「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

143

「ココを――唇でするっていう以上のことも勿論もちろん含まれていると解釈したが、それも合っているか?」
 今時いまどき警察官の取り調べ――ちなみにウチの麻薬取締官も麻薬に関しては警官と同じ権限を持っているので新人の時には研修というタテマエの一種の社会見学で同席したこともあったし――でも急所を握られた上でのこんなキツくて冷たい口調で一方的に責められない。
 まあ、警官の取り調べの場合は二人一組で当たって、一人は高圧的に詰めていく役目を担いもう一人は「まあお前の気持ちは良く分かる」とかそういう同情的な言葉を投げかけるのがセオリーになっている。そうすると、後者の人間に心を開いて自白するというパターンが多い。
 オレも面白がって、いや社会勉強のために島田に頼んで殺人犯を取り調べたことがあるが、当然俺はギッチリと責める役目を担った。そしてもう一人のベテラン刑事は一昔前のお母さんのようにひたすら情で訴えるというなだめ役を延々としてくれて、無事に自白させて検察へと送ったという実績がある。
 後で聞くと、そのベテラン刑事は普段はガツンと責める役を担当していてそっちの方が得意だったらしいが、俺の責め方には関心していたらしい。
 まあ、口では負ける気がしない自信は持っているものの、俺の恋人の冷たい眼差しや言葉が少なくなっていても怒っているというこの状態は口で解決しそうにない。
 しかも、一昔前の警察内部では外部に漏れたら「拷問ではないか」と人権団体が騒ぎ立てるような法律すれすれの取り調べをしていたのは事実だが、今は取調室の様子も録画・録音されるので男の急所をこんなにキツく握ることはあり得ない。それこそ拷問以外の何物でもないと思う。
「あのさ、美樹さんって素人だろう?だったらリスクもきちんと説明しろと言ったし、『そういう行為』を誘って相手が乗ってこなかったら次に何を確かめるか、言わなくても分かると思ったオレがバカだった。
 そんなことは【心臓外科】専攻のハズの香川教授でも当然分かって、実行していたと思うぞ?
 それを精神科の人間にいちいち説明しなければならなかったのか」
 え?と思ってしまう。しかも、精神科には疎い――と自分で言っていた田中先生ではなくて――医学分野で詳しくないのは産婦人科だけではないのかと、確かめたわけではないが個人的に思っている香川教授の名前を出してくる辺り、普段は温厚な精神科医という仮面ペルソナをかぶっている俺の恋人の容赦ない詰問に耐えていた、ついでに掴まれたままの急所の痛みにも。
 すると。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品