「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 同性と「そういう関係」を持っても良いという人間は両手の指でも数えきれないほど知ってはいる。
 しかし、香川教授に似ているという条件が加わると美樹しか居ないので、他の人間はそもそも戦力にはならない。
 だから井藤の毒牙からーー美樹の場合は「そういう関係」でお金になるのだったらどんな人間でも良さそうな感じだが、香川教授の場合はそれこそ精神を崩壊しかねない。当時の厚労省ナンバー2に「たかが」キスをされたくらいであれだけのショックを受けていた過去も知っているし、こういう嗜好の持ち主には奔放な人間の割合がーーデータとしては算出されていないが経験則だーーかなり多いので「嫌われていない」と判断していた香川教授に「そういうお誘い」をしてみたことがあった。あわよくばという気持ちと、どう反応するかを見たい気がして。
 すると、耳を疑ったような感じのリアクションで返された。
 美樹も羨むようなーーだからこそこういう顔に作ってもらったのだろうーー極めて整った容姿なのでモテたハズで、今は田中先生一筋なのは見ていて痛いほど分かるが過去に告白されたりしたことはないような感触だった。
 小中高が共学だったと聞いているので、それでか!とも思うのだがーー男子校かつ山奥での寮生活を余儀なくされる新興の進学校の場合はたとえそのケが無かった人間でも、そっちに走ってしまう人間が多数居ると聞いている。卒業後は何食わぬ顔をして結婚して「普通」に戻る人間も居れば、病みつきになって「こちら側」に留まっている人もいると東京の行きつけだったゲイバーで聞いた。
 まあ、国公立大学最年少の教授職で、近づき難い高嶺の花というのは分かる上にーーそして井藤はそういうところにも執着しているのだろうーー教授の醸し出す雰囲気がどことなく人を拒否しているような感じも受けるのでそのせいかも知れないが。
 多分それは社会的地位の高さではなくて、生まれもったモノのような気がするし。
「とにかく、専門用語を単語で話す。相手の知識に感心したフリをする時にも『スッゲー!』とかではなくて『大変勉強になりました』『流石さすがです』『素晴らしいです』このくらいの言葉で、しかも顔には薄い笑みを浮かべて言ってくださいね」
 美樹がぞんざいな感じで頷いている。
 確かに演技指導が美樹的にはウザかったのかも知れないが、要は井藤の矛先が美樹に向いて貰わないとこちらが困るので仕方ない側面ではある。
 そして。

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