「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「そうなんだよ。ほら、回るお寿司しか食べたことのない人がさ、そういうお金を手にした時に回っていないし、美味しいと評判の1万円くらいのお寿司屋さんに行ってさ」
 回っているお寿司も充分美味しいと思う。そもそも、幼い時か両親や親戚とかに連れられて行くお寿司屋さんは有名なお寿司屋さんと決まっていた。ただ、俺の場合、出し撒き卵(だと思う)が大好きだったので、そればっかり頼んでいた覚えがある。今思うとマグロに手が出なかったのは血を連想させる赤身が問題だったような気もするが。
 ただ、社会人になって――確かに俺の職場は「高級取り」と世間では思われているのも知っている。しかし、それは勤続年数がある程度経ってからで、5年以内は「薄給そのもの!」といった感じだし、3年位で退職する人も居る。大臣クラスと結婚して昔風とか、民間会社風に言うなら「寿退社」みたいなものだが、そういう人の退職金は20万円くらいなのが現状だ――同期と行ったのが回転寿司屋さんだった。
 そのシステムの面白さとか自分の好きなモノを延々と頼めるし、頑固職人という感じのオーナー兼板長といった人が「今日のお勧めは、中トロで、築地から良いモノが入っているので」とか「コハダが旬ですよ。とても美味しいので是非!」とか言われるのも子供心に嫌な気持ちがしたのも事実だった。
 回るお寿司屋さんは自分の好きなモノだけ取って食べることが出来るし、延々出し撒き卵寿司を食べていても誰も文句は言わないし、アイスクリームとかプリンとか――と言っても俺は甘いものに一切興味がないので取らなかったが――ラーメンなんかも流れているのも何だかアトラクションみたいで楽しかった。
「ああ、そういう『大人の味が分かる』人はそうでしょうね……」
 まあ、グルメというか舌の肥えた人はそうなんだろう。俺も吉野家の午前4時とかの味が大好きだった。
 味が滲みてとても美味しいと心の底から感動した覚えがある。
 いわゆるジャンクフートに分類されているようだったが、あれは本当に美味しいと思う。
「一万円のお店でとっても美味しかったら三万円だともっとだろうと思うのが人情だろ?だから、行って見たくなる」
 まあ、そうだそうなと思ってしまった。しかも宝くじで当たった億というお金を持っているのだから軍資金には事欠かないし。
「そして、三万円のお寿司が普通になってしまうんだってサ。
 そしたら……」

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