「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 グリーンティに成り下がってしまったかき氷を若干の恨めしさと共にストローで飲んでいると、スーツの中に籠った熱気がスーッと冷めていくような気がした。
 この店の味なのか、それとも俺の見てくれのせいなのか知らないが抹茶の苦さの方が際立っているのもポイントが高い。俺の恋人は甘党なので俺も以前よりは耐性が出来た気がするが――多分田中先生もそうだろう――やはり苦みとか塩味の方が好みなので仕方ないだろう。
 美樹はフェラーリに乗ってご機嫌かも知れないが、あまりはしゃぐと香川教授とのイメージからは大きく乖離かいりしてしまうのが懸念材料だった。
 田中先生と一緒に居る時でも――俺が知っているのは「ダブルデート」というか、ケーキバイキングに無理やり参加させられた時が最も長く二人の様子を見ただけだったが――教授は確かに大輪の花のような笑みを浮かべていたものの、自分から話すようなことはせずに俺の恋人や田中先生の言葉に頷いたり最低限の言葉を返すだけで静謐なイメージを崩すことは皆無だった。
 多分、田中先生と二人きりのデートでも同じようなモノだろうな……と思わせるには充分過ぎるほどだった。
 多少は笑い声などを立てるだろうが――田中先生は冗談のセンスも有るし、何よりトーク力の持ち主なので恋人を「そういう意味」でも楽しませることが出来る人だ――けたたましく笑っている香川教授というのは想像出来ないし、そういう性格でもなさそうだというのが俺の読みだった。
 美樹にもその点は釘を刺したものの、成金趣味極まりない真っ赤なフェラーリに乗ったことと、田中先生が自分の科の同級生だった研修医に聞いた井藤の性格から運転したら絶対にスピードを法定速度などを完全無視して突っ走るだろう。フェラーリのエンジン音とスピードが美樹にとって「非日常」というかハイテンションになってしまうと演技を忘れ去ってしまう可能性も高い。
 外見のみで「一応は」気に入られたようだが、性格があまりにも違い過ぎると井藤がコレクションしているという「香川教授の全て」みたいな革製のノートの相違に井藤が興ざめしてしまう可能性も高くなるだろう。
 成金趣味全開のフェラーリの「魔力」で美樹のエルメスの魔法が解けなければ良いと心の底から願ってしまう。
 白玉の弾力をかみ締めながらそう思った。
 すると。

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