「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 新しい恋人パトロンを紹介すると言った効果か、美樹もタイアの講釈をさも関心と感心で聞いているようだった。美樹の場合、フェラーリでもランボルギーニでも「助手席に居る」という快感しか――これらのド派手な車に乗っていれば誰だって羨望か嫉妬かの視線を送る――重きを置いていないのは確かだがタイアなんて(付いていればいれば良い)と思っているのは間違いないだろう。それが井藤の話に熱心に頷き、時折、綺麗な笑みを浮かべてさも興味が有るような感じだった。
 まあ、現在の恋人の方が(自分のためにお金を出してくれる)と判断したら美樹もそちらで頑張るだろうが。例えば10億円の「お小遣い」を持っていたにしろ、美樹に使ってくれなけば、1億円「しか」持っていなくても美樹のお物欲おねだりを全部聞いてくれた方が良いというメンタリティなのだから。
 しかし、香川教授はこれらの車を見ても、そして笑顔を振り撒くことはないだろう。
 田中先生には多分ふんだんに笑みを浮かべているだろうが、俺と交渉のテーブルに付いた時も至って無表情というか清流の感じで淡々としていた。多分、内心では緊張していたとは思うが。その証拠に田中先生から貰ったダイアモンドの指輪を付けて来た。
 田中先生に俺は散々「小さい」とか言ってきたが、それは揶揄やゆと言うか単に田中先生のムッとした表情を見たかっただけで、本当は品質の良いモノだということは分かっていた。
 
 とにかく、香川教授はそんなに満面の笑みを浮かべたりはしない!!と固唾を飲んで見ているしか出来ないのが歯がゆい。
 ただ、美樹はお世辞にも賢いとは言えない感じだったので「台本の設定」を詳しく説明をするとパニックになることは請け合いだ。
 美樹と井藤研修医はどうやら意気投合したらしい。井藤がさっさと運転席に乗り込んで「早く乗れ」とでも言ったのか、美樹は急いで「自分で」ドアを開けていた、不満そうに。
 多分、助手席は開けてもらうモノと思っていたのだろう。見てくれが偶然の一致だろうが香川教授と似せているので男たちからチヤホヤされることに慣れているのかもしれない。
 ただ、香川教授は顔を美容性外科医に作って貰ってはいない。
 それは自信を持って断言できる。
 何故なら。
 

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