勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜

北河原 黒観

第12話、エルの気持ち

 少年は怯えるような目で、私を凝視している。

「あぁ、今のは回復魔法だ。だから少し、ジッとしているんだ」

 そして今度は全方位回復を、少年の全身に向けて発動した。
 少年の目元の青痣は、見る見るうちに消えていく。

「えっ、痛みが、すっ、凄い! それに初めて魔法を見ました! 」

 西方の隣国マジェスタ王国は魔導国家で有名だが、優秀な者は私の妹のようにマジェスタの首都へ連れていかれ精密検査を受ける。そこでお眼鏡に叶えば晴れて魔導学院に入学し、その者はマジェスタ国民となる。
 そして紹介者はと言うと、レコ王国なら一生遊んで暮らせるだけの報酬金を受け取れると言う仕組みだ。

 妹のハルがどうなったのかは分からないが、検査に通っていれば私同様売られた事になる。

 まぁ話を戻すと、この売買システムは私たちが住むこのレコ王国全土で行われているため、優秀な者はみんなマジェスタへ行く。
 そのためレコに住む人が、魔法を使える人間を見たことがないのは無理もない話だ。

 少年に視線を戻すと、顔の次にお腹や腕を摩った後飛び跳ねて喜びを表現している。
 そして私に笑顔を向けると、ありがとうございますと何度も頭を下げてきた。

「気紛れだから、気にしないでくれ」

「いえ、そう言うわけには! そうだ、もう宿は決まってるのですか? 」

「いや」

「良かったら泊まって行かないですか? ボクの家、宿屋をやってるんです」

 ルーデの村に一泊か。どの道野宿でも半徹夜だから、どちらでも変わらないが——

 そこでリーヴェを見やると、彼女は意志の強そうな瞳で私を見ていた。
 ふむふむ、先ほど説明したばかりだからな、リーヴェもここは丁重に断る事が分かっているようだ。

「アルドくん、この子の家に泊まりましょう! 」

 なっ、なんだと!?

「えっ、いや、大丈夫なのか? 」

「はい! 」

 まさかリーヴェ、私のルーデの説明を理解出来ていなかった訳ではあるまいな?

 まぁ何かあれば、私が彼女を守れば良いだけの話なのだが——

 はぁ、ため息一つ。

「リーヴェがそうしたいなら、私は止めないよ」

「やったです! 」

 そこでリーヴェから少年へ向き直る。

「私はアルドで、彼女はリーヴェだ。君の所に一泊しようと思うのだが、今度は適正価格でよろしく頼むよ」

 すると少年が、へへへっと苦笑いを返す。

「ボクの名前はエル。それと今日は父さんが帰って来ないから食事は出せないけど、素泊まりならタダで良いですよ! 」

「いや、そう言うわけにはいかないよ」

「そうです! 」

 そうして招かれた宿屋は、看板は出てはいたのだがとても宿屋に見えるようか建物ではなかった。

 どう見ても少し横長な民家、だよな。
 まぁこのような田舎の村にある宿屋に、期待する方がどうかしているのだが。

 しかし——

「リーヴェと同じ部屋か」

「そっ、そうですね」

 私とリーヴェは、何故か今同じ部屋にいる。
 なんだかんだで割引をしてもらっているから文句は言えないのだが、……私とリーヴェは今晩この部屋に泊まるのか。
 まぁ、森での睡眠時は連夜引っ付いていたため今更かもしれないが、改まって同じ部屋と言うのは何か気恥ずかしいものがある。

 そこで部屋がノックされる。

「お邪魔しまーす。っと、まだセーフでしたね! 」

「ん? なにがだ? 」

 そこでエルは、如何にも悪ガキ然としたニシシッという顔で笑みを浮かべる。

「えっ? そりゃ男女が一つ屋根の下にいるなら、する事は決まってるじゃないですか」

「私たちは友人関係だ」

「えっ? そうだったんですか!? リーヴェさんのアルドさんを見つめる姿を見てたら、そうなのかなーと思ったんですけど」

 視線? そんな事で勘違いをしたのか。
 とそこでエルが最初に言っていた下品な意味に気がついたのか、リーヴェが口をあわあわさせ始める。
 と言うかリーヴェ、反応遅すぎ。

 そうして一人分の布団と二人分の桶に入ったお湯とタオルが運ばれた後、エルはまたしてもふざけた調子で『ごゆっくり〜』と言いながら退室をした。

 私はリーヴェがお湯に浸したタオルで汗を拭き取るあいだ、外で時間潰しをする事に。そして頃合いを見計らって部屋へと戻る。
 するとリーヴェは、床に荷物を広げていた。

 そう言えば森を移動中、リーヴェは木の実だけでなくせっせと草や引っこ抜いた根っこ等を鞄に詰め込んでいたな。
 私も汗を拭き取ると、そこでどれどれとリーヴェの隣に腰を下ろす。

「その葉っぱとか、どうするのだ? 」

「これはチカココの葉です。お腹が痛い時に効き目があります」

「へぇー、それじゃ隣の葉っぱは? 」

「シロランの葉です。解熱作用があります」

「凄いなリーヴェ。少しだけ違うような気がするが、今ここで二枚をシャッフルされたら、もうどっちがどっちなのか、私には分からないよ」

 それを受けてかリーヴェの口元が緩み、新たな葉を見せてくれる。

「これはリョクチヤ草で、万能薬とも言われてるそうです。煎じて飲むだけで大抵の病気は治りますし、毎日飲んでたら風邪にもかかりにくくなります」

 その草はそこらに生えてる雑草じゃないのか? 特に見た目の違いがわからないぞ。

 続いてリーヴェが鞄へ手を伸ばし、ひょろ長い根っこを取り出す。

「この根はグーモの根なんですけど、皮を剥ぐと食べれます。あと噛んだ時に少し甘みを感じるので、お腹が空いた時におすすめです」

「森の中って、色々と食べられる物があるんだな」

「森は宝の山なのです。それと私たちが住んでいたバーバラの町にも、食べれる野草がたくさんあったのですよ」

「へぇー」

 リーヴェは話しながらナイフを当て器用に表皮を剥がすと、中から出てきた白い部分を細かく切って先ほどのどっちかの葉っぱで包み私へと差し出す。

「アルドくん、どうぞです」

「あぁ、ありがとう」

 ひと口サイズなため、口に放り込みもぐもぐ。
 ん、これは——

 根っこの程よい歯ごたえを葉っぱがまろやかに包み込み、咀嚼を続けていくと葉っぱから染み出してきた少量の塩分が含まれた青々しさが根っこに染み込む事でブレンドされていく。
 この組み合わせ、根っこの甘みを葉っぱが引き立てているな。

「これ、美味しいな」

「気に入ってくれたみたいで、良かったです」

 リーヴェにダークエルフの血が流れているためこの村の飯屋に行かない方が賢明な私たちは、そんな感じで談話をしながら宿屋の一室でのんびり木の実やリョクチヤ草を煎じて作ったお茶、萎びたリンゴを今晩の夕飯として仲良く食べた。


 そして窓から見える景色が完全に闇に染まった頃、今までの和やかな空気が一変。
 そして私は、思わず立ち上がってしまっていた。

 なんだこの、突然空気がけがれてしまったような感覚は?

「アルドくん、その、なんだか胸騒ぎがします」

「……リーヴェも感じ取ったか」

 私は音もなく壁際に移動をし張り付くと、窓からこっそり外を伺う。

 ……霧が深い。

 そう、いつの間にか夜霧が出ていた。
 そこで全方位回復を使用したのだが、霧が邪魔をしているのか建物内以外はあやふやで機能しない。
 そこで再度辺りを注視していると、小さな何かが霧の中を結構な早さで移動をするのが見えた。
 大きさ的には子供くらいだったが、こんな夜中に出歩いているのか?

「アルドくん! ……悲鳴が、聞こえたです」

「なんだって? 」

 私には聞こえなかったが、リーヴェが言うのなら間違いないだろう。
 私は怯えた様子のリーヴェの肩に手を置くと、安心させるため真っ直ぐ瞳を見つめる。

「安心しろ。何があっても、私がリーヴェを守る」

「はい! 」

 そして今は現状を把握するためにも、村に詳しく何か知っているかもしれないエルのところへ行くべきだ。
 念のため荷物を纏め退室をすると、素早くロビーへ向かい声をかける。
 するとエルが緊張感がない感じで、頭をボリボリかきながら顔を出した。

「なにかありました? あっ、お湯の追加なら、青銅貨2枚ですよ」

 エルはわざとらしく今気がついたような素振りでそう述べると、いやらしく笑みを浮かべる。
 はぁ、このエロガキは。

「いや実はな——」

 そこで事情を説明しようとしていると、リーヴェが声を遮る。

「いたるところから、……悲鳴が聞こえてます」

 そんな青ざめたリーヴェを見て、エルから笑みが失われる。

「なにかあったんですか!? 」

「……まだなんとも言えないが、もしかしたらこの村が何者かによって襲撃にあっている可能性がある。それでなにか心当たりはないのか、エルに聞こうと思ってな」

「いえ、ありません」

「そしたら安全が確認されるまで避難するべきだが、この村には避難場所は設定されているか? 」

 するとエルは言いにくそうに話し始める。

「ありますけど、……余所者に言うのは禁止されてますので」

「大丈夫だ、私たちはその真逆に向かわさせて貰うからな」

「え? 」

「そういう場所は、誰かが喋ってしまうと一網打尽にされてしまう危険性がある。だからその反対を目指すために、方角だけを知りたいのだが」

「……わかりました。避難場所は村の東側にあります」

「そうか、そしたら西側には隠れる事が出来そうな建物とかはあるか? 」

「えーと、民家ばかりで、空き家で良いなら——」

「そしたらそこから村を出ると、なにがある? 」

「西側の外なら、ちょっとした林があります。……そこなら身を隠すくらいなら、出来るかも」

「なるほどな、ありがとう」

 そこでリーヴェから名前を呼ばれる。

「あぁ、わかってるよ」

 そしてエルを見据える。

「今から私は最悪の事態を考え行動をするが、お前もついて来るか? 私のそばを離れなければ、余程のことがない限り安全を保障する」

「わかりました。なんか一人は怖くなってきてるから、ボクもついて行きます。ただ——」

 そこでエルが言い淀んでから、話し始める。

「お父さんが近くの酒場にいると思うんです。だから一言お父さんにも話をしても良いですか? 」

 なんだ、親父がいないと言うのはそう言う事だったのか。子供を働かせて自分は一日中遊んでいる。最低の親父だな。

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