルに親しそうに話しかけてくる。
もしかしてこいつが、エルの父親なのか?
そしてこの酒臭いオヤジ、リーヴェを見ると目つきが見る見るうちに変わっていく。
「なっ、なんで俺の家にダークエルフなんかが上がり込んでるんだ! 」
「お父さん、この人たちはお客さんだよ? ほらっ、お金もちゃんと貰ってるし」
「エル、貴様、俺が亜人たちが大嫌いってことをよく知ってるよな!? 拾ってここまで育ててやったのに、やっぱりお前もあいつらと一緒か! 」
喚きながらオヤジが握りこぶしを上げると、無抵抗なエルに向かって振り下ろす。
「なっ、なにしやがる!? 」
その拳を私が手のひらで受け止めたため、オヤジが私に食って掛かってきた。
と言うか今ので分かった。
このオヤジ、日常的にエルに対して暴力を振るっている。
私はオヤジの手を離すと同時に、エルを守るようにして二人の間に割り込む。
「お前に父親の資格はない! 」
「あぁん、元から父親じゃねぇよ! なに勘違いしてやがる? 」
「……えっ? 」
その心無い言葉に、エルが渇いた声を漏らした。
このクソオヤジ、子供が信じていたことを、面と向かった最悪の場面であっさり崩しやがった!
「お前がこの子の父親じゃないのなら、私がこの子を連れていくからな」
「バカ言ってるんじゃねぇよ。こいつは俺が王都で拾った浮浪児だ。ここまで育てるのに、たんまり金を使ってきた。だからその腰袋に入ってる金を全額よこしな。おおまけにまけて、それで勘弁してやらぁ」
「クズ野郎が」
「へっ、払えねぇのかよ? 」
「違うよ、私が言ってるのは、エルを前にそんなことをほざいているお前に腹が立っただけだ。ほらっ、金ならくれてやる! 」
袋を床に叩きつけると、私はエルの手を握り歩き出す。そして私たちは、床に這い蹲り袋から溢れた金を集めているオヤジを背に、宿の外へと出るのであった。
「エルちゃん、落ち込まないで下さい。これからはリーヴェのことを、お姉ちゃんだと思っていいですから」
「……リーヴェさん」
リーヴェはエルを包み込むようにして抱きしめると、時間をかけてゆっくり優しく頭を摩る。
そこで私は深呼吸を始める。
あのオヤジはムカつくが、今はそれどころではない。冷静な判断が出来なければ、アクシデントに対応出来ない。頭を切り替えなければ!
瞑想の初歩でありもっとも重要でもある深い呼吸により、雑念として湧き上がってくる怒りを自身から切り離すと、心を落ち着かせ冷静さを取り戻す。
次に視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、意識の六感をいつも以上に研ぎ澄まし辺りを見回す。
やはり霧が濃い。
村は完全に夜霧に包まれている。しかも少し焼け焦げたような匂いもしている?
あとは全方位回復、数メートル先くらいなら分かるが、それより先になるとやはり正確な探索は出来ないようだ。まぁ、全く使えないよりはマシか。
とにかくこの村から一度離れる。
一寸先が闇の中、特に耳に意識を傾け辺りを警戒しながら私たちはエルの案内の元、村の西側を目指し進んで行く。
もちろん明かりを灯して他人に居場所を教えるような真似はしていない。また出来るだけ建物の壁沿いを、そして建物が途切れたところでは、足早に建物の陰から陰へと移動を行なう。
「あの、あそこになにかが」
リーヴェの声に、彼女が指差す斜め前方の道を注視する。
確かになにかが地面にあるな。
私は二人をその場に待機させると、それが何なのかを確かめに一人歩を進める。
なっ、これは——
それは仰向けで地面に伏した男性なのだが、顔だけが少し離れた場所でうつ伏せになってしまっている。
つまり男性の首が切断されている。
そのため首元の地面には、真っ赤な血溜まりが出来ている。
服装からして、やられたのは村の人間か?
そしてこれをやってのけた奴は、十中八九私たちの敵となり得る。
私は二人に『あまり近付かないほうが良い』とだけ伝えると、西への移動を再開させる。
とそこで近くの民家の中から、悲鳴の後に皿が割れる音と木材の家具のような物が倒れる音が鳴り響いた。
その民家の主が、正体不明の何者かにより襲われたのかもしれない。そしてそれはつまり、今この民家の中に敵がいる事を意味していた。
敵がなんなのかを知る必要がある。
「二人とも、そこの陰に」
そうして私は、一人先行して悲鳴が聞こえた民家へたどり着く。用心をしながら小窓から中を覗くと視界の片隅、テーブルの陰で何かが動いているのが確認出来た。
なんだあれは?
それがなんなのかを確認するため、少し移動をして別の小窓から中を覗き見る。
あれは——
小柄な体躯に下半身だけを隠しているボロボロの布、そして不健康を通り過ぎて毒々しいイメージを抱かせる緑色の肌。
今世のゴブリンは初めて見るが、前世の世界にいたゴブリンにほぼほぼ似ているため、あれはゴブリンで間違いないだろう。
そして数匹いる奴らは、先ほどの悲鳴を上げたであろう床に転がる人物に、嬉々として棍棒やナタを振り下ろし続けている。
あの者は、すでに事切れているというのに。
酒瓶を手に外から入って来た酔っ払いのオヤジが、エルに親しそうに話しかけてくる。
もしかしてこいつが、エルの父親なのか?
そしてこの酒臭いオヤジ、リーヴェを見ると目つきが見る見るうちに変わっていく。
「なっ、なんで俺の家にダークエルフなんかが上がり込んでるんだ! 」
「お父さん、この人たちはお客さんだよ? ほらっ、お金もちゃんと貰ってるし」
「エル、貴様、俺が亜人たちが大嫌いってことをよく知ってるよな!? 拾ってここまで育ててやったのに、やっぱりお前もあいつらと一緒か! 」
喚きながらオヤジが握りこぶしを上げると、無抵抗なエルに向かって振り下ろす。
「なっ、なにしやがる!? 」
その拳を私が手のひらで受け止めたため、オヤジが私に食って掛かってきた。
と言うか今ので分かった。
このオヤジ、日常的にエルに対して暴力を振るっている。
私はオヤジの手を離すと同時に、エルを守るようにして二人の間に割り込む。
「お前に父親の資格はない! 」
「あぁん、元から父親じゃねぇよ! なに勘違いしてやがる? 」
「……えっ? 」
その心無い言葉に、エルが渇いた声を漏らした。
このクソオヤジ、子供が信じていたことを、面と向かった最悪の場面であっさり崩しやがった!
「お前がこの子の父親じゃないのなら、私がこの子を連れていくからな」
「バカ言ってるんじゃねぇよ。こいつは俺が王都で拾った浮浪児だ。ここまで育てるのに、たんまり金を使ってきた。だからその腰袋に入ってる金を全額よこしな。おおまけにまけて、それで勘弁してやらぁ」
「クズ野郎が」
「へっ、払えねぇのかよ? 」
「違うよ、私が言ってるのは、エルを前にそんなことをほざいているお前に腹が立っただけだ。ほらっ、金ならくれてやる! 」
袋を床に叩きつけると、私はエルの手を握り歩き出す。そして私たちは、床に這い蹲り袋から溢れた金を集めているオヤジを背に、宿の外へと出るのであった。
「エルちゃん、落ち込まないで下さい。これからはリーヴェのことを、お姉ちゃんだと思っていいですから」
「……リーヴェさん」
リーヴェはエルを包み込むようにして抱きしめると、時間をかけてゆっくり優しく頭を摩る。
そこで私は深呼吸を始める。
あのオヤジはムカつくが、今はそれどころではない。冷静な判断が出来なければ、アクシデントに対応出来ない。頭を切り替えなければ!
瞑想の初歩でありもっとも重要でもある深い呼吸により、雑念として湧き上がってくる怒りを自身から切り離すと、心を落ち着かせ冷静さを取り戻す。
次に視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、意識の六感をいつも以上に研ぎ澄まし辺りを見回す。
やはり霧が濃い。
村は完全に夜霧に包まれている。しかも少し焼け焦げたような匂いもしている?
あとは全方位回復、数メートル先くらいなら分かるが、それより先になるとやはり正確な探索は出来ないようだ。まぁ、全く使えないよりはマシか。
とにかくこの村から一度離れる。
一寸先が闇の中、特に耳に意識を傾け辺りを警戒しながら私たちはエルの案内の元、村の西側を目指し進んで行く。
もちろん明かりを灯して他人に居場所を教えるような真似はしていない。また出来るだけ建物の壁沿いを、そして建物が途切れたところでは、足早に建物の陰から陰へと移動を行なう。
「あの、あそこになにかが」
リーヴェの声に、彼女が指差す斜め前方の道を注視する。
確かになにかが地面にあるな。
私は二人をその場に待機させると、それが何なのかを確かめに一人歩を進める。
なっ、これは——
それは仰向けで地面に伏した男性なのだが、顔だけが少し離れた場所でうつ伏せになってしまっている。
つまり男性の首が切断されている。
そのため首元の地面には、真っ赤な血溜まりが出来ている。
服装からして、やられたのは村の人間か?
そしてこれをやってのけた奴は、十中八九私たちの敵となり得る。
私は二人に『あまり近付かないほうが良い』とだけ伝えると、西への移動を再開させる。
とそこで近くの民家の中から、悲鳴の後に皿が割れる音と木材の家具のような物が倒れる音が鳴り響いた。
その民家の主が、正体不明の何者かにより襲われたのかもしれない。そしてそれはつまり、今この民家の中に敵がいる事を意味していた。
敵がなんなのかを知る必要がある。
「二人とも、そこの陰に」
そうして私は、一人先行して悲鳴が聞こえた民家へたどり着く。用心をしながら小窓から中を覗くと視界の片隅、テーブルの陰で何かが動いているのが確認出来た。
なんだあれは?
それがなんなのかを確認するため、少し移動をして別の小窓から中を覗き見る。
あれは——
小柄な体躯に下半身だけを隠しているボロボロの布、そして不健康を通り過ぎて毒々しいイメージを抱かせる緑色の肌。
今世のゴブリンは初めて見るが、前世の世界にいたゴブリンにほぼほぼ似ているため、あれはゴブリンで間違いないだろう。
そして数匹いる奴らは、先ほどの悲鳴を上げたであろう床に転がる人物に、嬉々として棍棒やナタを振り下ろし続けている。
あの者は、すでに事切れているというのに。
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