「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 美樹のこういう拝金主義的な性格は却ってこういう作戦には役に立つ駒だった。まあ、田中先生がこれ以上心配しないようにだけはしたいとは思ったが。
 井藤という研修医がこの造花イミテーションに惹かれてくれると良いのだが。
「なるべく早くでお願いします。京都に来て頂くという点と、後は飽きた時の『恋人』探しに協力するという条件で宜しいんですよね……」
 香川教授とは異なったベクトルというか、永遠に交わらない次元の話のような気がするけれども、美樹は美樹なりの修羅場をくぐって来ていることは知っている積りだった。
 香川教授が太陽の元での真っ当な斬った張ったの世界で生きていることは充分知っているが、美樹も夜の月も射さない歓楽街の闇でという違いは有ったが、井藤という夜の方が似合いそうな人間にははるかに耐性が有りそうだ。
『了解。で、どんな人を紹介してくれるの?』
 打算的な感じで光る美樹の瞳は将に獲物を狙う猛禽類のような感じだった。
「美容整形外科医院経営の医師ですね。銀座と六本木にクリニックが有ります。芸能人とか有名人がこっそり訪れることで有名ですよ」
 その人間は――と言っても臨床医にも研究医にもなっていない俺が言うのも何だか違うような気もするが――防衛医科大学という国民の税金を一般の国立大学医学部よりも投入されているところを卒業したにも関わらず自衛隊とも全く関係ない美容整形のクリニックを経営しているので、金蔓にするには良いだろう。
『え?その人と親密な関係になったら、タダで顔を綺麗にしてくれるかな?』
 とことん楽天的かつポジティブな反応に思わず笑いが漏れてしまう。香川教授の慧眼けいがんで美樹がそういう手術を受けていることが分かるのだから、その道のプロが見れば更に分かってしまうという点は考えないようだった。まあ、そういう人間だから戦力になるのだが。
「それは交渉次第ですね」
 愛人というかパトロンにそういう楽屋裏を見せて良いのかどうかイマイチ分からないが、美樹が良いと思うのであればそうなのだろう。
『ああ、でも今は客単価が下がっているんで、美容整形病院も大変だって聞くけど?』
 値踏みをされたような気がした。確かに保険適用外の美容整形は値崩れを起こしやすいし実際各種の注射代金などが下がっているのも事実だった。
「それは大丈夫だと思いますよ。
 あの世界も固定客がしっかり付いて、しかも女優の何某なにがしさんとかそういう人が通っているクリニックらしいので、需要が有るみたいです。
 具体的には明かせませんが美樹さんも知っている美人女優さんが普通に待合室に座っているらしいです」
 すると。

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