「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「お帰り。で結果はどうだった?」
 成功した場合は田中先生にもキチンと知らせる予定だったが、今日のは特に知らせるべきことはなさそうな気がした。
 ただ、俺の恋人は何と言っても優秀な精神科の医師だったし、それ以上に俺が怒らせると怖い人間のリストの一番上に居る人だ。
 ちなみに最下位は香川教授で、彼が怒るような性格ではないのは既に分かっている。まあ、田中先生絡みだとどんな反応を見せるかは不明だったしデータ不足で何とも言えないが。
 テーブルの上には美味しそうな稲荷寿司いなりずしが茶色に光っている。
 俺の恋人はこんな料理を作れない――何でも香川教授お手製の料理が物凄く美味しかったとかで感動していた。ただ「オレには作れないし、香川教授って凄いよな!!あのマンションに居た時は精神科の医師になって本当に良かったと思った。一生あそこであんな美味しい料理を食べていたい」とか言っていた。
 そしてお鍋の中には、ハモの入ったお吸い物が入っていた。
 多分、ご近所の方が届けてくれたのだろう。
 俺的には別に吉野家でもココイチでも良かった。スミレの花のような可憐な人と向かい合って食べるのなら、何だったらカロリーの物凄く高い――ウチの省が「メタボになりやすい食べ物」とリーフレットに書いてあるケンタッキーとかマクドナルドのビックマックでも――喜んで食べる。
 まあ、俺もメタボリックシンドロームになってしまわないように、一人の時とか東京に行った時には出来るだけ安くて、しかも野菜たっぷりの健康食をウリにしている店に行ってはいる。
 ウチの省がメタボ撲滅を掲げている以上――と言っても体重と胴回りを計るだけの検査に「医師が居なくてはならない」という決まりを作ったのは医師会に忖度そんたくしたか、圧力に負けただけで、あんなものは医師が居なくても保健師だけで事足りると思っていて全面的には賛成しているわけではなかった。
 ただ、将来の事務次官を目指すにはこの体重をキープしておいた方が良いのは確かなので、俺の恋人が好きな――しかし、あんなにジャンクフードが好きで良く食べている上に、生クリームとバターたっぷりのケーキを嬉しそうに大量に食べている。俺が食べれば確実に胸焼けを起こすレベルだ。
 それなのに何故こんな華奢な身体のラインが維持出来るのか不思議だった。
 ちなみにケーキバイキングに行った時――行ったというか連行された――楽しそうな香川教授と、仕方なさそうな表情の田中先生と合流した。
 その時は。

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