「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 俺も含めて少数派の嗜好の持ち主の場合、お試し目的で「そういう行為」を楽しむことが出来るのも知っていた。
 香川教授も同類だと踏んでいたので戯れに誘ってみたら思いっきり不審そうな感じで断られてしまったが、経験則からしてそういう人の方が珍しい。まあ、あの好みが物凄くうるさそうな田中先生はそういうところを含めて愛しているのだろうが。
 俺の恋人は。潜在的にそういう要素が有ったのは確かだが、俺と「そういう仲」になるまでは漠然と多数派だと思い込んでいたので奔放さはなかった、幸いなことに。
「まあ、確かにお世辞にもイケメンとは言えませんよね。
 しかし、若いので何回でも楽しめます。そういう点では新鮮味が有って良いのでは?」
 美樹の恋人パトロンの年齢は聞いていないが、経済力も人並み以上に有る感じなのでそこそこの年だろう。
 若くして資産を持っているーー香川教授などはまさしくそういう条件に当てはまるがーーとかの場合、美樹だったら絶対に自慢するだろうし。
 しかし、そういう言葉が一切ないということは常識的に考えて働き盛りで「そういう面」でもエネルギッシュな40歳以上と考えるのが妥当だろう。ただ、加齢と共に持久力はともかく硬さとか回数も衰えてしまうのも事実だった。
 井藤はお世辞にも外見的に誇れるタイプでもないし、性格も同様だろう。いや、性格云々うんぬん以前に精神疾患持ちという最悪さだ。
 セールスポイントがほぼ皆無に等しいけれども、何とかして美樹をーー知り合いのお金持ちに紹介するだけではどうやら納得していないほど金銭に執着が有ることは今日一日の大散財で思い知らされたーーその気にさせなければならない。
「それはそうだけどさ。ドーテー君にガッツかれるのも正直気が進まないなぁ。やっぱりテクニックはある程度持っていた方が良いじゃん。
 雅さんもそう思うだろ?」
 そちらの立場になったことも、なりたいとも思ったことはないので全く分からなかったが、同意を求めている美樹に異を唱えるほどバカではない。
「まあ、テクニックはなさそうですね。しかし、井藤は『若くして』自由に使えるお金をふんだんに持っていますよ。何しろ愛車にはフェラーリまで含まれているとか。
 もしかしたら、記念日に花束付きのフェラーリとか贈ってくれるかも知れませんよ。お付き合いが続いた場合には」
 井藤がそんなキザなことをするとは到底思えないが、美樹をその気にさせるために取り合えずそう言ってみた。
 案の定。

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