「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 美樹もフェラーリとかお医者さん――実態は激務続きとか勤務時間の長さでワリにあわないことも知悉ちしつそているが――「お金持ち」の香りがするモノ達を提示した時とは異なってテンションが低めだった。
 まあ、誰だって高速道路に置き去りにされたらそうなるだろうが。
 そして美樹は美樹なりにミッションの重要性も分かっている感じなので、それが成功したかどうか気になっているのかも知れない。
 香川教授に対してコトもあろうにセクハラを仕掛けてきたウチの省の面汚つらよごしに10倍返しした時には、教授と入れ替わった美樹が昔ながらの料亭の別室に――つまりは「そういう目的」に使う部屋だ――誘い込んだ時とは違って「成功の実感」がないのだろう。
「いえ、良いサンプルが取れましたよ。有り難うございます。知人は必ず紹介しますので、後は美樹さんが頑張って下さい」
 男女の仲でもそうだが紹介=交際ではない。その点は美樹の努力に掛かっているわけだが、その後恋人パトロンになる自信はありそうだった。
 まだその人に紹介すらしていなかったので――人には好みがあるのは当たり前だ――なんら根拠の有る自信ではないだろうと思いつつ、美樹が「功利的」な微笑みを浮かべているのを内心では呆れつつ見ていた。
 確かに香川教授と見てくれは似ている。教授と異なってメスを入れた顔ではあるものの。ただ、教授の場合はこういう表情を絶対浮かべないだろうな……とか、細身は細身でも程よいバランスで筋肉のついている教授とは異なって、筋肉は「そういう行為」の時しか使わないのではないか?と思わず疑ってしまう美樹の華奢な身体をそれとなく観察していた。
「ん、もう大丈夫。紹介の件宜しくね!!
 ところでマサさんはこれから暇??」
 何だか木天蓼またたびを目の前にした猫のような光を湛えた美樹――多分、ホテルの部屋で一緒に過ごしたいのだろう、自惚うぬぼれではなければ。
 ただ、一般道でもそうだろうが、高速道路に下ろされた美樹には同情してしまうが、作り物の顔には興味がない。
 教授と医局の慰安旅行の件で田中先生抜きで会った時には「あわよくば」という気が一瞬でも起こったのは事実だが、容姿もさることながら「反応を見たい」という気持ちの方が勝っていた。
 それに教授は「天然モノ」の恵まれた容姿だったし、しかも田中先生には多少含むところも当時は有ったので。
 だから。

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