勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜

北河原 黒観

第3話、奴隷契約満了日

「ふぁ〜」

 朝陽が昇り首輪が取れた私は荷物を纏めると、世話になった使用人仲間たちに別れの挨拶を済ませた野地、玄関前の広場へ来ていた。

 しかしこれで何度目の欠伸だろうか?
 眠気は来ないが、とにかく頭の動きがかなり遅くなっているのが分かる。
 前世では三日三晩戦闘しても平気だったのだが、現世のこの身体はまだ本格的に鍛えていないため、徹夜は少し影響があるようだ。

 ……時間を作って早々に鍛えるか。
 そこでパオルが、屋敷の扉を開き現れる。

「くくっ、首にしっかり跡が付いてやがるな」

 私は結構無理をしていたため、その都度私の首は締め上げられていた。
 まぁそれを筋力で抵抗しながらも回復をしていたわけで、本来なら跡も残さずに回復が出来るのだが変に怪しまれては困るので、今回ビッシリと首輪の跡が残るようにしている。

 しかしパオル、跡を見るなり侮蔑の言葉を投げかけてくるあたり、流石と言うべきなのか。

 とにかく、と。
 私はすかさず身体を折り曲げて、不機嫌そうな奴に向かって挨拶をする。

「おはようございます、パオルさん」

 すると舌打ちをされた。
 まぁ、殴られるよりはマシだな。
 と言うか首輪が外れた今、私は暴力を受けた時に反撃と言う選択肢が増えている。もしかしたらそれを、パオルは警戒しているのかもしれない。

 奴隷の首輪。
 この首輪があるから購入者は奴隷に乱暴を出来ないし、奴隷は逃走や報復が出来ない。
 首輪がある事で築かれた購入者と奴隷の関係、一見すると良好そうだが、世の中の仕組みとはそうそう変わらない。

 購入者は首輪付き奴隷が奴隷相場の中では安いとは言え、それでもそれなりのお金を支払って購入している。
 そんな金がかかった者がすぐに死んでしまえば、痛手になるため乱暴には扱えない。
 つまりこの人権、購入者に働きかけて初めて機能するものであって、他者が見守ってくれると言う代物ではない。
 そのため購入者が莫大な資産家で奴隷を粗雑に扱って死のうが構わないという考えであれば、全くもって機能しない。
 実際問題、悪趣味な購入者にとっては、奴隷の首輪は奴隷を苦しめてくれる優れた玩具に成り果ててしまっている可能性すらある。

 そこで私は俯いたまま、チラリとだけパオルの顔色を伺うため視線を送る。
 しかしパオルの奴、結局あれから朝までぐっすりであった。しかもスヤスヤと。
 どう言うことだ? おかしい。
 呪文の構築、個々のワードの系統、流れも前世と全て同じだ。
 つまりこの呪文も、今世では真実の呪文トゥルースペルではなくなっているのか?

 それとも前世では、ワードの欠落分を精神力の強さで補填して発動していたとでも言うのだろうか?
 私が生み出した固有魔法なため、前世で他の人間がどうなのかもサッパリだ。

 ……いやまさか、前世と今世は別の世界なのか?
 しかし世界各国の名前こそ違うが、地図で確認した地形は寸分の狂いは無かった。それに言語もほぼほぼ同じで、風習なども多少の違いこそはあるが本筋は変わっていない。
 そのため私は、転生するのにかなりの時を要したのではと考えていたのだが。
 魔法が使えなくなっている原因も、これから調べなければならないな。

「アルドくん、おはようございます」

 見上げれば、リーヴェがすぐそばに佇んでいた。
 もちろんいつものメイド服ではなく、荷物を詰め込んだ四角い鞄を手にした質素な私服姿である。

「あれっ? 目の下にクマが出来てますけど、……もしかして!? 」

「いやこれは、……気にしないでくれ。私が悪いのだから」

 その言葉にリーヴェは小首を傾げる。
 とそこで、会話が中断させられる。

「お前ら、本当にこの屋敷から出て行くのか? 」

 パオルのその言葉に対して、私はリーヴェに目配せすると上半身を深々と前に倒す。
 リーヴェも私に習い続く。

「今まで、本当にお世話になりました」

 私は顔を上げたのちそう述べると、パオルが拳を振り上げるのが見えた。結局暴力を振るってしまうのか。
 そして思う。最後の最後で遺恨が残っては元も子もない。今までの我慢が無駄になってしまう。

 別に今更私を売った両親の事なんてどうでも良い。
 縁を切りたい、関わり合いたくない、ただ私を思い出して欲しくない。
 だからこそ、事を荒だてないよう最後の最後まで反発をしない。

 ……ただあんな両親でも、私を産んでくれた大きな恩はある。

 そして拳が振り下ろされた。
 私はその拳を頬に受けると、派手にぶっ倒れてみせる。

「アルドくん! 」

 取り乱したリーヴェは、そんな私に駆け寄り跪坐きざする。
 しかしそれが煽ってしまった、そのしおらしい姿が気に障ったのだろう。
 コメカミに青筋を立てたパオルが、跪いているリーヴェに向かい脚を上げるのが見える。

 そして彼女の背中を上から踏みつけようとする脚を、私は伸ばした右手で受け止めた。

「パオルさん、やりすぎです」

 すると我に返ったパオルが、明後日の方向を向いて舌打ちをする。

「お前らのような恩知らずは、野垂れ死ぬがいい! 早々に私の屋敷から出て行け! 」

 踵を返したパオルは、屋敷に入ると大きな音を立てて扉を閉めた。

「アルドくん、ありがとうございます」

「いいよ、それより行こうか? これ以上難癖つけられても癪だからな」

「はい! 」

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